19話 夏休みが始まった
終業式の日。体育館で中学の頃と大差ない流れで、校長先生のテンプレの挨拶。
もう今の時代なら教室でリモートでも良くね?とか思ってしまう。
蒸し暑い体育館なら尚更……で、どうせ話なんか半分も誰も聞いちゃいない。
教室に戻ると担任が確認するかのようにリピートし、チャイムで一気に解放される。
……夏休み!明日からだけど今の瞬間から始まる空気だ。
「課題はできるだけ早めに済ませちゃおうよ」
逸乃はカナのことを心配して言っている。
「夏休みなんだから俺の家でなくてもいいだろ」
なんとなく離れで、広い部屋のタクん家がいい気がしてしまう。
「カナが電車でくると結局タクの家が便利なのよ」
逸乃がタクの家に行きたがるのはなんでだ?
「まぁ、別に断る理由もないけど」
タクは俺をチラッと見たが俺も言い分は無い。
「私は補講受けるのと、健一の仕事手伝って少し小遣いもらう……他は遊びたい」
カナは逸乃にべったりだな。俺と取り合いになるな。
「俺はバイトのシフトが明日出るからその都合次第」
「タク、バイト決めたっちゃ」
「夏休みだけって約束で母さんの行ってるコープの朝の品出しに数回行くだけ」
地味なバイトだな。でも決まってるならいいな。
「そうそう、言い忘れてた、逸、私の婆ちゃんがバイトの話、言ってた」
「婆ちゃんが?なんやろ」
「婆ちゃんの知り合いのところが忙しくて誰か手伝ってくれないかって言ってきたっちゃが。私が夏休みってことで……」
「それ、俺も行っていいと?」
面接やら面倒無しで逸乃と一緒なら楽勝、と思った。
「ただ、めっちゃ忙しいんやて。あと朝早いのと……」
「逸乃、朝苦手じゃん」
「ん~でも近所らしいし、いっかなぁ」
「逸乃っ、んじゃまたLINEするね、明日ねっ」
カナが校門を出たとこで別れる。
「明日カナとどっか行くと?」
「うん、一緒に買い物の約束してるっちゃ」
女子同士なら良し。金岡はどうなってるんだろう。
「逸乃の言うバイトってなんなん?」
タクが話を戻した。
「ビニールハウスでトマトやらキュウリの収穫なんよ」
「へっ?トマト?」
「キュウリ?」
俺とタクが同時にツッコんだ。
「夏にビニールハウスって過酷だな」
タクが苦笑する。
「だから朝早くにするっちゃない?」
そう言う逸乃を毎朝起こしに行くことになりそうだな。
初バイトが野菜の収穫かぁ……なんか思ってたのと違うけど……。
夕方にさっそく説明を聞きに行くことになり、俺と逸乃は婆ちゃんに連れられて農家さんの家に行く。
「新河さんとこのお孫さんやね、今年に戻ってきたっちゃろ」
農作業から戻ってきたおじさんが婆ちゃんに話しかけてきた。
俺と逸乃は軽く頭を下げて突っ立っている。
「なんやぁ、逸心くんまだ逸乃ちゃんにくっついとるんね」
後に来たおばさんが笑いながら言う。
まぁ、近所だからな、知ってる人は知ってる。
「ほれ、早よ話したって。忙しい言っちょったやろ。夏休みや、使たらええ」
説明を聞いてると、他にも手伝いがいるので週に3回くらいでいいということと、ビニールハウス内での作業は汗をかくので水分補給に気を付けること、草刈りもあるとか……。
他の農家さんのところにも手伝いに行くことになるかもしれないということで、週ごとにシフトは決める、時間は早朝で6時には来て欲しいとのこと……逸乃大丈夫かよ。
「最初は慣れるまで大変やろから、気楽なお手伝いで来たらいいと」
説明を聞いた後におばさんからトマトとキュウリが入ったビニール袋を持たされた。
「時給1100円で6時から9時くらいな、とりあえず、月曜日にウチ来て」
おじさんはそう言って逸乃の婆ちゃんと喋りだした。
逸乃の婆ちゃんはここらでいろんな人の相談にのったりしてるから顔が広い。
「帰ろっか」
話が長くなりそう、と察した逸乃が俺に声をかけた。
2人でおばさんの方に挨拶して家に帰る。
「逸乃、モーニングコールしてもいいと?」
思いついたまま言ってみた。
「ん~目覚ましはかけるけど、母ちゃま、朝から怒らすのも嫌やし、頼んでもいいと?」
「わかった」
口元がゆるんで一言で返した。
俺、朝からラブコールするっちゃ。
「じゃ、月曜日ね。うちに迎えにきよるよね?」
「もちろんよ、日曜日は早よ、寝ろよ」
なんか知らんけど笑いがとまらんっちゃ。
手を軽く振って別れる。
帰宅して母さんにもらった野菜を渡し、蒸しかすを食べながらバイトの説明をした。
「いいバイトやね。糖度の高いトマトやから美味しいんよ」
またもらえるとは限らんやろ。
「また手も洗わんと食べちょる、なにニヤニヤしとると?」
「別に笑ってないっちゃ」
口元がなかなかしまらん。ラブコールって……。
自分で思いながら笑えて止まらん。
「逸乃ちゃんとバイトするのがそんなに嬉しいと?ビニールハウス舐めとるね」
確かに過酷とは聞いたが今はそれがわからんどころか違うことで頭が占領されとる。
「お手伝い言われてもお金もらうっちゃが、きちんとしんといけんよ」
夏休みの遊び代が稼げて、後のデート代にも残しておいて、誕生日にはカッコつくものが買える、と、いいことしかないっちゃ。
課題も逸乃と一緒にして、この夏休み、かなり充実しそう。
……翌日、カナと買い物に行ってるハズの日。
俺はまた逸乃が部屋に来る想定で模様替えをすることにした。
今度はアルバムを一緒に見たりしようか、とアルバムを開く。
過去の思い出ばかり話してると幼馴染以上には進展しづらくなるのか、とも思った。
今の俺をアピールする方がいいのか?
バイトでいいとこ見せるか……。
俺のいいとこ……んなもん自分でわかるか。
昼過ぎに父ちゃんが久しぶりに仕事から帰ってきた。
晩御飯は旬のメヒカリの唐揚げだった。
父ちゃんが酒のあてに好むのでこの時期になるとよく食卓にあがる。
「なぁ、母さん、俺がアピールできることって何があるっちゃ?」
「逸のいいとこ?……なんやろ」
……即答してくれよ。
「よく食べるとこかな、好き嫌い少なかもんね」
それはアピールしたくないな。
「母さん、他にないと?」
こんな聞き方するのが切ない。
「逸のいいところは、真面目なとこじゃない?黙々ときちんとしようとするとこ……」
褒められてるのはわかるけど、今イチ、ピンとこないなぁ。
「逸、カッコつけよう思うと逆に失敗するっちゃが」
ビールから焼酎に切り替えた父さんが口を挟んできた。
ごもっともな意見に何も返せず、口にメヒカリを放り込む。
「お父ちゃん、今度休みに逸と逸乃ちゃん、どっか連れてってあげてよ」
追加の揚げたてのメヒカリを差し出す母さん……覚えててくれたっちゃ。
「どこって……何して遊ぶっちゃ?釣りとかか?」
「いや、具体的にはまだ決めとらん」
「まだ日があるから考えちょけ」
酒臭い息を吐きながら。
「逸のいいところは真っすぐなとこやろ」
父さんにそう言われて、それをどうアピールするんだよ、と思うしかなかった。
「なぁ、父さん、父さんは昼間に酒飲むことって無いっちゃ?」
急にタクのお父さんを思い出した。
「んん?昼間に飲む人の事か?それは理由があるんだろ」
「理由があると?」
「ただ、好きで飲むっちゅうのもあるやろけど、大抵理由があるとよ。仕事の関係で昼間に眠りたいとか、ストレスが強くて考えたくないことがあるとか……」
「酒を飲むと眠れると?」
「酒はいろんな使い方があるとよ、飲んでみるけ?」
「お父ちゃん!」
母さんの一言で俺がビクッとした。
「冗談やて。……まぁ、逸もそのうちわかるけ、急がんでええ」
父さんは笑って焼酎の二杯目を母さんに催促した。
タクも深刻な顔してなかったから普通なことなんかな。
日曜日の夜、いよいよ明日は初体験であるバイトと、逸乃へのラブ……じゃなくて、モーニングコールに緊張がなかなか拭えないでいた。
スマホで、寝坊しないように3段階で目覚ましをセットし、枕元に置く。
更に小学生の頃から使っている目覚まし時計もサブでセット、起きて止めるように机の上に置いた。
緊張して言葉に詰まらないようにカンペも作った。
明日のメインイベントは何?と自分に問いかけてニヤける。
着ていくジャージOK,スポーツ飲料は冷蔵庫に2本確認済、タオル入れた……と目につくものは指差し確認した。
布団に入る。
……目が冴える。眠れねぇ、やべぇ。
時計をチラ見する、大丈夫、まだ10時前だ。
明日は慎重に行動しよう。
最初が肝心かも……考え過ぎんほうがいいか。
夏休み始まったばかりなのに、何に急かされてるんだか……。
……で、明日、うまくこなしていけるやろか。
久しぶりに戻った感……これから夏休みです……。投稿し忘れが無いように投稿予約で早めに上げました。 次回は来週の金曜日、7月10日の20時予定です。




