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20/23

番外編:小野寺さんの物語(中半)

私は自分が迂闊(うかつ)なことを宣言したことに気づかされた。

アイドルほどではないだろうと思っていたが、日本のアニメ、普通に世界から評価高い……ということで……声優もしかり、だ。

3人揃っての晩御飯時。

「専門学校……福岡にしかないっちゃ」

弱音っぽくママに言った。

「いいやん、夢は追いかけるためにあるんやろ」

と返され、全部ママが出してあげる、ではなかった。

姉ちゃんも専門学校だからな……。

まさに、“夢と現実”になる。

「康っちんが、バイト行ったら喜ぶって」

「えぇ、マジでママ言うてるの?」

「姉ちゃんのバイト、GUで近くだし、時間合ったら送ってったげる」

「ほらー美鈴、決まりやろ」

「学校にバレるって」

この二人推すなぁ……。

「美鈴、接客はマスクするし、宴会や披露宴は薄暗いでわからんっちゃ」

「なんなら、姉ちゃんが眉毛太く描いたる」

3人でどっと笑う。

「それ、面白いことない?声かえていろんなウェイトレスになるとか」

ママはいつも飛んだ発想を口にする。

「さすが母上(ははうえ)!もう声優やん」

姉ちゃんも便乗する。

強引な気もするけど、ママはすぐに康っちんに電話をかけて面接日を決めた。

「毎日あるわけでもないし、学生は遅くまで働くワケじゃないから、心配ない。だいたい土日や祝日だしね。イベントがあったらその日は断ればいいっちゃが」

ママはバイトに対する思い込みハードルを上手く下げた。

毎度の放課後、ヘアセットしながら月渚(るな)

「美鈴、今度の土曜日さ、お姉さんのいるGUに買い物いかん?」

「帰りにスタバ寄ってさあ」

スタバでコーヒーなんて飲める身分じゃないんですけど……。

「私、土曜日用事あって……ごめん」

2人はため息をついて返事を返してこなかった。

誘いを断ってばかりいることに今頃気づいた。

「ほんと、ごめん、今月、スカート買ったら北里柴三郎が3人消えて……」

「ふふっ、そっか、服買ったんなら仕方ないよね」

月渚(るな)は笑顔になって少し同情の表情にもなる。

“母子家庭”ってこういう時に便利、しかも女子は、衣装を買うのは大事なイベントでもあるため、言い訳には十分である。

「今度さ、他校の男子と約束とったんだよね、美鈴、その時にそのスカート着てきなよ」

音乃(のんの)の言い方は、時折私に選択肢を与えない。

もう行く前提になってる。

「それって……いつ?」

「もちろん、美鈴に合わせる」

それ、逃げれない…。しかもスカート買ったのも嘘……ヤバい。

今月末にコスイベあるから……あまりお金使いたくないんだよなぁ……。

「どーする?相手返事待ってるんだけど」

月渚の圧っ。

「じゃ、じゃあ、来週の土曜日でもいい?」

「OK,決まりね、LINEしとくわ」

音乃はスマホをすぐに操作した。

詰んだ……たまには仕方ないか。

仕方ないついでにセブイレもつきあう。

今日はタイミングが良かったか悪かったか、高校生はあまりいなかった。

「んじゃまた明日ね~」

2人は電車で帰るのでここで別れる。

私はやれやれ、と肩の力を落として帰宅する。


そして、自分が企画したことを”いざ、実行”の金曜日が来た。

朝からソワソワして授業中も集中できないでいた。

「小野寺、小野寺っ」

「は、はい」

「ボーっとすんのは原田だけでいい」

教室内にクスクスと笑いが出て原田くんが照れて下を向いたのが視界に入った。

「65ページの次の段落から読んで」

「はい……」

立ち上がって朗読をする。

「おし、ええわ……安定の聞きやすさやな。」

褒められた……素直に嬉しい。

授業終わって、いつもの「姉ちゃんと約束があって」と2人に言ってそそくさと帰る。

——図書館から借りてきた本を準備、昨日何度も読みあげたから大丈夫。

「姉ちゃんもドキドキしてきた、りん、OK?」

アナログの時計の秒針をいつものように目で追う。

「お待たせぇ!“りんちゃんねる”の時間だよ!今日は自分で企画起こしてみた」

いつもより心臓が跳ねる……でも怖くない……というよりワクワクしてる。

「じゃ~ん、りんね、声褒められちゃうから調子のって絵本読んでみよっかと」

絵本をカメラに向けて掲げる……拍手やクラッカーなどのスタンプが飛び交う。

イイ感じ、イケそう。

落ち着いてページをめくり読み始める。

「僕の足元にいつもの少女がやってきた……そして話しかけてきた」

「いつも私ばっかり話しかけてるよね?お願い、あなたの声が聴きたいの……」

読み上げながら胸がキュンとなるのが自分でも不思議……。

「……僕だって君と本当は喋りたいんだ、でも僕は木霊(こだま)、静かに君の声に耳を澄ますことしかできないんだ……」

アッと言う間に時間を使ってしまった。

顔を上げ、時計をみて冷汗が流れた。

え……なに……ヤバ……。

コメント欄が今までと違う反応。

ハートマークの数が多すぎ、中には涙や泣き顔……。

「コメント……嬉しい」

声がつっかえた。

「え?アキラ、感動した?嘘……マジで?ありがとう」

目からぽろっと何か落ちた感触。

「ヤダ、泣いてないって、わ、もう時間だ、時間配分悪くてごめんっちゃ」

あわて過ぎて変な宮崎弁が出た。

笑顔で手を振って締める。

「りん、すんごい反響じゃない?今まででピカイチ!」

ドラマかよ、的に姉ちゃんが私に抱きついてきた。

私……凄い?


翌日、テンションがなかなか落ち着かずに寝不足。

「ママが夜中帰ってきて、今まだ寝てるけど、面接はママ担当だから」

眠そうな姉ちゃんも朝ごはんを口に押し込んでバイトに向かった。

姉よ……巻き添えにしてすまん。

私はルーティンのヨガをして体を起こし、面接に着ていく予定の服を準備した。

「化粧とかっていらないよね」

鏡をみて嫌悪感。

私は自分の細い目と上向いてる鼻が嫌い。

姉ちゃんもママも可愛いって言うけど、それは身内だからでしょ。

「ぶっ……はは、ウケる」

眉毛を自分で書いたら面白過ぎた。

姉ちゃんの化粧がなかったら大好きなコスプレも楽しめないのが現実だ。

「うんうん、ですです、それでいいっちゃない?」

私の面接なのにほとんどママと康っちんが喋ってた。

採用前提で、制服を取りに行っただけみたいなもん。

「合わせてみてくれる?9号か11号かな?サイズは目安だから着てみないと……」

綾ちゃんが2着、制服をもってきた。

更衣室で9号を試着して、みてもらおうと外に出る。

「え~美鈴ちゃんってすごいスタイルいいんや」

綾ちゃんが言った瞬間、横で康っちんが目を丸くした。

いつもはダブっとした服で隠してる。

イベント以外で体の線は出したくないっていうのが理由。

でも、この制服、執事のコスプレみたいで気に入った。

「研修があるけど……平日の夕方これる?」

バイトが決まった。


研修もママに送ってもらい、なぜか私の横にいたまま。

私がマザコンみたいで少し恥ずかしい気もしたけど、スタッフは顔見知りばかりでもある。

「や、美鈴ちゃん、キレイになって。高校生になったら変わるっちゃね~」

調理場の(いく)ちゃん、もう80歳近いハズなのにまだ働いてるんだなぁ……。

「時々しか入れないけど、頼むねぇ」

ママが挨拶した。私、なんにもできない子になってしまう。

大人からはキレイとか言われるけど“どこがよ”としか思えんっちゃ。

「美鈴ちゃん、大丈夫よ、今は入りたての高校生や大学生が多いから若葉マークばっかり」

綾ちゃんの言葉にホッとする。

バイト初日は他校の子達と交流する土曜日と同じ日になってしまった。


「はぁい、“りんちゃんねる”の時間です、今夜も楽しむよ~」

前回より時間配分を計算して本の続きを読んだ。

「どうだった?え?嬉しい」

「アキラ、今日も来てくれてありがとう、あ、ゆずっちも感動した?ありがとう」

自分で企画したことが当たってテンション上がる。

「なに?読んで欲しい本リクエストしたい?いいねぇ、じゃ募集しよっかな」

視聴者に女子が増えたことも嬉しい。

ライバー、マジ楽しい。


「ママ、2連チャンで福岡だから帰ってこないんだったね」

初バイトの日だけど、ママが一緒なわけないか。

「私早番で出るからさぁ、帰ってきたら送ったげる、家に居てるんでしょ?」

ドキ……他校の男子と交流会とか言えない。

「友達とちょっと約束あって……延岡のジョイフルで……」

「女子会かぁ……いいよ、終わるころにそっちまわったげる」

姉ちゃん……私に甘すぎるって。

玄関で心をこめて行ってらっしゃい、と姉ちゃんをバイトに送り出した。

「美鈴……あれ?スカートじゃないと?」

「今朝、ゆで卵食べる時に醤油こぼして……洗って干してある」

2人がすでに駅で待っていた。

パーカーとデニムのワイドパンツ姿に二人は微妙な表情をしたが。

「醤油かぁ、買ったばかりのスカートにキツいなぁ」

月渚はノッてくれた。……バレなきゃいいのよ。

待ち合わせの男子は既にジョイフルのボックス席に座っていた。

「やほ~この子が美鈴」

私だけお初なので紹介されて頭を軽く下げる。

「へぇ2人とはちがう感じのタイプやね」

ハイハイ、盛り上げ役、人数合わせなんで、お構いなく。

自分でも捻くれてるとわかっててもそう思ってしまう。

月渚も音乃もターゲットは決まっているようだ。

ということは……私にコイツとくっつけと?

横に座っているのはイケメンでもなく、野球部やろ?的なゴツゴツした男子。

「俺、雅人(まさと)っていうねん、両親が関西人やから関西弁やけど、大丈夫?」

あぁ、クラスのカナの関西弁で聞き慣れてるよ~。

「はい、クラスに関西の子いてるから大丈夫です」

よそよそしい返事をしてしまった。

「美鈴ちゃんって、声キレイやな」

また声褒められた。嬉しいけど、うん、そう、声とスタイル()自信ある。

「俺さ、配信見るん好きなんやけど……ライバーとかしちゃってない?」

ドドド……ドキィ……目が泳ぐの自分でもわかった。

「まさか、私そういうキャラじゃないっちゃ」

「そーなん?なぁ、何か話しようや」

なん、コイツ、声聞きたがってるだけ?

「そういう服のセンスとかも俺好き」

グイグイくるな。月渚がこっちをチラ見してニヤけてる。

私はこういうタイプ好きじゃない。

早く帰りたい……あ、バイトか。

ドリンクバーでちまちま飲んで、珈琲ゼリーをちょびちょびつつきながら時間も潰した。

流れでLINEの交換までさせられた……最悪。

これから初バイトなのに疲れた。

また遊ぼうねと駅で解散したが私はもういいや。

「お疲れ、女子会楽しかったか?」

姉ちゃんが迎えにきてくれた。

「ん~まぁね」

私の反応で姉ちゃんはわかったようだ。

「ま、付き合いも適度に大事だからね、じゃ、また時間になったら迎えにくる」

裏口で車から降りて、更衣室で衣装チェンジして、マスクして名簿に名前を記入。

「おー美鈴、バッチリ時間、最初はミーティングからな」

康っちんが仕切って今日の宴会の説明と、初めての私は簡単な自己紹介をする。

大学生の男子が私を値踏みするように見てるのがわかる。

マスクはずしたら、一気にテンションさがるの確定っちゃが。

私はここでいろんなキャラを演じて、ライバーのネタにすることだけ考える。

「じゃ、美鈴は今日が初めてだから先輩の実里(みのり)ちゃん、ついたってね」

「OK、美鈴ちゃん、スタイルいいね、私大学生してる、よろしくね」

私は頭だけ下げた。

「実里ちゃん、高校生の頃からやから遠慮なく教えてもらいいね」

綾ちゃんがそう言って、私の肩を軽くたたいた。

言われるままに動いて、声を出すことはあまりなかった。

「美鈴ちゃん~これ頼むよ」

郁ちゃんがワゴンに料理をのせて運んできた。

「あ、そや、美鈴ちゃん、角校(かどこう)やろ?この子も角校やで」

白装束の男子は猫背でうつむいたままで顔が見えない。

「よろ……しく」

声をかけると、チラっと目で見てすぐに下を向いた。

なんなん、この男。

「先月から来てるから美鈴ちゃんのちょっとだけ先輩。真面目で力持ちで助かってるっちゃ」

郁ちゃんのお気に入りのようだ。

高校生は21時までと決まっていて、休憩もなかったので他の子達とは交流もなく、マスクも最後まではずさなかったので私はホッとした。

「美鈴ちゃん、ありがとうな、慣れたら楽しい仕事だから、また来てな」

康っちんが声をかけてきてくれた。

「制服のまま帰ってもいいけど、寄るとこは気を付けてね、お疲れっ」

綾ちゃんも気遣ってくれてる。……嬉しい。

私は頭を下げ、下に降りて姉ちゃんを待つことにした。

「お疲れさまです」

ボソッと言うから聞こえづらかったが、さっきの白装束の男子。

マスクしてるし下向いてるから顔わからないまま。

「お疲れ様で~す」

その男子は少し歩いてから振り向いて、また前を向いて歩いて行った。

私の美声に振り返ったか、と、自惚(うぬぼ)れてみた。

バイト初日と交流会でヘトヘトになりながらも、しっかり半身浴して、遅い時間だったので軽く食べて寝た。

翌日も姉ちゃんはバイト、ママは不在で、日曜日を一人で過ごす。

図書館で次に読む本でも探しに行くか。

昨日と同じ格好に着替えて図書館に向かう。

あれ……もしかして(ひいらぎ)

自習スペースで柊が机に向かって黙々と何か書いてる。

「よっ」

「えっ……ええっ」

声を掛けたら思った以上に慌てる姿に笑えた。

「こないだのデザイン、姉ちゃんめっちゃ喜んでた」

「あぁ……良かった」

すぐに下を向く柊。

あんたが書いたのが私の衣装になるんだよね~って言いたかったけど飲み込んだ。

「わ、マジで上手い」

覗き込んだら自然と口から出た。

柊は風景画をイラストに書き換えていた。

「書くのは人物だけじゃないっちゃね」

「うん……俺、プロ目指してるから」

知ってる、クラスで有名だからね。

地味な男だけど絵が上手いから需要があんだよね。

姉ちゃんもそうだけど、他の子に似顔絵頼まれたり、イラスト書かされたりしてる。

「小野寺さんもバイト始めたんだね」

えっ……もうバレた?びっくりする。

「……なんで?」

「え、昨日帰りに声かけたけど……」

あの男、柊だったか……そっか、そのままだ。

「そっかそっか、……お互いに内緒だよね?」

「ちょっと、ごめんなさい、お話するなら、部屋の外でお願いできるかな?」

司書さんに注意されてしまった。

「ごめん、邪魔した、帰るね」

「ん……」

私が一方的に声かけたしね、そそくさと本を数冊借りて図書館を出た。

スマホにLINEの着信音がなった。

奴だ……昨日渋々交換したゴツ()、名前なんだっけ。

無視して面倒になるのも嫌で、仕方なく家に着いてから返信する。

「今日は図書館行ってたんです……と」

すぐに着信音……じゃなくて、通話のほうだ。

「美鈴ちゃん?オレオレ、雅人」

応答ボタン押してしまった。

雅人だ、って音声通話かけてくるなっての。

「なにぃ?」

「美鈴ちゃんの声聞きたくなって、今の“なにぃ”もめっちゃ可愛いな、話せん?」

グイグイ(おとこ)め……。

「今移動中、またにしてもらっていい?」

部屋から台所に……だけどね。

「そっかぁ、ごめん、またかけ直すわ」

急にかけてくるな。

愛想無しに切る。

トマト味の辛麺があったし、食べよっと。

お湯をわかしながらボーっと考える。

机の上の借りた絵本に目が行く。

図書館……バイト……夢?目標……。

私も声優になるって言いたかったような。

……なんか柊ともう少し喋りたかったな。

挿絵(By みてみん)


次回は来週金曜日6月26日です。 一日が早いですね……もう6月終わるぅ……7月から恋ロジ再開します……夏休みどうなるんでしょうね(知ってるくせに)

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