番外編:小野寺さんの物語「前編」
え~美鈴、食べないの?これ美味しいよ」
「私、甘いもの苦手なんよ」
月渚が少しだけ表情を曇らせる。
「ダイエットとか必要ないじゃん?」
「ただ苦手なだけ」
前髪をいじりながら音乃がじっとこっちを見る。
「美鈴って絶対化粧映えする顔だと思うんだけど、なんでしないの?」
……何回目、それ。
「美鈴はありのままでいいんだよね」
2人がマウントしてるように感じるのは、私が自分の顔にコンプレックスがあるからっていうのはわかってる。
わかってるから、反論せずに、期待に沿う。
「ん~、大人になったら韓国で整形でもするかなぁ」
「整形まではいいっしょ」
2人が小さく笑った。もうこのネタはいいっしょっ、て思う。
「今日さ、セブイレまわって帰ろうよ」
駅にまっすぐに行かず、わざわざセブイレにまわるのは、高校生のたまり場になってるから。
2人は週に何回かお菓子を買う目的のフリをして、出会いを求めている。
私は友達(義理)としてたまには参加するけど、無駄な時間でしかない。
「ね~美鈴も行くよね?」
「私、姉ちゃんと約束あるから~ごめんね」
「そっかぁ~仲いいもんね。私も仲良くしたい、デザイン科やっちゃろ?」
面倒くせぇよ。そんな理由で紹介したくない。
「そうだね~伝えとく」
放課後になると二人はリップを塗り直し、髪に櫛を通し始める。
「小野寺さん……これ」
声がした方に振り返る。
柊が封筒を差し出してきた。
「ありがとう、お姉ちゃんがお礼したいって言ってた」
「いや……マジでそんなんいいし……じゃ」
うつむいたまま返事をして、すぐに背を向ける柊。
「なになに、それ?見せて」
2人が興味をもつが、これは私だけのものではない。
「姉ちゃんが柊のセンスが好きでさ、服のデザインとか頼むんよ」
「あぁ~アイツ絵、上手いもんね……マジでプロ目指してるらしいっちゃ」
「分かり易いオタク~、見た目だけでもなんとかならんやろか」
二人が目を見合わせてクスっと笑った。
柊はそのままオタク。少し小太りしてて猫背で、ニキビ面でパっとしない男子。
「でもさぁ……私が思うに……柊、美鈴のこと好きなんじゃないかなぁって思う時あるんよね」
はいはい、こじつけたいんでしょ。
話のネタにしたいんだよね。
「そーかなぁ」
と無難に返す。
「美鈴もさ、高校生活エンジョイしようぜ~」
月渚が私の肩をポンと軽くたたく。
2人と分かれ、私は即座に家に向かう。
「おかえり~美鈴、姉ちゃんさ、晩御飯用意してるから、早く着替えて顔洗ってきてよ」
「ママ、今日も遅くまで帰ってこんと?」
私ん家は女ばかりの母子家庭だ。
「ママが稼いでくれて、この時間にいないお陰で、私ら、リア充できてるっちゃろ」
「ふふ~今日もやるぜぃ」
一気にテンションがあがる私。部屋着に着替えて、ルーティンの洗顔、化粧水をたっぷりはたいてからのパックをして、今日の予定のメモに目を通す。
「美鈴ぅ、変なお菓子とか食べてないよね?吹き出物つくらないでよ~」
配膳しているところにパックを終えて椅子に座る。
「マネージャー、ご心配なく!今日もオレオの誘惑に勝ったし」
敬礼をしてからそのまま「いただきます」と手を合わせる。
「よし、プロ意識OK、ん?それテツから?」
姉ちゃんは封筒をすぐに開けた。
柊哲雄という名前だから、勝手に姉ちゃんはテツと呼んでいる。
「もぉ、めっちゃいいじゃん、マジでテツのセンス好きっ」
私も柊の書く女子のセンス好き。
姉ちゃんはオリジナルを書かせて、それを衣装にする。
「テツの見てくれがオタクでも、私は好きになっちゃうかも」
それは無いっちゃ、と思いながら野菜たっぷりのフォーをすする。
「美味しいやろ?また姉ちゃん腕あげたわ」
自画自賛するが、フォーの麺は少ししか入ってない。
「今度の衣装はこれに決めたっちゃ」
「え?今から6月のイベントには間に合わんっちゃろ」
「いや、これはりんの新しい衣装」
私の倍、麵が入っているフォーを姉ちゃんはすすっている。
「新しいの作ってくれると?」
めっちゃ嬉しい。
「でも、今度のコスプレイベントのは?」
「それは今までのんをリメイクして間に合わせる。りんもバージョンアップして稼がないと」
私は頷いて汁を少し残し、ごちそうさま、と手を合わせた。
「洗い物したらすぐ準備するからね」
「ラジャ~」
家事はほとんど姉ちゃんがしてくれる。
私は部屋に戻って、セッティングを始める。
「今日は更にファンが増えるかなぁ~りん、絶好調~」
鼻歌まじりに照明の角度を念入りに確認して、指差し点検まですると姉ちゃんが部屋に入ってきた。
「はじめるか」
メイクボックスを開けて姉ちゃんが私の顔をキャンバスのようにして、筆をはしらせる……ブラシか。
「オンエアまで5分、準備万全ね?」
固定したカメラOK,カメラに写り込まないところで姉ちゃんは待機。
時間ギリギリまで見ていたメモを、足元に落とす。
「行け!ライバーりん!」
姉ちゃんの掛け声の後、アナログ時計の秒針が12をさした。
「こんばんわぁ~!さあ、今夜もみんなと軽快にトークしちゃうよ~」
「おぉ、アキラ、今夜も来てくれてるね、皆勤賞だね~」
毎週金曜日の21時、私は美鈴から“りんちゃんねる”のライバー・りんになる。
「で、昨夜の感触どうじゃった?」
「昨夜は……男子が二人増えてた」
「男子かぁ……まぁそんなもんじゃない?」
5月のコスプレイベントの打ち合わせのために、まゆぴと画面越しに通話をする。
「もっと稼がないと、旅費がだせん」
「切実ぅ~」
まゆぴは私のコスプレ仲間で福岡の同い歳。ライバーの先輩でもある。
「福岡はいいじゃん、ゆーほど交通費かからんやろ」
ミネラルウォーターを一口飲む。
「まぁねぇ~私は投げ銭でだいぶ稼げるようになったけん……あとグッズも出してるけぇね」
「まゆぴはトークが上手いもん……。グッズってまさか着衣売ってるとか?」
「ちょ、やめてよ~私は健全やって。AIでスタンプとかステッカー作ってるって」
「あはは~ごめんって。私は伸び悩みかな~声が好きとかは言われるけどトークが苦手なんよ」
「トーク苦手なライバーって致命的やけんね」
2人で笑い合って盛り上がる。
私はコスプレとライバーでリア充している。
もちろんクラスメイトは誰も知らない。
「そろそろ現実にもどるわ、図書館に本の返却に行くんだった」
「じゃ、また報告会しよ、イベントも、りんに会えるのも、楽しみにしてるき」
図書館に雑誌と漫画を定期で借りに通っている。
小さいながらもそこそこ取り扱いジャンル多くて、買わなくて済むから倹約家としては助かる町立の図書館。
あ、同じクラスの杉田だ。
あいつもよくここに来てるんだよな。
いつも4人でつるんでるから、喋ったことない。
前髪でどこ見てるかわかんないし……ってことで挨拶をする必要はない……と。
「……そこで女の子は言いました、「このドレスを私にくださいな……」」
別室で“お話を聞かせ会”というイベントをしていた。
足を止めて少し盗み聞き。
傍にいる子供たちがそれぞれ真剣な表情で聞いているのが可愛い。
「そなたに与える理由などないわ!」
勢いのある読みにビクっとする子どもと私。
やだ、びっくりした……。
ビクっとした自分に笑えた。
いるんだよね、朗読が上手な人って。
帰宅してから、漫画を読んで、イベントに行く時の交通手段の確認。
門川からは本当に不便で時間がかかる。
「美鈴、ちょっと~ママからLINEきてたぁ」
帰宅するなり姉ちゃんが玄関で要件を言いながら入ってくる。
「なにぃ?ママ、今日も仕事やろ?」
「今日の仕事で使う予定の小物忘れたんやて……姉ちゃん車だすし一緒に行こ?」
「えぇ……またぁ?私も?」
「ママ、足代出す言うてるから、帰りにケンタ寄ろ」
「ふふ……久しぶり。チートデーってことで?」
肌やスタイル維持に食べるものを制限されているが、たまぁに許可が出ることがある。
私だってジャンクは好きなのだ。
「あった、コレだコレ、行くよっ」
「ラジャ~」
ママはフリーの司会者で、イベントや披露宴などが主な仕事。
ここ数年、人気が上がってるらしく、時に県外にも呼ばれる。
お陰で家を空けることが増えて、姉ちゃんと羽を伸ばし放題でもある。
今日はたまたま延岡の宴会場だから届けられるけど、まぁまぁやらかしが多い。
「美鈴、2階のクリスタルやて」
「え?私が行くん?」
「車停めるとこないから私降りられん、小野寺です、って言ったらわかるって」
仕方なし、小さい紙袋受け取って小走りで会場に向かう。
裏口から入って階段まで行くと、スタッフの康っちんが手を振っていた。
「良かったぁ、間に合いそう、美鈴ちゃん久しぶり、JKになったんやな」
JKって言うな……でも康っちんとの付き合いは長いから許す。
「そや、お母ちゃんの仕事ぶり、たまには見て行きい」
紙袋を渡したのに、手を引かれ、少しくらいいっか、と業務用エレベーターに乗り込む。
「美鈴ちゃん、久しぶり」
綾ちゃんだ……って、“小野寺です”って言う必要全然ない、と思いながら康っちんの後をついていく。
「ここでお母ちゃんのカッコいいとこみとき、売れっ子の理由がわかる」
ドアをすこし開けて覗く。
康っちんが背後からこそっと紙袋から小道具を出してママの手元に置いた。
「ではここで、課長のソロライブをご覧ください」
ママにスポットライトがあたった。
司会者なのに?
「ちょっと待って!話が違うって」
会場がどっと笑いにつつまれる。
「お母ちゃんな、指名が増えてな今回もあの課長さんの指名なんや」
戻ってきた康っちんが後ろから解説をしだす。
「課長さんと念入りな打ち合わせしててな、アドリブのふりして予定通り」
どういうこと?把握できないまま見続ける。
「俺も小野寺さんのあんな発想初めてやったし、スタッフも最初びっくりしたけどな。でもそれが爆発的にウケてな、みんな小野寺さん呼ばれたときは、バイトの子も喜んで入ってくれるんや、相乗効果や」
会場は、テンポよく笑いの波が起きて拍手とヤジや掛け声もとびかった。
ママは演劇の女優のように多くのセリフとナレーションをこなし、最後には課長が鼻をすすり、会場のほうでもハンカチで目をおさえる人が見えた。
「ホンマに凄いよ、美鈴ちゃんのお母ちゃん、わかるか?一時スランプなってたこともあったけど、これぞプロって思わされる」
康っちんも鼻をすすっていた。
「もー遅いっ。何かトラブルかなぁ思って心配したぁ」
私はなんか変に胸が熱くて言葉がでてこなかった。
「美鈴?大丈夫か?怒られた?ケンタ行くで?」
私は頷くだけで精いっぱいだった。
久しぶりのケンタに着けば、コールスローサラダとしっかりチキン2ピース食べて、シェイクまで飲んだ。
お腹も胸もいっぱいになって帰りの車中では今までにない満足感に浸っていた。
「なんか美鈴おかしいけど」
「あ!ひらめいた」
「びっくりするやん、なにぃ?」
信号待ちで良かった、と思いつつ……。
「姉ちゃん、“りんちゃんねる”で、私一人芝居やってみる」
「えぇ~……なにそれ」
「って最初は本かなにか読むけど」
自分で言い出しといておかしいな、とは思った。
「面白いんちゃう?ファンも、りんの声が好きってのがほとんどっちゃが」
私は帰ってさっそく使えそうな漫画や本をあさった。
翌朝、ママは鼻歌まじりに朝食を作っていた。
いつものママと違って見えたのが不思議だった。
「おはよ、美鈴、昨日はありがとう、助かったわ」
机の上のお金に指差して。
「お駄賃。そうや、今日はオフにしたからみんなでカラオケいこか」
日曜日に仕事無いなんておかしい。
休みをとったにちがいない。
「ママな、美鈴がライバーしてるの知ってる。……で気づいたんやけど、美鈴、声優どうなん?」
私はママのセリフに返答ができなかった。
衝撃的すぎて。
声優……。
「おぉ……確かに」
歯磨きしながら姉ちゃんが台所に入ってきた。
「……ママ、マジで言ってる?」
「ママ、応援したいな」
なぜか絞り出すような声になる。
「詳しくわかんない……けど、目指してみようかな……」
勝手に口が動いた。
ママと姉ちゃんは笑ってハイタッチした。
「カラオケ行って、試そうぜぇ」
ママはその場で変な踊りをしだした。
それをみて真似る姉ちゃん。
笑う私。
「専門学校とか……そうとう金いるな」
急にリアルなことを姉ちゃんが言った。
「大丈夫、康っちんが美鈴をバイトにこさせぇ言うてた」
続いてママが言い放った。
……え?
でも悪い気はぜんぜんしない……。
私の将来の夢がいきなり出現した。
恋ロジ、4人の本篇は時期調整(?)の為にお休み。その間、クラスメイトの「小野寺さんのお話」をいれておきます。3部で、前編、中編、後編になってます。たまぁにこんなこと……する。イラストはチャッピーが、私が書いたのを雰囲気寄せてくれたからいつもと少し違うかも(でもほとんどAIです)。次回も「小野寺さんの物語」で中編、6月19日投稿予定です。来月に本編は再開です、夏休みに入るけんね(笑)




