2:気づけば4人になってた
体はもう前のめり。
気持ちは、とっくに逸乃の隣におる。
五歩手前で呼びかける。
「逸乃!」「逸乃っち~」
ハモった。中野……カナだ。
「ねね、逸乃、仲良くしよ、私カナね」
早くもライバル……って女子だから許してやるよ。
「カナよろしくね~」
逸乃が意外に受け入れてる。
神奈川にいた時、友達とか……いたのか?って、俺、出遅れてんじゃん。
「逸乃っ逸乃っ」連呼しちまった。
「あぁ、逸、久しぶりだねぇ、カッコよくなったじゃん」
おぉおぉ……俺の頑張り、満点の結果じゃん、身震いした。
「なになに?お知り合いなわけ?」
カナは隣の机に尻をのせて俺の顔を見てきた
おい、そこ顎下ホクロの杉田の机
「逸は保育園の頃からの幼馴染」
そそ、二人は特別な関係。
「へーっへーっ、なにそれ、アオハルじゃん」
好奇心丸出しのカナの視線を、感じる。
「逸乃、また高校で一緒になれるなんてすごいっちゃ」
興奮していたが冷静を装う。逸乃の反応に期待しかない。
「へー、運命とか言うてんの?」
なんだよカナのその言い方、いや気にするもんか。
「あーっ、自己紹介で言うてた好きな子って逸乃ぉ!?」
はい大正解っ……て、声が
「声デカいっちゃが」
声に出す前に、顎下ホクロ――杉田が先に言った。
彼の表情は前髪が長すぎて見えない。
「えーと杉田君だっけ?」
カナはそう言いながら、彼の顎下ホクロを人差し指で押した
おいおい今度は何してんだよ。
「ぷはっ……あははは、あはははは」
逸乃が吹き出して笑いだした。
カナがホクロを押したままで杉田はなぜか舌を出してた。
なんだよこの図……ってか逸乃がめっちゃウケてんじゃん、めっちゃ可愛いじゃん。
「あーこのキーホルダーAIシンギュライズシリーズ!」
ナニソレ!?
「あぁ、新河さんAIシン、知ってるんだ、しかもレアキャラ」
「好きーっこれ」
おいおいおいおい逸乃ってば、俺のこと放置しないで。
「あはは、逸乃ぉ、逸が寂しそう」
カナと杉田が俺の顔をチラ見。
「そーだよ、俺が好きなんは逸乃っちゃ」
直後声出して笑うカナと口元が緩む杉田。
「うん、わかっちょるよ、また仲良くするっちゃ」
逸乃ぉ~二度目の身震い……でも、なんか引っかかる。
気が付けば4人で教室を出て歩いている。
目の前はタクと呼ぶことになった杉田と逸乃がAIシンギュライズってやつの話で盛り上がっている。
……俺、全然わかんねぇんだけど。
カナは俺の隣で、せわしなく変な質問ばかりしてくる。
でも悪くない、目の前に大好きな逸乃がいる。焦る必要は全くない。
再会初日、まずまずのスタート、だと思ってた。
――翌日の昼休み、俺は母さんからの武器を手に、逸乃の席に向かった。
「逸乃っ、コレ聞いてると思うっちゃが」
差し出した弁当を受け取ったのはカナ。
おめぇじゃねえっての
「うん、聞いてる、逸のお母ちゃんと交代で作るって言っちょったね」
怒る様子無しの逸乃、タクの机の上で、弁当の蓋をあけるカナ。
なんて奴だよ……
「うぅわ美味しそう、いいな、タク、どれにする?」
ちょい待て待て、二人で選んでるのおかしいだろ。
「いいよ、二人で食べな、それも開けよ」
逸乃が俺の分の弁当を取り、自分の机の上で広げた。
あ、そかそか、俺と一緒に――。
「みんなでシェアしよう、ホラ、これ新作だって」
カナがコンビニのおにぎりを俺におしつけてきた。
タクの表情は見えないが、口元は緩んでるっつうの。
「さすが逸のお母ちゃん、あ、懐かしいハンバーグ」
逸乃のセリフと表情がたまらん、可愛いっ、可愛すぎる。
「見た?今の顔?」
カナとタクは逸乃の弁当をつつきながら俺を見ていた。
見てちゃ悪ぃかよ
逸乃は俺の分の弁当を食べ始めた。それを眺めてる俺。
いいじゃん、3年間取り戻せる気がしてきた……。
逸乃をちらちら見ながらコンビニのおにぎりとへべすパンをたいらげる。
弁当箱を片付けた逸乃はスマホを取り出し、指を滑らせる。
「ん?推しキャラ?」
覗こうとする俺に逸乃は隠すことなく画面を見せた。
「推しっていうかー彼氏だよ」
えっ……!?心臓が大きな音を立てた。
タクとスマホで動画を見ていたカナが秒で頭を突っ込んできた。
「何?逸乃、彼氏っ?」
固まっている俺の顔をしっかり確認してやがる。
「ですです、朔っていうっちゃが」
「やっばっ、めっちゃイケメンじゃん」
無意識に目を逸らしていた。見るのが怖い俺。
「お、最新のバージョンじゃん」
タクもカナの後ろから覗いたようだ。
バージョンってなんだよ。俺も見たいけど……見たくない。
結局チャイムがなり「見せて」の一言が言えず、逸乃の彼氏、「朔」を見ずに放課後を迎えた。
放課後までの授業中、逸乃の彼氏らしき「朔」を見るために、なんて言えばいいか考えていたら――先生にあてられた。
「考え中です」とまんま返して怒られた。
結局思いつかなかった。気になる……。
当たり前のように4人で教室を出て歩き出す。
「逸乃ぉ、彼氏とはいつから?」
カナ、その質問、いいぞ、ただ俺の顔いちいち見るな、タクも見るな。
「この朔と出会ったのはね中3、友達の紹介で」
へーっ、とカナ。で、タクと同時に俺の顔みるのよせって。
中3って早くね?神奈川は都会だな。
「でも逸乃、彼氏いるのに……恋愛する宣言してたね」
お、カナいい質問続くなぁ。
「ん……私は朔にちゃんと彼氏作ったほうがいいって言われて」
は?どゆこと?
「え~こんなイケメン彼氏以上の上玉、そうそう居ないよね」
タクにふってニヤニヤするカナ。
「確かに、バージョン的には逸乃のことかなり分析しきってるんだろうな」
え?すげぇ彼氏ってことじゃん。
「見たい」と更に言い辛くなってきた。
「逸ぅ、こりゃ、相当のライバルだよ」
カナが嬉しそうに俺につめよる。
「お、俺は逸乃のこと勝手に好きなんだからいいっちゃが。別に急いで逸乃の彼氏になろうとか思ってねーし」
露骨なこと吐いた。でも嘘ではない。
「へぇ」
タクが単調な返答を返してきた。
「いやいや、これは逸、のんきなこと言ってらんないよ」
カナはけしかけてくる。
「俺は俺で、逸乃のこと好きなんだからいいっちゃが」
「わーっ、好きを連呼しよる」
カナは声を出して笑う、タクは笑ってない……みたいだ。
――その時。
「私も逸のこと、好きだよ」
逸乃の言葉に、場の空気が一瞬固まった。
直後、カナとタクは「え?」の表情になる。
俺は思わずドヤ顔をしかけて――
……天使に重たいビンタ食らったみたいに、胸の奥がじん、と鈍く痛んだ。
嬉しい。
――嬉しいのに、足りない。
それでも俺は、結局ニヤけていた。
カナはひらめいた表情に変わり、すぐニヤニヤ顔に変貌。
「だよね~幼馴染だもんねぇ」
クソ、そのとーりだよ。
タクは笑ってないが「これは面白い」って言ったか?……まさかな。
こうして、逸乃とのハイスクールライフは、
二人きりじゃなくなった。
……なんか、メンツは出そろったっぽい。
――なのに、引っかかる。




