1:好きな子が“恋をする”って言い出した
目の前にはありふれた風景……桜、おろしたての制服。
地元では無難と言われるレベルの県立校。
俺は校門で立ち止まり待つ。
逸乃だ。
声をかけたいが体動かず。
「めっちゃ可愛いなっとる」
小声でつぶやき、顔が熱くなるのを感じ、マフラーをずらし上げる。
俺には気づいていない……
やべ、俺も行かないと。逸乃を目で追いつつ教師らが誘導している会場にイン。
逸乃以外の風景はぼやける。
「やっぱり同じクラスっちゃ」
逸乃と離れた期間3年。また会うことだけは、なぜか一度も疑わなかった。
自分磨きしてきた俺の努力は、ここで報われる――
そんな確信が勝手に湧いて、胸の奥がじん、と熱くなった。
式が終わり、気が付けば「1-2」と出ている扉の前。
「ヨシ、大丈夫、お前はできる」
もう一人の俺が励ます、的な。
気合を入れていると背後に気配。
「ちょっとぉ、早く入ってよ」
ややキツめの煽りの言葉。
「わ、ごめんっ」
あわてて中に入り体をひねる。見るとアイドルかよ的な可愛い女子。
目が合う「お、上玉」と女子。
は?上玉?どういう意味だよ。
「おーい、席につけ、手に持っている番号と机の番号見ろ~」
背後から教師らしき人物が押し入ってきた。
担任か……。あわてて席を探し座る。
おっと……逸乃発見、まだ俺に気づいてないようだが、想定内。
「はい、入学おめでとう……俺が担任の~」
教壇に立った教師は担任であることと自己紹介を軽くする。熱血系っぽい先生だ。
担任の説明の間にも数回、逸乃に視線を投げるがこっちを見ない。
落ち着け、焦るな俺。
「……で、今日は初日だからあと自己紹介して終わっとく……じゃ名簿の順……ってのはつまらんから、って誰かいけそうな奴いる?」
俺はシュミレーションしてきたが1番目はさすがに嫌だな。
「じゃ先生のリクエストに応えてぇ」
一人、手をあげてその場に立つ。
「おぉ・・・ありがとな、いいぞ」
嬉しそうにニヤける担任。
目立ちたがりの男子か・・・あいつ、野球部だったんじゃなかったっけ。
なんか覚えあるぞ。
「我が名は上西哲平。角中出身、近所だしっ、スポーツ科に興味あるっちゃが決めた。高校生活はバイトと友達と遊ぶっちゃ。んで、おもしろい友達募集する。よろしくっちゃ」
シンプルながら上手い自己紹介だな。
「なんだよ上西、野球するんじゃないのか?」
「えー中学んとき散々したけん、もういいとぉ~彼女ほしいけんな」
お前もかよ、俺も同類(笑)
「おっし、一発目上手すぎるが後、続ける奴いるかぁ?」
担任が教室内を見回す。俺はつかさず手を挙げた。
「んじゃ……杉田……拓弥」
担任はわずかに手を俺より早く挙げた方をあてた。
別に順番急いでないからいいけど。
「はい」その場で立ち上がる杉田。
杉田?聞いたことあるようなないような。
「杉田拓弥、角中出身、家が近いからここに決めた、趣味は読書・・・くらいかな」
言い終わると静かに座る。手を挙げておきながらそれだけ?
やっぱ角中か、うろ覚えだけど。
印象薄っ、顎にあるほくろで覚える感じだな。なんか気になるけど。
「じゃ……次、原田逸心……いい名前だな」
「はい……」
俺の番。名前褒められて照れながらその場に立ち、逸乃を視界に入れる。
一呼吸、ヨシ、いける。
「俺は原田逸心、角中出身・・好きな子がこの学校を受験するっ聞いちゃが決めた」
教室の空気は揺らいだが、気にせず続ける。
さすがに逸乃、顔をあげたな。俺ってわかったろ、どうよ。
「ここでの高校生活、楽しく過ごしたいっちゃね、じゃっから俺は俺らしく貫くっちゃが、よろしくな」
言いきった‥逸乃、なんだよその表情・・・気になるな。
練習より言葉足らずになった。今頃緊張してきた。
近くに座ってる女子が「その子誰か知ってる」と囁く声が聞こえたが、かまうもんか。
「おいおい……なんか恋バナ多くないか?若いなぁ」
苦笑しながら担任が次の自己紹介者を目で探す。
「はい」
担任に指される前に立ったのは、さっきのアイドル女子。
つっても逸乃には敵わないけどな。
「んじゃ……どうぞ」担任が促す。
「ウチは中野結愛・・名前はゆあだけど……ナカノをひっくり返してカナと呼んでもらってるから「カナ」って呼んで。中学の頃に関西からママの実家の宮崎に引っ越してきた、日向中学出身。お菓子作りが趣味で、勉強大嫌いだけどめいっぱい高校生活は楽しみたい、以上」可愛さ満点の自己紹介だな。
悪くはないけどあるあるキャラじゃん。
「いいね、じゃ次」
その後も自己紹介が展開される。
最後まで手があがらなかったのは、逸乃だ。
「最後だな……新河」
静かに立ち上がる逸乃。
あー、逸乃と早く喋りたい。でも自己紹介も聞きたい。
「私は新河逸乃。……中学上がる前に神奈川に引っ越して、また今年、地元に戻ってきたっちゃが。知ってる子もいるっちゃが旧姓は戸中、目は斜視でこんなんだけど、ちゃんと見えてるから心配しないでほしい」
そう言って笑顔。
逸乃、変わらないな、いや、前より破壊力上がって無いか?
「はい」
さっきのアイドル女子のカナだ。
「なんだ、中野」
担任がカナをあてる。
「新河さん、その頬の赤いのってメイク?可愛いんだけど」
え、何言ってんのコイツ。
「これは赤痣、子どもの頃からあるっちゃが、なんてことない、気になるなら自分で調べてみて」
何度も聞かれてるだろうからな、慣れてるよな。
……にしてもやっぱ逸乃、可愛い、声も好き、喋り方も好き、好き。
「私も高校生活で彼氏つくって……恋愛を楽しもうと思ってるっちゃが」
……え?なんだって?
「えーなんだよこのクラスは熱いなぁ」
担任のコメントと同時に終業のチャイムがなる。
「彼氏」というパワーワードに一瞬意識とんだが、蘇生、変な汗かいた。
彼氏?彼氏つくる?そっか、今はフリーってことだ。
あれから3年、逸乃が知ってる「逸」じゃなくなってる――はず。
おっと、逸乃と一緒に帰るんだ、焦るな、急げ俺。
素早く机の上のものをカバンにつっこんで全速力の歩みで逸乃に向かう。
「……俺、変わったっちゃが。」




