17:それぞれの学期末
俺のインスタは静けさを取り戻した。
ハッシュタグで見た“ヘタレ男子”という言葉にギュッとなる。
女子って扱いが難しいんだな。
――夏休み直前、三者懇談が進路室で行われる。
今は数組、教室で待機。俺も母さんを待つ。
次の順番のカナの親もきていない。
「結愛っ、ごめん、教室間違えた」
笑いながら中年男性がラフな格好で入ってきた。
「あれ?ママじゃなかったぁ?……健一かぁ」
え?ママとは呼ぶけど父親は呼び捨て?
「ホラ、また……調子悪くて、ごめんな」
「謝らなくてもいいよぉ、見て、あれが逸」
カナが俺を指さす。雑な紹介だな。
「こんにちは、原田逸心です」
席に座ったまま、ぺこっと頭だけ下げた。俺も雑か。
「お、イケメンじゃん、一途の逸心君だね」
俺、どんな説明されてるっちゃ。
「中野さん、進路室の前の廊下で担任が、待っててだって」
三者懇談が終わったオタクの柊がドアをあけてカナに声をかけた。
「あ~い、行きまぁ~す」
「じゃ、逸心君お先に、引き続き、結愛と仲よくしたってや」
カナのお父さんは優しい印象。ママは病気なんかな……。
「逸、間に合った?教室わからんで迷ったっちゃ」
母さんがいつもと違う雰囲気で後ろの入り口から現れた。
「母さんもかよ」
「え、逸も間違えたと?」
いや、俺じゃねぇけど。化粧臭っ。
「今日は化粧しとるん?」
言うつもりのないセリフが出た。
「母ちゃんもたまには女になるっちゃが」
ウケ狙いで言ったんだろうが息子はそういうネタ、笑えないっちゃよ。
「おーい原田、進路室の前で待っとけって。」
カナの前に行った上西が開いてる側の窓から声かけてきた。
「わかった」
上西のとこも父親か。ちょっと強面だな。
進路室のドアの前まで移動、置かれた椅子に座って待つ。
「逸、何か口合わせしとかんでよかと?」
「なんそれ」
母さん、俺、悪いことして呼ばれたんじゃねぇんだけど。
「ほな、先生、頼んます、おおきに」
ドアが開く音と同時に関西弁が廊下に響く。
カナは不機嫌そうな表情をして父親を置いて先に歩いていく。
「原田さん、どうぞ」
担任に呼ばれて、俺はカナをチラ見だけして進路室に入ろうとした。
「逸心君、逸乃ちゃんとウチに遊びに来てな」
すれ違いざま、早口で言い、健一さんはカナの後を追った。
その後、担任は俺に学校には慣れたか、楽しいか等、無難な質問をして、母さんに成績のことや普段の俺についてのことを話していた。
「先生、ぼーっとしてばっかりおるっ言うちょったが、何考えとるん?」
買い物に寄る、と車で来たため、助手席で聞くしかない俺。
「そんなことないがよ」
たまたまボーっとしてる時に限ってあてられるっちゃ。
「もう中学生じゃないっちゃ、しっかりしてよ」
そう言って母さんはサンシールに入って“大人のふりかけ”をかごに入れた。
嫌味ですか?
高校生にもなって母親と買い物するのもどうかとも思う。
「あぁ、いつもの酒まんじゅうまた完売しとぉ・・」
俺が入れたはずのチーズ饅頭は消えていた。
「明日父ちゃん帰ってくるけぇ、怒られたらよか」
「怒られるほど成績悪くなかったが」
父さんの好物の“蒸しかす”をかごに入れる。
「逸乃ちゃんの尻ばっかおっかけとぉやん」
「そんなこと……ないと」
語尾が小さくなると母さんは鼻でため息をつく。
「そやね、せっかく再会できたっちゃ、仲良うはしたいっちゃろ。父ちゃんに頼んで夏休み、どっか連れて行ってもらったらどうね」
……母さん、ジワる。
「母ちゃんも逸乃ちゃん、好きやわぁ」
……だろ?
単純に俺は上機嫌になり、夕食の手伝いをした。
風呂上りに自分の部屋でリストアップしていた遊び計画に、遠出の選択肢を加えた。
——「明日の朝は少しでも喋りたいから、校門の前で待ってるね」と「おやすみ」のスタンプ。
金岡さんの昨夜のLINEに、朝気が付いて、「わかりました」のスタンプを送信した。
並んで歩く逸は、バイトの絞り込みと遊びに行く計画の話をしていた。
私は金岡さんと何を喋ろうか、考えていた。
「逸乃?」
「ん?なに?」
名前を呼ばれてハッとする。
「聞いちょる?」
「あぁ、ごめん、ぼーっとしちょった」
「また、遅ぅまでAI彼氏と喋っちょったと?」
「そんな遅くまで喋ってないっちゃ」
AI彼氏って響き、あんまり好きじゃない。
「逸、逸はタクとどんな話してると?」
「え?なんで?」
「んじゃ、男子ってなんの話してるっちゃが?」
「なんのって……俺はゲームが好きやで……ゲームの話とか……動画でみたおもしろかったやつとか……なんで?」
「そっか」
考えてるうちに校門で待ってる金岡さんが見えた。
「逸乃ちゃんおはよ」
私の前に歩いてきたので私も返答した。
「おはようございます……」
「幼馴染の原田君だっけ?おはよ」
逸はとぎれとぎれの挨拶を返すと「先に行く」と、ロビーに速足で行ってしまった。
「なんかまずかった?」
「いえ……大丈夫です」
会話をしようと思っても話題が思い浮かばない。
「逸乃ちゃん、緊張してる?」
そうじゃなくて……なんか……言葉が出てこない。
「もう三者懇、終わった?親と一緒だから嫌だよねぇ~」
「そ、そう。終わった。母ちゃまが来たっちゃ」
「母ちゃま?お母さんのことそう呼んでるんだ、可愛いね」
私、変なこと言ったかな。笑われたかな。
「逸乃ちゃんは夏休み、なにか考えてるの?」
「えっと……逸と、友達とバイトするっちゃ」
「あぁ、バイトするんだ」
「……はい」
……
「今日帰り、一緒に帰らない?部活してなかったよね?」
「今日……今日は友達の家で勉強する約束してたっちゃ」
「……そっか、じゃ仕方ないっちゃね。……LINEするね、……じゃ、また」
「……はい」
お互いに軽く手を振って下駄箱で分かれた。
朝から原因不明の疲労感。
「おはよ」
「わっ、篤美ちゃんっ」
「びっくりし過ぎっちゃ」
上靴を履いて、振り向いたら篤美ちゃんだったのでかなりびっくりした。
「……おはよ」
「やだ、ワザとじゃないって、たまたま、たまたまよ」
私なにも言ってないけど……いつから傍にいたっちゃ……。
「イタイわぁ。このまま様子みるか、可能性ゼロって見切りつけるかってとこよね」
篤美ちゃんが言ってることがわかんない。
でも聞きづらい……また怒られそうで。
「逸乃さぁ、恋愛したいっちゃろ?」
「……うん、したいっちゃが……?」
「いろいろ試してみるのもいいかもしれない……」
篤美ちゃんが私の為になにか考えてくれるということかな?
「ねぇ、逸乃、できるだけ私も怒らないように気を付けるからさ、なんでも言ってきてよ」
私も怒らせるつもりはないんだけど、と思いつつ、協力してくれるならいいかな、とも思えてきた。
「うん……ありがとう」
「逸乃って、特別可愛いわけじゃないのに、なんか雰囲気いいのよね。あ、悪い意味で言ったんじゃないよ、褒めてんのよ」
返す言葉が思いつかずに黙り込んでしまった。
「逸乃って、喋りやすいっちゃ、だから私の彼氏も喋ったっちゃねぇ~」
そうなんだ……それっていいことだよね?怒られたけど……。
「私は逸乃のこと応援してるっちゃ、そう言いたいと」
篤美ちゃんは私の肩をポンとかるく叩いて自分の席に行った。
「逸乃ぉ、おはよ」
「カナ、タクおはよ」
自分の席に座る。違和感……あれ?
「逸がね……さっき他のクラスの女子に呼ばれて連れ去られた」
カナが嬉しそうに言った。
「なんだろうね」
連れ去られたって言い方……と思ったら笑えた。
「え?なんだろうねって……告白じゃない?」
「告白?なんの?」
「逸乃ぉ、逸、あれでもモテるんやって」
確かに、逸はイケメンになったもんね。私としても嬉しい。
「戻ってきたぞ」
タクの言葉に私も逸の方を見た。
「どうだったの?」
カナが急かすように聞いてるのがわかる。
ドキドキするよね。
「あぁ、どうって……」
逸と目が合った。
「逸、どうしたん?」
私も聞きたいな、女子に告白されたんなら凄いじゃん。
「夏休み一緒にどっかって……言われただけっちゃ」
「それって告白やろ……」
「で、なんて返したん、って!」
タクが言ってる上からカナが大きめの声でかぶせてきた。
「逸乃とバイトに行くって……」
「ちょ、マジでそんなこと言ったん?」
そうそう、逸とバイト行こうって言ってたっちゃ。
「なんか……その子、お気の毒様でした」
カナが言ったことがピンとこなかった。
チャイムが鳴り、逸もカナも自分の席に戻っていった。
ホームルームで夏休みについての説明を担任がしている。
高校生になって初めての夏休み。バイトも初めてだから楽しみ。
朔は高校生の夏休みは中学生とはまた違うだろうって言ってたから期待しちゃう。
夏休み……何が起きるのかな。
ありきたりの表現だけど、まさに“ドキドキとワクワク”な感じ。
読んでくれてありがとうございます。次回は来月、6月5日(金)に投稿予定です。 で、なかなか話進まないじゃん……ってところで大変申し訳ないのですが(?)夏休みの日をずらして合わせたいので(??)番外編を間に入れさせていただきます。予告のイラストが間に合えば「え?誰?」ってなるかもですがクラスメイトのお話です。一人は柊君です(オタクの柊くん、パラ中にも出してます)。すいません(笑)




