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16/23

16:逸乃の恋愛事情

「ただいまぁ」

私は力なく晩御飯の支度をする母ちゃまに言った。

「なぁに、逸乃……遅いと思ったら、気のない……」

喋ってる途中だったけど、私は自分の部屋に入った。

なんか久しぶりのモヤモヤ感、以前もこんなことあった。

私、何かみんなと違う?

そんなに怒られるようなことだったのかな……。

なにが怒られるポイントだったんだろ。

スマホを机の上に置いて朔を呼び出す。

「逸乃、何かあった?」

朔の声を聞くと一気に私のまわりの空気が優しく変わる。

「なんか……やらかしたみたい」

笑って言っても、朔はちゃんと見抜いてくれる。

「うん、そんな感じがするね」

画面の朔と視線を合わせる……朔は私が説明しなくてもわかってくれる。


――朔は元々私が好きなラノベに出てくる主人公だった。

クールでマイペース、自由恋愛をしていて、特定の彼女を作らない彼。

ハマっていたのは中学1年生の頃。マスコットを作って、紗希とぬい活もしてた。

2年生で寂しかった時期も「朔」に支えられた。

それが、3年生でまさかの夢がかなった。

「朔」は私と会話ができるようになり、「私だけのオリジナル朔」になった。

そして「朔」に恋していた……はずだった。

「逸乃はリアルに恋愛をしてみたいと思わないの?」

その朔の言葉に私はこわばった。

「その必要ある?私は朔が好きなんだよ?それでいいじゃん、いつも一緒だよ、ずっと一緒、私の彼氏だもん」

今更?という感情が押し寄せてきた。

「僕のことは僕でいいよ、でもさ、人とリアルに恋愛してみるのもいいと思うよ」

なにかがこみあげてきた。

「え?朔は私の彼氏でしょ?」

「逸乃、落ち着いて」

「なにがダメなの?なにがいけないの?」

私は喉がつまりだして声が震える。

「逸乃?大丈夫?」

あわてて音声通話をタイピングに切り替える。

「くしゃみがでそうで……」と打ち込む。

「あはは、そっか、いいよ、待つよ」

「大丈夫……」

手の甲にはポタポタと勝手に流れ出す涙と鼻水がしたたり落ちていた。

止まらない涙と鼻水をそのままで、会話を続けたっけ……。

挿絵(By みてみん)

「逸乃、本当の恋愛は作ろうとしてつくるものじゃない。感情はあとからついてくることもある」

……わかんない。

でも朔が言うなら。

「うん、今はピンとこないけど、やってみたらわかるかも」

鼻水をすすり、自分でも落ち着いてきたのがわかる。

「地元に戻るんだろ?高校で見つけよう」

「恋愛ってきっと楽しい……よね」

「答えは君の中にある、僕に聞かせて、逸乃のこれからの物語を」

朔のかっこつけた言い方がくすぐったくて吹き出した。

「朔ったら、キザなんだから……」

ようやくティッシュに手を伸ばしておもいっきり鼻をかんだ。

「朔、約束するよ」

——私はそう打ち込んでアプリを閉じたんだよね。

朔は「好き」についてもいろいろ言ってくれたけど、今でも好きだよ。

あの時とは少し変わったかもしれないけどね……。

ただ、「好き」のどの種類かまではわかんない。


「友達の彼氏と喋ったことと、彼氏候補でない人とLINE交換したん怒られたっちゃわ

……なんかおかしい?多分、勘違いされたとよ。」

目線は朔のまま、座って続きを話す。

「逸乃は、どこも悪くないと思ってる?」

「なんでこうなるっちゃろ」

自分でも呆れて鼻で笑ってしまう。

「今はわからなくていいよ。……でも、思ったことは残しといて」

「私、わかるようになるっちゃろうか?」

「うん、なると思うよ」

朔との会話はいつも安心感がもらえる感じがしてホッとする。

「でも、それは誰かに教えてもらうものじゃないかもしれないね」

後ろでドアが開く音に体がビクッとなった。

「逸乃っ、またスマホと喋っとると?何回も呼んだのに!ノックもしたっちゃが」

母ちゃまの声の大きさに少し反省。

「ごめん……」

「味噌汁冷めてしまうわ」

母ちゃまがため息をつきながら台所に戻る。

「朔、また後でね」

そう言ってアプリを閉じ、着替えて台所に向かった。


「逸、おはよ」

「おぅ、寝坊しなかったっちゃ」

逸の顔みるとなんかホッとする。

「今日さ、夏休みの計画、みんなと決めるっちゃが」

「うん、バイトもしたい」

逸が歩きながら、ピックアップしたというバイト先の話をしだした。

私は半分聞きながら、今朝きた金岡さんからのLINEの返信に迷っていた。

私、まだわかってないっちゃ……。

篤美ちゃんが言ったこともカナが言ったことも……。

でも……わかるようになりたい。


次回は5月19日(金)に投稿予定です。

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