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15/23

15:女子という生き物

翌日も俺は逸乃を誘って一緒に登校する。

これ、フツーにつきあってるように見えるよな。

「もー夏だよね、朝から暑すぎる」

逸乃が襟元をパタパタするしぐさがまた可愛い。

今更ながら、みんな夏の制服に変わっている。

「もうじき夏休みだもんなぁ……逸乃は何か考えてる?バイトとか……」

「うん、してみたいねぇ」

もちろん俺は逸乃と一緒にいたいからついていく。

昼休みは4人で夏休みの話題になった。

「私追試あるもーん、バイトしたいのにぃ」

誰が悪いんだよ。

「カナ、一緒に宿題しよ、ね?」

慰める逸乃は優しい……が、当たり前のようにタクの家に集まる予定になる。

「タクは夏休みって何か考えとる?」

「俺もバイトしようかなぁ~部活もしてねぇから、時間あるし、小遣い欲しいし」

「バイトもいいけどさ、どっか遊びに行こうよ~」

カナ企画、俺もまんざらではないので賛成。

「そこそこバイトで、そこそこ遊ぼうよ。高校生っぽくていいよね」

楽しそうに笑う逸乃が眩しい。

この夏休みで俺は逸乃と距離を一気に縮めてやるぜ。

「カナ、逸乃っ、ちょっと……」

黒木(くろき)さん=(あつ)()が手招きをしている。

黒木はクラスに3人いてそのうちの一人、篤美は仕切りたがりで、クラスでやや目立つ存在。

こないだコイツの彼氏が嫌なこと言ってたんだよな。

「こないだの話か?」

タクがカナの食べ終えた弁当箱を片付けながら言ってきた。

「ああ、そうかもな」


放課後、俺たちはタクの家にためらいなく向かう。

「でね~、今度はもっと話がしたいんだって~」

カナがチキン南蛮味のプリッツを食べながら篤美企画を開示している。

逸乃は自販機で一緒に買った日向夏ゼリー飲料を振っていた。

「カラオケで男子二人が盛り上がってたけどねぇ~。あ、でも今回、ファミレスだから食べても飲んでもいいってことだよね」

反省会の意味っ。

「篤美っちは今回で最後だと思うって言ってたよね」

篤美の奴、誘うの若干(じゃっかん)拒否(きょひ)ってたもんな。

「……ってか、俺ん()で何するんだっけ?」

勉強会だったとは思うが、肝心なカナがこれだからね。

篤美企画は明日、金曜日の夕方開催。なら反省会はまた月曜日か。


「逸乃おはよ」

「逸、おはよ」

今朝は寝坊せんかったっちゃ。

「逸乃っ、弁当忘れてるっちゃ、もうっ」

おばさんがあわてて持ってきたカバンを俺がうけとる。

いつもと変わらない逸乃と並んで歩き出す。

「逸乃は篤美の彼氏以外に興味ないの?」

言ってから俺、直球すぎ、と焦った。

「興味、って……みんなで一緒に遊んでたって感じっちゃ」

篤美はそうは言ってなかったろ。

「もし、もし、誰かが、つ、つきあってとか言ってきたら?」

俺のバカ。

「ははっ、あるかなぁ?」

あるっちゅーんだよ、どーすんだよ。

「つきあってみる……かなぁ……」

「ええっ」

思わず大きな声で返した。

「びっくりしたっちゃ。何かおかしいと?」

「いや……どうだろ。あ、おかしいかも、3年生だろ相手」

しどろもどろになるが、断固反対。

「私、彼氏ほしいっちゃもん」

衝撃くらった。確かに恋愛するとかいっちょったけど……。

言葉が出てこない。

「カナ、タク、おはよ」

逸乃は自分の席へ。近くにタクとカナが見えた。

「おはよ、逸乃。あれ?逸は?」

俺はなんとなく自分の机に向かい、力なく座った。

——昼休みも俺は、何か言いたいけどわからない、が頭を占拠していた。

「今日の弁当、逸の好きなヒレカツが入っとるよ?」

逸乃が箸で俺の口元にもってきた。

「ん、あぁ」

俺はためらいなく口に入れてもらう。

(えさ)もらうヒナですか?」

カナのツッコミにタクが肩を震わせていた。

「母ちゃまが、逸の好きなおかず聞くから言っといてあげたっちゃ」

ジンと目頭にきた。母娘(おやこ)で俺をキュン(さつ)する気か。

「普通さ、これだったらつきあってるって思われん?」

笑ってたハズのタクが凄いこと言ってきた。

「確かに……」

カナまで。

そうだよな?

「私と逸は昔からこんなだよ」

……はい、確かに。

タクの肩がまた震えている。

「幼馴染、ツヨっ」

カナの言った意味に何が含まれているんだろうか。


放課後、()かすように篤美がカナと逸乃を連れて駅に向かった。

「多分……俺の予想では、心配ない」

タクが察して言ってきた。

お前って、ライバルかも、って思ってたけど……。

「月曜日の反省会が楽しみだな」

……はい?


俺は夏休みのことを考えることにした。

逸乃のことが心配ではあったが。

バイトを検索、条件をみて応募できそうなところをピックアップ。

4人で遊びに行けるとこ、と、2人きりのイベントも検索。

そんなことをしていたらあっという間に時間は過ぎた。


月曜日の朝、やはり逸乃は変わらなかった。

俺は平静を装って、検索したバイトの話をした。

聞きたい事、確認したいことはあったが、一人では心細い。

教室に入るとカナもいつもと変わらない様子だった。

タクはニヤニヤしていた。

チラっと窓際に座る篤美は外を眺めていた。

……いまのところ状況わからん。

昼休み、すぐに逸乃とカナは招集された。

呼ばなくてもタクは弁当を持って俺の前に座った。

反省会……始めてくれ。

「まずは、二人とも、金曜日はお疲れ様でした」

違うパターンの始まり方に俺は息を飲んだ。

「じゃ、カナ、何か言うことあるでしょ?」

カナは早々に自分の弁当の蓋をあけていた。

「えっと、金曜日の……ことですよね」

「当たり前でしょ!」

篤美、こないだより怒っとる……。

「喋り過ぎたから?」

「単なる喋りすぎじゃなかったよね?」

カナはいつも喋り過ぎじゃん。

「あれは酷い、高山君、あの後静かになっちゃったじゃない」

俺とタクは意味がわからない。

「でも、最初にけしかけたのはアイツだし」

「高山君はカナのことはもういいって。あんだけこてんぱん(・・・・)にされちゃね」

カナ、なにやらかしたんだよ。

「逸乃は……わかってないっちゃ」

俺はやや前のめりになる。

「金岡くん、逸乃のこと気に入っちょったのに」

ため息交じりに言った。

「っていうか、なんで私の彼氏とばっか喋っちょったん?」

そういえば、篤美の彼氏も逸乃のこと言ってたな。

「金岡さんが?そうだったっちゃ」

「ちょっと待って、どう考えたって、そうに決まってるでしょ?人の彼氏と仲よくなってどうするワケ?」

「私、わかってなかったっちゃ」

逸乃、天然にもほどがある。

「まさか、逸乃、私の彼氏のこと……」

「篤美ちゃんの彼氏と喋ってたら楽しかったっちゃ」

「ええっ!」

ガタンっと大きな音を立てて篤美が立ち上がった。

「嘘でしょ?逸乃、何言ってんの?」

俺はびっくりして篤美の顔をチラ見した。

マジで怒ってる……。

「待って、篤美っち、逸乃はそんなつもりはないよ」

他のクラスメイトも数名、篤美を見ている。

「……だよね」

篤美は座ってペットボトルのお茶を口に含んだ。

「ただ、金岡君は、もう少し逸乃と喋りたいとは言ってた」

「ん、なに?」

「金岡君のインスタのQRコードよ」

篤美はスマホを逸乃に突き出した。

「あ、私インスタしてない」

「ちょっ、マジで?信じられない」

篤美、お疲れ様でした。

俺はここでホッとした。

「わかった、もう私の役目はこれで終わり。二人ともご自由に」

その後3人は黙って弁当を食べていた。

俺は篤美の彼氏に他に彼女もいることを言うべきか、とも思ったが、忘れることにした。


放課後、カナは吐き出したかったのか、俺たちを誘った。

サンシールの、喫茶スペースも高校生が集う場所。

今日はお婆さんが一人、菓子パンをモソモソと食べている。

「私も逸乃も反省するとか無いんだけどぉ」

カナが愚痴り始めた。

「中野、なにやらかしたんだよ?」

タクは楽しそうだ。

「関西人だろ?みたいなフリをしてきたワケ、ヤツは」

ソフトクリームにマドラーをグサグサ刺している。

「おもしろかったよ、さすがカナって思ったもん」

逸乃、笑ってたんだ……想像つく。

「私はフツーにヤツにツッコミ入れてただけ。そしたらムキになってやんの」

机に落ちたクリームをさり気に拭きとるタク。

「もう、ホントに漫才かと思ったっちゃ」

逸乃は楽しんだようで何より。

「私が思うのは、篤美の彼氏が、逸乃に話しかけてた感じなのよね」

カナ、鋭い、そそ、アイツは女ったらしだぞ。

「でも、金岡って奴は新河のこと気に入ってるみたいだな」

俺をチラ見するタク。う……それな。

挿絵(By みてみん)

「逸、さっきからスマホ、振動してない?」

カナに指摘されて、スマホをとりだす。

「ああ、なんか最近知らない奴からDMがくるっちゃ」

「逸、インスタしよると?」

逸乃はしてないもんな。

「あぁ、ゲームすんのに連絡とりあうためだよ」

操作してるとカナがのぞき込む。

「私も、逸のことが気になるって中学ん時の子からDMきた」

「なんじゃそら」

意味がわかんねぇ。

「俺のとこにもきた。誰かインスタで、クラスマッチあげてたら原田がうつってたらしくて。この子知ってる?とか」

「逸ぅ、なんかしたと?」

「逸乃、これはね、逸に注目した女子が()いたんやわ」

カナが言うにはインスタで気になる相手を探し当てる奴がまぁまぁいるらしい。

「へーっ、俺知らない奴は無視してた、いたずらかなんかかと思っちょった」

「逸、モテてるとよ」

逸乃に言われるとなんか変な感触。

「これは……面白い展開になるんじゃない?」

カナが言いたいことがよくわからんが、俺は金岡がひっかかる。


2人と分かれて、逸乃と残りの帰路を歩く。

「逸……DMがきちょる言うてたやろ?」

逸乃、気にしてくれてる?

「逸のこと、気にしてる女の子、返事待ってるっちゃない?」

俺のほうじゃなかった。

「うん……わかった」

逸乃が言ったことは無視できない、なんか返しとこ。

「逸乃は、金岡って奴のことどう思ぉちょるん?」

俺って素直。

「うーん……感じは悪くなかったっちゃけど、あまり喋らなかったから」

篤美の彼氏、邪魔しとおやん。

「逸が言ったように3年生っちゃろ?あまり一緒におれんっちゃ思うとよ」

変にリアルなこと言うな……。

「そ、そうっちゃ、なにかと不便っちゃ」

デメリット言っちゃえ。

ただな、好きになったらそんなこと関係ないっちゃ。

それに篤美は高校まで追いかけて一緒におるっちゃが。

黒木(くろぎ)夫妻みたいに高校生活を一緒に楽しみたいっちゃ」

身震いした。……なら、絶対俺じゃん。

バカップル、いいぞ、リスペクトだ。

逸乃と分かれた後、俺のモチベーションは急上昇した。


翌朝、逸乃とバイトと4人で遊びにいく計画を登校時に話す。

順調だ……と思ったら校門で見覚えのある男が立っていた。

「金岡さん……」

コイツか、なんだよ、朝から。

「おはよ、逸乃ちゃん」

思ったほどイケメンではないな。俺は1歩後ろの位置で待つ。

「篤美ちゃんから聞いた、インスタしてないなら、LINE交換しない?」

逸乃はためらっているようだが?

「じゃ……」

え、嘘だろ。

逸乃はスマホを出して奴とLINEを交換した。

「ありがとう、友達……からってことで」

爽やかな笑顔で去っていく金岡。

あれ?逸乃?

「なんか……断る理由、思い浮かばなかったっちゃ」

わかるけど、これはまずい……。


昼休み、通常通り4人集まり、弁当をシェアして食べる。

「逸、DM返したの?」

俺よりお前だろ、どうせLINE、奴からさっそくなにかきてるハズ。

「逸のことだからしょーもない返ししたんでしょ」

カナは箸の先を俺に向ける。しょーもないってなんだよ。

「俺は好きな子がいるって返したっちゃ」

「でた……DMでそれしたらもう終わったね」

「終わるって?」

今の“好きな子”って逸乃っちゃ。スルーされとるけど。

「そりゃ、彼氏候補から外されるんよ。早く彼氏欲しい子は特にじゃない?」

二個しかないハンバーグを二個とも食うカナ。

遠慮って概念がないのか。

「わかりやすいな、単純」

タクの感想。俺は一向にかまわん。

「篤美ッち……」

篤美が横に来ていた。俺たちの所になんだ?

「聞いた、逸乃、金岡君とLINE交換したんだって?」

情報早っ、彼氏経由か。

「うん……」

「じゃ、つきあうんだ」

なんか威圧感感じるのは篤美だから?

「そう決めたワケじゃないけど」

「え?でも彼氏候補ではあるんだよね?金岡君が逸乃のこと、気に入ってるって、私言ったよね?」

4人とも篤美の圧で固まってる。

圧……圧みちゃん、なんちゃって。

「でも、友達なら……」

「そういうところっちゃ。なんでも曖昧。天然とか、いらない」

……なんで俺まで刺さるんだよ。

「逸乃さ、そういうことで相手を傷つけることもあるっちゃよ?相手は気があるかもって思うっちゃが。」

「金岡さんのことは友達として……」

「違うっちゃ、逸乃はわかってないっちゃ」

言ってる途中でかぶせる篤美に黙るしかない逸乃。

「そんなこと繰り返してたら、自分も痛い目に合う、しかも相当に。せいぜい覚悟しとくっちゃね」

言い切ると、篤美は自分の席に戻った。

俺を睨んだ気もするが気のせいだろう。

クラスメイト数人の目線も消えた。

「なんか、怒られちゃった」

苦笑する逸乃の肩をポンポンとカナが慰めるようにたたく。

「わかるよ、逸乃は悪気ないって。でもね、男子はその気にさせると面倒なんよ」

モテるカナが言うと、妙に説得力がある。

「最初から友達ならいいけど、そうでない場合は断らんとダメってことよ」

「そうっちゃ……ダメっちゃね」

なんか、もう一つ判ってない気もするが。

奴が候補から消えたように思えて、ホッとした。

午後イチの授業が別の教室になり移動。

俺だけ忘れ物して教室に戻ってきた。

「え、なに?」

鍵をかけようとしてる篤美にちょいビビる俺。

「忘れ物を……」

「もう……」

急いで自分の机に向かう。

「原田ってさ、逸乃のこと友達なの?」

言われてドキ、よりもギクっとした。

「見ててイライラするんだけど」

は?なんでそんなこと言われるっちゃ。

挿絵(By みてみん)

「幼馴染っていうぬるま湯に浸かっててさ、一歩踏み出せないでいるの、バレバレ」

……ズシっと大きな衝撃がきた、コイツ何言いよるん……。

「逸乃も大概だけど、関係維持でビビってるヘタレ男子だよね。二人とも似たもの同士っちゃ」

ヘタレ……男子。

「早ぅして、私まで遅れるっちゃ」

「ごめん」

俺はそそくさと廊下に出た。

「あ、言い過ぎた。……けど今のまんまじゃ、逸乃は他に彼氏ができるっちゃね」

俺は篤美のどの言葉も刺さって体がこわばった。

そばに居たい、それは俺にとって絶対だから間違ってない気もする。

彼氏ができても一緒にいれると思ってた。

……違うのか?

逸乃が好きな相手ができれば、俺……相手にされなくなるっちゃが?

鼓動が早くなる。

なんか、俺、考えが甘かった……?

帰り道、俺も逸乃も、ほとんど喋らんまま歩いた。

少しだけ……逸乃の横顔を見た。


次回の16話「逸乃の恋愛事情」は5月22日(金)に登校予定です。

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