14:クラスマッチ
期末テストはタクと逸乃のおかげで俺は平均点の前後でセーフだった。
カナは英語だけ赤点。バイトができないと嘆いていた。
そして、黒木さんが言っていたクラスマッチが明日開催される。
単純に「球技大会」のことだ。
全校で一日全員参加のイベント。
「原田、男子はサッカーらしいが、なんとかなるんじゃね?」
俺の運動音痴を知るタクは、フォローをしてくれるようだ。
頼もしいぜ。
「女子はバレーボールだって、私得意だよ~」
カナ、箸をもったまま振り回すなよ。
赤点の発散するんだとはりきっている。
「私も中学のとき、体育でバレーボールしてたっちゃが。楽しみだね」
逸乃のレシーブ姿、絶対可愛い。
カナ、“スポーツは得意”ってタイプだよな。
まぁ、1日なんとか、よっぽどのミスでもしなければ、なんとかなるだろう。
当日、ところが……だ。
「おい、雨だよ」
俺はタクに棒読みで言う。
「そうだな」
サッカーが得意な奴らも若干テンションが低い。
それでも全員参加のため逃げることは不可。
種目は「サッカー」から「ドッジボール」へと変更になった。
女子の種目もドッジボールになる。
逸乃を見れるなら同じ体育館でもいいか、とも思った。
「ドッジボールかぁ、これまた得意なんだよねぇ、逸乃は私が守るからね」
カナ、そこだけは頼んだぞ。
窓が結露でじめじめした体育館内、校長の毎度っぽい開会式宣言を終え、張り出されたトーナメント表。
学級委員の上西が男子を、黒木さんが女子を仕切っている。
「1回戦はこのチームで行くけえ、準備頼む」
上西の独断と偏見?で編成したらしい。
「外野が5人、あと13人が内野に入ってくれ、外野から名前呼ぶ」
コートでは他のクラスが既に戦っており、俺は唾を飲んでチラ見していた。
コワっ。
「原田っ」
「は、はいっ」
上西に呼ばれてビクッとなる。
「原田は内野で俺は外野だってよ、もう次だから行こう」
タクに肩を叩かれて立ち上がる。
「え、逸ももう行くの?私もカナも呼ばれたから行くね」
クラスマッチで恋愛距離が縮まるだと?今回は見送りだな。
コートに入る前、クラスのテーマカラーはオレンジ。各自で揃えたハズのTシャツは色味がバラバラで、見るからに弱そうなチームだった。
「絶対勝つぞぉ!」
盛り上がる上西。
悪いな、俺は平和主義だ。
審判のホイッスルが鳴ると同時にコートの端に移動する。
ここでひっそり耐えよう……。
「原田、その“すみっコぐらし”逃げにくいぞ」
外野のタクが笑いながらの指摘。
しぶしぶ従い中央付近に戻る。
確かに中央は人少な目で動けるが、狙われやすくないか?
「原田、よけてばっかいないで、取ってなげろっちゃ」
上西はすでに相手チームを二人外野送りにしている。
かっこいいじゃん。
女子の歓声までとんできてる。
「原田、もう大丈夫だぞ」
外野から相手チームを当てたのか、タクが内野に入ってきた。
ホイッスルが鳴った。1回戦は順調に勝ってしまった。
「逸ぅ、凄いじゃん、真ん中で頑張ってた!」
逸乃が笑顔で褒めてきた。
女子も勝ったらしい。
「もう出番、私のかっこいいとこ、見ててよねっ」
カナが鼻息荒く言い放つ。
女子の2回戦が始まる。
タクと二人で座ってると後ろから3年生らしき男子が3人。
「お、いたいた、カナちゃんじゃん、お前の彼女も元気だな」
雰囲気からすると、この前グループデートに来てた奴ら?
タクと横目でアイコンタクトをとる。
「カナちゃん可愛いよなぁ、こないだは無視されたけど。もっかい彼女に頼んでくれよ」
おっさんみたいに飲み食いしてても可愛さが勝つんだな、と思いながら聞き耳をたてる。
「え~篤美、2番手だからな。こないだ喋ってきた逸乃って子面白かったけどな」
なに?逸乃?聞きもらさないように集中する。
「あぁ……あの目がおかしくて、頬に痣あった子なぁ」
もう一人の男だな。
「お前~篤美ちゃん以外にもいるもんな、悪い奴ぅ。逸乃ちゃん、俺もいいと思うんだよな、外見たいしたことないけど、なんか彼女にしたらいい感じな子っぽい」
なんかイラっとしてきた。
逸乃の良さわからんくせに立候補すんなっつうの。
タクが俺の腕を軽く肘打ちした。
逸乃がボールを投げて敵にあてた瞬間だった。
逸乃は、はしゃいでカナとハイタッチしてこっちを見た。
俺はうれしくて大きくうなずいた。
「わっ、見た?逸乃ちゃん俺に気づいてこっち見たぜ」
ちげぇよ、俺のほうを見たんだよっ。
タクが制するようにまた肘で俺の腕を軽く突く。
また女子チームは勝ったようだ。
気づいた黒木さんが彼氏らしい男のとこに駆け寄ってきた。
「見に来てくれたんだぁ、勝ったっちゃが」
いつもと声色がちがう黒木さん。
「ねね、篤美ちゃん、こないだの子、またセッティングしてよ」
「え~、あの子達で?」
黒木さんは嫌そう。
「篤美、してあげろよ」
彼氏の圧凄っ。
「聞いてみるよ……」
後ろを振り向かずに俺とタクは息をひそめていたが、カナと逸乃はこっちにこなかった。
「おーい、原田、杉田、次だぞぉ」
バカップルの黒木が声をかけてきた。俺、コイツ好き、彼女が幼馴染なんだよな。
「あっちゃん、愛妻パワー送っとくっちゃ」
相変わらずのラブラブっぷりだがクラスメイトは見慣れている。
「男子も勝ったら、クラスで優勝とかヤバくない?」
カナがちょうど寄ってきて、冷えたペットボトルをタクに渡した。
——俺のは?
「さっき自販機で当たりがでて二本目なんだ、少し飲んだけど」
おい、飲みさしかよ。信じられねぇコイツ。
あ、タク気にしないで飲むんだ……。
「逸、かっこいいとこ見せてよ」
プレッシャー半端ない、でも逸乃に言われたら俺、頑張っちゃおうかな。
もう、彼女みたいなもんじゃん。軽く手を振っていざ戦場へ。
ホイッスルが鳴れば緊張感半端ない。
このドキドキ感、俺、苦手。
上西に頼んで外野にしてもらった。ボールがきませんように。
「原田ぁ、そっち!」
上西の声。
バウンドしたボールを取り損なって追いかける。ダサっ。
「パスくれっ」
内野にいるタクだ。
バカ、そんなとこまで投げれねぇ。
5秒以内に投げんと……で慌てて投げる。
ボールはまさかの違う方向に。
「わぁッ、こっちかよ」
意外な方向にいったおかげで油断していた奴に当たってしまう。
手を叩いてはしゃぐ逸乃に目線でアピールするが……ヤバい、内野に入ることになった。
「バカなの?」
タクが笑いながら言う。
2回戦の相手は運動部の奴が多くて剛速球が飛び交う。
コワイ……早く終わってほしい。
一瞬だった「バシッ」音と強い衝撃と痛み、でホイッスルが鳴った。
「セーフ!セーフだろ!」
上西の大きな声。
「大丈夫か?原田」タクに声かけられてハッと我に返る。
めっちゃ痛い……。
俺は当てられたのにバウンドしたボールを黒木がとったのでセーフらしい。
うぅ……外野に行かせてくれ。
背中にジンジンと痛みが残ったまま試合は終わり、また勝ち残ってしまった。
……最悪。
「逸、凄い!小学生の頃とかなり変わったよね!」
なぜかうまいこと振舞えているようだ。逸乃にはウケている。
「男子はいいよねぇ、おもいっきりできるからっ」
不機嫌そうに言うカナ。
「あはは、さっきね、相手チームの女の子がカナのボールで痛かったからって泣かれちゃって……カナ、謝りにいったのよね、偉かったね」
「次も容赦しないよ」
カナ、反省どころか本気じゃん。
「逸、さっき背中に当たってたけど痛くないと?」
逸乃の手が俺の背中に触れた。
背中に意識集中、指先の柔らかさに痛み以上の刺激を感じ取る。
あぁオレンジ色の天使だ~今日、ドッジボールで良かったかも。
昼休憩を挟んで午後からは決勝戦。男女共、ウチのクラスは残った。
教室でいつものように弁当をシェアして食べ、体育館に戻る。
昼一番は負けたチームで順位決めと、教員によるエンタメ戦だ。
「あっはは、あの先生意外とやるっちゃね」
「おいおいあの年齢であぶないだろ」
大人が無邪気にボールと戯れる姿がウケて会場が違う盛り上がりをみせた。
そしていよいよ決勝戦が始まった。
とにかくギャラリーがすごい。
注目される、この状況の中でするのか、と思うと俺は横腹が少し痛くなってきた。
「あの、中野って子、マジで投げるからヤバいよ」
「カナちゃんって子、かわいいっちゃ、1年だってよ」
女子と男子で評価の違うカナ。
女子の決勝戦が始まり俺とタクは次の決勝にでるためやや遠いところで応援することに。
真剣な表情や笑ってる逸乃、ずっと見てられるな。
「原田、新河って、男子ウケそこそこイイみたいだな」
タクが淡々と言った。さっきの奴も言ってたな。
「ああ、だってあんだけ可愛いもん」
って自慢してる場合か。
「いや、新河の場合はスキが多いというか、喋りやすいっていうか」
「何が言いたいんだよ」
褒めてんのかどうなんだよ。
「原田は新河とどうなりたいわけ?」
想定外の問に鼓動が瞬時に跳ね上がる。
「どうなりたいって……もちろん……友達以上の……仲良くに……」
「お前がのんきにしてる間に他の男にとられそうだな」
「俺なりに考えてるよ……ただ、焦って失敗したくないだけで」
情けないこと言ってるのはわかってる。
会場が大きくザワついた。女子の勝負が決まったようだ。
「おーい、原田、杉田こっちだぞ」
黒木に呼ばれる。
「女子優勝だぞ、男子も絶対勝つやろ」
上西が興奮気味に言った。
俺の点数は上がっている、この試合で逸乃にもっと……
“あの頃とは違う俺”を見せつけたい……。
ホイッスルが鳴った。
決勝戦なだけに、殺気が凄い。
ただ、カッコ悪く逃げまわらないでいたいとは思った。
バンっと鈍い音がした。
「いってぇ、めっちゃキツイじゃん」
腕を撫でながら外野に行く奴をみてさらに心拍数があがる。
大丈夫、万が一当たっても逸乃が撫でてくれる、やましいモチベーションで覚悟を決める。
必死に動いてはいるが、内野の人数が減ってきている。
「逸ぅ頑張れ!」
逸乃の声が聞こえる。
「こいつしぶといな」
飛んだり跳ねたり必死なんだが、笑い声も聞こえてきた。
疲れた、もう限界かも……と思った瞬間足元に跳んできたボールを偶然踏んだ。
ホイッスルが聞こえる。笑い声と悲鳴が聞こえた。
何が起きた?
「あっちゃん、あっちゃんっ」
「原田、鼻血でてる」
黒木の元に彼女の陽菜ちゃんが駆け寄り、俺にはタクが体を起こすのに腕を引っ張っていた。
俺は転ぶときに黒木の石頭に顔をぶつけたらしい。
——試合は負けた。
笑いの原因は内野で走り回る俺と黒木がコミカルだったらしい。
「逸、めっちゃウケてたよ。最後、クリ坊踏み損ねたマリオみたいだった」
カナが笑いながら言った。
どんな例えだよ。
「でもカッコいいって言ってる女子もいたよ」
逸乃は嬉しそうに言った。
俺は鼻にティッシュを詰めたままの姿で閉会式を迎えた。
タクやカナと分かれていつものように二人きりで歩く帰り道。
逸乃は今日の出来事を楽しそうに俺に話した。
黒木さんの彼氏と喋ったこと、その友達と喋った……とも。
「俺、最後カッコ悪かった?」
「今日の逸、カッコ良かったよ。マジでモテると思ったよ」
逸乃の言葉に距離があるような、縮まったような、わからない感覚になった。
俺は逸乃から離れる気は全く無い、だからどんな形であっても傍に居たい。
焦らず、積み重ねて。
そして、……俺は、逸乃に選ばれて、……逸乃は、俺だけの彼女になる。
……なんて自分で思って、恥ずかしさがこみ上げてきた。
でも、そうなりたいと思った。
次回の15話は5月15日に投稿予定です。毎週金曜日に固定することにしました。




