シルフィード、武闘大会乱入
ノアの腹は妊娠によって少しずつ大きくなっているのが分かる頃、収穫祭が始まった。
流石王都と言うべきか、収穫祭の盛り上がりは地元の領地よりも大きく派手で、ここが稼ぎ時と言わんばかりの出店の数。
食い物屋だけではなくおもちゃの弓を使った射的のような店もちらほら見かける。
「この辺は流石王都、うちの領地よりもにぎわってる」
「そうね。でも領地の狩猟祭とか私意外と好きよ」
「そう言えば結構見てたな。他の領地から来た人も居たし、他の領地から見たら狩猟祭の方が有名かもね」
ヘキサグラム領で行われる狩猟祭。その時様々な魔物を狩るゲームであり、冒険者組合でつけられている難易度によってポイントが変わるようになっており、取得ポイントが高い者が優勝となる。
まぁこれ俺が企画したんだけどね。
父親が領地の魔物狩りが騎士団だけでやるのは大変だから少しでも数を減らせないかと悩んでいたのでゲーム風にして冒険者や狩人たちに協力してもらった。
もちろん商品も豪華にしており、宝石とか色々優勝すればもらえる。
「それにしても魔物の間引きのために祭りを開くなんて、面白いこと考えるわね」
「そのくらいしか思いつかなかっただけだ。結局魔物を間引くにはいろんな人の協力が必要だし、何のうまみもないのに手伝ってくれる人だって少ない。それなら少しだけでも遊び感覚で手伝ってくれる口実を作ってみただけだ。上手くいくかは運次第だったよ」
「上手くいったんだからよかったじゃない。それに褒美を用意して参加を求めるのだって悪い事じゃない。誰にだってやる気を起こさせるきっかけは必要よ」
「最初は商品が何が良いのか分からなくて思考錯誤したけどね。金貨じゃ面白みないし」
「それもそうね」
そう言いながら手をつなぎ収穫祭をぶらぶらする。
ノアの体調は全くと言っていいほど不調はない。
健康なのは良い事だが、本当にここまで不調が出ない物なのだろうか?
「ノア。もし疲れたり気分が悪くなったら言えよ」
「もう、あなたは本当に心配性なんだから。本当に大丈夫」
「それならいいんだが」
空元気みたいな様子もないし、やっぱり俺が気にしすぎているだけなのかな……
「お兄様ももう少し楽しんだら?せっかくの王都でのお祭りなのに」
リリアが出店で買った串肉を頬張りながら言う。
「そりゃそうだが、妻が身重だぞ?気にしない訳にはいかないだろ」
「はぁ。それはそれ、これはこれだよ。お兄様って本当に心配性だよね」
「心配性?俺が??」
意外な言葉に戸惑っているとリリアだけではなくノアまで驚く様な表情をする。
「まさか、自覚なかったの??」
「え?どゆこと??」
「それじゃ1つずつ言うけど、護衛に精霊ってどう思う?」
「どうって……これ以上ない良い護衛だろ?女性同士であまり警戒せずに済むだろうし、何より強いんだから安心できるだろ?」
「それじゃ次。リリアにカードを預けている理由は?」
「そりゃリリア自身がカードが好きだし、モンクーって言う護衛も付けられるしな。もっと言えば強いカード出して戦わせる事も出来るし、いざって時の戦闘手段は1つでも多く持っている方が良いだろ」
「リリアにはシルフィードと言う護衛がいるのに?」
「守ってくれる人は1人でも多い方が良い」
特に変な事は言っていないはずだが一体何を聞きたいんだろう。
「過保護」
「え」
「過保護確定。リリアも異議はないわよね」
「異議な~し」
リリアが手を上げながら賛同する。しかもリリアの肩に乗っているモンクーまで。
その姿に満足気なノアに、その言葉を誰も否定しない状況。
え、俺過保護なの??
「でも一体何を根拠に過保護だって言うんだ?みんなの事を守るのは当然だろ」
「確かにあの屋敷を任せれている以上当然のように聞こえるけど、はっきり言うとやりすぎ。シルフィードとレムルシャールの2人ですら普通の人間からすればどうする事も出来ないくらいの相手なのに、さらにモンクーやアバター達もいる。過剰戦力だって言っているのよ。それなのにあなたが連れているのはアバタードラゴンだけ。私達の身の安全よりまずは自分の安全でしょ」
「いやちゃんと確保してるじゃん」
「それに普通の召喚士だったら自分で召喚した精霊を他の人の護衛に使う事すらまずないわよ。自分の身の安全のために使役する」
「その辺りはほら、余裕あるから。多分そいつら魔力少ないのに無理に精霊召喚したとかそういう感じだったんじゃねぇの?」
「それじゃ知ってる?シルフィードの事」
「シルフィードの事?」
流石にそれだけじゃわからないので出店の小さなお菓子を摘まんでいるシルフィードに聞いてみると、口の中の物を飲み込んでから教えてくれた。
「前の主、つまり姫の事だが姫は私以外の精霊を召喚する事は出来なかった。それは確かにマスターの言う通り魔力量の問題もあったが、それ以上に十分だと判断されたから」
「十分ってお姫様を守る騎士は1人で十分って話?」
「それもあるがそれ以上に戦力の問題だ。私が本気を出せば、それこそマスターの魔力消費を考えなかければ国1つ暴風で吹き飛ばすくらいは可能だ。もちろん建築物などは残るだろうが戦いはそれだけではない。言ってしまえばどれだけ守れるかというのが焦点だ。それに私と戦うという事は風その物と戦うのとほぼ同義、人間から見ればどうしようもない相手と見られ、十分と思われるのは当然だろう」
「…………シルフィード、お前そこまで強かったのか?」
「そこからかマスター!?」
信じてなかったとかそんなんじゃないぞ。だから自信を打ちのめされて落ち込むのは止めて。
そしてレムルシャールは笑い堪えるの止めて、頬がパンパンに膨れてるから。
でも俺の中でシルフィードが本当にそこまでの脅威として見られているとは思ってなかった。
精霊がこの世界の人類よりも圧倒的に強い存在として見られている事は知っていたが、まさか国家戦略級というか、自然災害の擬人化みたいな扱いだとは思ってなかった。
普段クッキー食ってリリアの護衛をしているくらいしか見てなかったから、まさかそんな事が出来るなんて……
「クソ!こうなったら!!」
そう言ってシルフィードはどこかに飛んで行ってしまった。
「お~い、護衛業はどうした~?」
「あの愚か者め……マスター様申し訳ありません」
「レムルシャールが謝る事じゃない。それから1つ聞きたいんだがいいか?」
「何でしょう」
「もしかしてシルフィードとレムルシャールがいれば十分我が家守れる?」
「守れますね。彼女は風で、私は氷で守る事が出来ます。守るだけでよろしければ十分、敵国の軍隊が来ようとも守り抜く自信はあります」
「あ~それだけで十分分かった気がする。ノア達が過剰戦力って言っている意味が分かった」
どうやら想像以上にシルフィードとレムルシャールは強かったらしい。
というか軍隊が襲って来ても大丈夫って何?国1つ吹き飛ばすって何??
お前らそんなに強かったの??
なんて思っているとシルフィードが飛んで帰って来た。
「マスター今戻りました」
「お帰り。どこ行ってたん?」
「マスターに我が力を示すため、武闘会にエントリーしてきました!」
その言葉に俺は固まった。
ちなみにノアとリリアも固まった。
レムルシャールは顔を伏せて震え始めた。
「え~っと、武闘会って学園の催しの?」
「はいその武闘会です!」
「一般人参加できるの?」
「出来ました!冒険者や傭兵、腕の立つ騎士など広く募集していたので怪しまれる事なくエントリー出来ましたよ?」
何か問題でも?っと素直な疑問を浮かべるシルフィードにレムルシャールの雷が落ちた。
「この、自称騎士が―!!」
「え、何で怒られるんだ!?」
あ~……これ陛下に伝えておかないといけないんだろうか?
シルフィードを超える人間がいるとは思えないんだけど。
「なぁノア。これ陛下に報告しておくべきかな?」
聞いてみるとため息をつきながら頷いた。
「そうね、伝えておく方が良いでしょうね。精神安定上」
という訳で仕方なく陛下にこの事を伝えに行くのだった。




