もうすぐ収穫祭
特に変わり映えのしない学校生活。
それらしいイベントも一切なく、本当に貴族同士の交流がメインであるため、俺の様な必要な存在とのみ関係を築ければそれでいいと考えている俺にはあまり意味がない。
運悪くと言うべきか、他の辺境伯の次期当主達は俺の1個下、あるいは2個下という感じで年下の方が圧倒的に多い。
そのため今も彼らとは手紙でのやり取りが主であり、この学校で交友するとすれば来年からだ。
文化祭とか一切イベントがないのもつまらないな~っと、前世の頃なら絶対に言わなかったであろう言葉を頭の中で思い浮かべる。
日本にいた頃は他の娯楽が十分あったのでむしろ文化祭よりも家でゲームやマンガ読みたいが強かった。
今日もぼさ~っとしようと思っていると、朝のホームルームで担任が言う。
「もうそろそろ武闘会が始まるから参加したい人は僕に言ってね~」
武闘会?舞踏会じゃなくて??
意外な言葉に驚きつつも朝のホームルームが終わった後に先生に確認してみる。
「先生。武闘会って本当にやるんですか?」
「うんやるよ。王都で収穫祭をするときに学園側も出し物として武闘会をするのが伝統なんだ。実は色々理由はあるけど」
「理由、ですか?」
「そもそも始まった切っ掛けが当時の王様が貴族達がちゃんと国を守るための力を持っているか確認するための舞台でもあったんだ。貴族同士を戦わせて、次の貴族達はちゃんと国を守れるのか、それを図るための場として用意されたんだよ」
「そうだったんですね。それじゃ全員参加ですか?」
「今はもう違うよ。自主参加制だから希望が出たら、だね。でも意外と出る人は多いよ。陛下にこれくらい国のために貢献できますよってアピールすことも出来るから」
「へ~。ちなみに参加しなかった場合ってどうなります?」
「特に何もないよ。昔は全員参加だったけど、今はもうそんな時代でもないし、全員参加にしたら女子生徒も参加しないといけなくなるから」
「教えてくれてありがとうございます」
「このくらいなら別にいいよ~」
そう言って先生は職員室に帰っていった。
自主参加型なら特に気にする必要もないか。
収穫祭の出し物と言っていたし、久々にノアとデートでもしたいな。
いや、でも今妊娠しているしあまり歩かせるのもよくない?
色々考えていると何故か殿下が俺の前に立った。
「どうかしました?」
「武闘会、一緒に出ないか!」
「お断りします」
「即答!?」
もう遠慮しなくていいやと貴族としての役目をほぼ放棄しながら言う。
「だって武闘会ですよ。剣の腕そんなに高くありませんから遠慮します」
「別に剣だけではない。魔法もありなのだからそちらは精霊を召喚して戦えばいいではないか」
「それして周り面白くないですよね?人間同士が戦うのを見に来てるんじゃないんですか」
「むむ」
「それにさっき先生に聞きましたが、大元は陛下に力を見せるのが目的だったとか。それなら俺とっくに力を見せつけていると思いますが?王都に大混乱起こしながら」
「むむむ!」
「仮に出場したとしても何度も言うように俺は精霊を召喚して戦うことしか出来ません。シルフィードが他の参加者を倒す姿を見てあとからズルいとか言われたくありませんよ」
出来るだけズタボロになるように言うと殿下は分かりやすく落ち込んだ。
そんな殿下を慰めるアトラス。そしてベルがため息をつきながら注意する。
「あなた相手が殿下だって分かってます?王族を侮辱しすぎると本当に不敬罪で処刑されても止められませんよ」
「元々武闘会は自主参加、参加するかどうかは自由です。それに先ほども言ったように精霊任せで、あと俺は舞台でぼさ~っとしているところを見ても面白くないでしょ」
「そうかもしれませんが他国にこの国にはこれだけ強い貴族がいると主張する目的もあります」
「さっきも言ったようにその辺りは俺が王都を大混乱を起こす事でとっくの昔に目的を果たしていると思いますが」
なんかい同じ事を言えばいいのかとうんざりしているとベルはそっと耳打ちをしてくる。
「殿下は最近あなたに興味がおありなのです」
「それリリアの兄だからじゃなくて?」
「それも当然あるでしょうが恭しくされない相手が全くいないんです。それが新鮮な様で構ってほしそうにしているんです」
「……何かノアの面影がちょっと見えた」
ノアが最初に興味を持ったのもそんな感じの切っ掛けだったな。
「そしてリリア様の事もあります。リリア様は側室のみでありながらも殿下をコントロールできる数少ない方でもありました。なので現在では僕達を含めて肯定する人間しかいません。貴族として王族に歯に着せぬ言い方をする人は全くいないんです。今その役目を全うできるのはあなたしかいません」
「本当に大丈夫かこの国?王族の暴走を止めるのも家臣の仕事でしょ」
「それがほとんど機能していない状態なんです。だからおしゃべりだけでも付き合ってあげてください」
つまり殿下を注意したりする貧乏くじを引く役を引き受けて欲しいって事ね。
「え~」
「露骨に嫌な顔をしない!!これ僕達の中でもかなり危惧している問題ですから!!本当にお願いできませんかね!!」
などと言われるが貧乏くじを自分で引きに行くほど人間できてないぞ。
まぁ押し付けられたら仕方なくやるけどさ……
そう思いながら殿下に聞いてみる。
「しかしなぜ殿下がそこまで武闘会に私を参加させたいと言うのですか?先ほどと全く同じ話であればもうこれ以上お話しするつもりはございませんが」
そう理由を尋ねてみると、殿下はもじもじしながら言う。
「……活躍する姿を見せればリリアが戻ってきてくれるかな~っと」
「いや普通に無理でしょ。無理無理」
「そこまで言わなくても良いじゃないか!!」
何て言いながら泣く殿下。
情緒不安定か。
「私だって分かっている!!婚約が正式に破棄された今リリアと結婚する事が不可能だと!!でもこの気持ちを消し去る事も出来ないのだ!!」
「その気持ちをクロエス様に置き換えてください。悪い方ではないではありませんか」
「いや、クロエスに関しては彼女は悪くない。貴族として当然と言えば当然だが、彼女の母親がかなり権力に拘る方でな、正直に言うと彼女の母が怖い」
どんだけ怖がられてるのクロエス様の母親。
そうなのと確認するためにアトラスとベルに視線を送ると頷いた。
「ああ、クロエス様の母君の権力欲はかなりの物だ。クロエス様がお生まれになった時、これで王家に近付けると狂喜したらいい」
「あの方自身陛下の側室になるためかなり色々な事をしていたとの噂もあります。大公夫人という地位に居ながらそれ以上を求めているのですから、相当かと」
それは怖い。確かに怖い。
権力に縋りついてるタイプだな。
だがそれでクロエス様との距離が出来てしまう事も非常に悲しい事だ。
だってクロエス様何も悪い事してないじゃん。
その母親が怖いからという理由で避けられるのは理不尽と言うか、ちゃんとクロエス様の事を見てやれと思う。
これじゃクロエス様からも愛想つかされるのも仕方ない。
「殿下……普通に無視しましょ、ヴィーナ夫人は見なけりゃいいんです」
「いや、そういう訳にも――」
「クロエス様からも愛想つかされて婚約破棄食らったら笑われるの殿下ですよ」
そう言うと苦々しい表情をした。
どうやらちょっとは自覚があるようだ。
「それが嫌ならますは本人を見る。ヴィーナ家じゃなくてクロエス様を見る。まずはそこからです」
「それでうまくいくのか?」
「さぁ?それはお互いの心がどれだけ離れていないかによります。もし本当にヴィーナ家の娘として役目を果たすと言う考えであれば殿下の方から婚約破棄を言わない限り関係は続くでしょう。本当にただの契約としての結婚でいいのであれば」
俺がそう言うと殿下は少し落ち込んだように見える。
どうもこうしてちゃんと見てみるとノアと似たり寄ったりの部分があるな。
王族としての役目を果たそうとすると同時に民衆のような恋愛に憧れたり、好きだと言える相手と居たいと強く思ったりが。
「それが嫌ならまずはクロエス様の事をちゃんと見る。相手の良い所を見つけてまず褒める。まずはそこからです」
「しかしそれではヴィーナ夫人に付け込まれる隙を生み出してしまうのでは?」
「その隙を利用しようとするくらい単純ならそこに罠でも張っておいてください。引っ掛かったら法の下に罰せばいいんですから」
まぁ何するのか全く知らんけど。
娘が王族の嫁いだ~っと言ってはしゃぐだけなら放っておけばいいし、その権力を利用してあくどい事をしようとしていたのなら監獄にぶち込めばいいのだ。
でもそれがしっかりと判明できるようになるにはクロエス様との関係の良好さが肝になると俺は思っている。
「……言われてみれば確かに。わざと分かりやすい隙を作り、そこに相手を嵌めるのは常套手段だな」
「後この作戦クロエス様との関係性によって成功率は変わります。仲が悪かったらクロエス様の手で隠されると思いますよ」
「…………分かった。もう少しクロエス自身の事を見てみる」
もうこれでいいかな?
そう思いながらベルを見るとまぁいいだろうみたいな表情をする。
良し!
上手い事武闘会についてずらす事が出来た!!
収穫祭はノアとデートしようっと。




