加護?
世の中にはつわりが酷いと言う人の方が多いようなイメージがある。
だが目の前にいるノアは全然そんな事がなさそうだった。
「これ美味しいわね」
そう言いながらゴルドーさんからもらった肉をステーキにして食べている。
「持ってきた俺が言うのもなんだけどさ、本当に大丈夫なの?つわり?」
「ん~。どうも私そういうの全然ないみたい。むしろお腹が減るようになった?」
「そういうもんなの?」
ノアの母親に聞けば分かるのかもしれないが、何らかの遺伝でつわりが強く出ない体質なのかもしれない。
まぁ元気に飯食ってくれている方が安心するっちゃするんだけど。
「それにしても気に入られたな、そいつに」
ノアの隣の席で稗だか粟だかをつついて食べるアバターバード。
特に鳴くわけでもなく、大人しくノアの隣に居続けるだけ。
レムルシャールは精霊王の分霊である事は分かっているようなので少し緊張気味だったが、最近はそんな事もなく普通に仕事をしている。
というか本当に何もしないんだよな、このコウノトリ。
時々ノアの様子をうかがうようなそぶりは見せるが実際に何かを行っているようには見えないし、魔法の様な物を使っている様子もない。
本当にただそこに居るだけだ。
「ええ。ただ何というか、違うの」
「違うって何が?」
「この精霊の興味が私じゃなくてお腹の子みたいな感じ。私に気を使っていると言うよりお腹の子が無事かどうか確認しているって言えばいいかしら」
「……なるほど。それはそれで不思議だが納得するしかないか」
実際ノアの体調がよくなっているのであれば別にいい。
なんて思っているとレムルシャールが言う。
「セイントス様は生命を司っております。おそらくノア様のお腹の子が元気に育つよう加護をお与えになっているのではないかと」
「そんな事が出来るのか?」
「分霊の状態で出来るのは精霊王様だからですが」
……やっぱり少し視野が狭くなっていたかもしれない。
確かに俺が召喚すると情報がカードとして知る事が出来るのは大きなアドバンテージだ。
しかし本当に彼らの力はそれだけなのかと思う部分もあった。
例えばシルフィード。
彼女の力は風というシンプルに早い事が最大の強みだが、俺の魔力を少し消費するとはいえ精霊を召喚して見せた。
カード効果に似たような記述はあったがそれはあくまでも攻撃のため。ただ召喚する事は出来ないと考えていた。
だが実際には召喚する事が出来たし、もしかしたら気が付いていないだけで何らかの効果を発揮しているかもしれない。
「その加護って奴は精霊王じゃないとできないのか?」
「いいえ、全ての精霊ではありませんが私やシルフィードのような高位精霊なら相手に加護を与える事が出来ます。と言っても精霊王様に比べると地味ですが」
「例えばどんな?」
「私の場合だと夏でも少し涼しくなります。あと病気にかかりにくくなります」
「あら便利。そう言えば今年の夏は涼しかったけどレムルシャールのおかげだったのか」
「そしてあの怠け者の加護は足が速くなる、そして音が聞き取りやすくなります」
「意外と物理。あと音が聞き取りやすくなるってどの程度?」
「流石に個人差がありますし、耳をすませば遠くの音も聞こえるようになる程度だと聞いた事があります」
「おい。私が大した事がないような言い方は止めろ」
シルフィードも話に参戦……というよりはレムルシャールと口喧嘩を始めた。
加護の内容はゲームみたいなものとは違ったが、これは召喚した精霊によって変わるんだろうか?
でもこれでやっぱりカードに書かれている情報が全てではない事は証明された。
だがそうなるとスピリット達はカード通りの情報しかないのだろうか?
一応だがまったくない訳ではない。
おそらくヒントはフレーバーテキスト、なんかおまけみたいに書いてあるあれ。
本来の役割的にはゲーム世界の世界観を伝えるためだったり、そのスピリットの心情とかを書いてあることが多い。
あれに書いてあることがスピリット達の出生や物語の出来事に関して書かれているからもしかしたら?あそこから何らかのヒントが得られるかもしれない。
しかしフレーバーテキストによってはさっき言ったようにスピリットの直接関係するものでない事が書いてあることもある。
だからやっぱり違う可能性の方が高い。
「う~ん」
「お兄様今度は何を考えてるの?」
「いや、その加護って奴の正体は何なんだろうな~って思ってただけ。リリアはモンクーから何か感じたことあるか?」
「う~ん。モンクーちゃんからはないかな。でもモンゴクーを召喚した時はちょっと違ったかも」
「え、マジで?」
俺がカタストロフィーを召喚した時は特に感じなかったが、リリアには感じる事が出来たのか。
「と言っても実際にどんな効果があったのか分かった訳じゃないよ。ただなんとなく守られている感じがすると言うか、そう感じたってだけだからどんな効果?って聞かれると分かんない」
「まぁそりゃそうだろうな」
だとしてもリリアがモンゴクーを召喚し、加護の様な物を感じたという体験は貴重な証言だ。
もしかしたら俺も感じなかっただけでスピリット達からも加護をもらっているのかもしれない。
でもモンクーでは感じず、モンゴクーだと感じたという事はレア度が関係している?
モンゴクーのレア度は1番上、まぁXXレアという物もあるがあれはほぼシークレットに近いからノーカンとして、通常であればXレアが最上位。
加護を感じる、あるいは与えられる基準がレア度だとしたらやはりノーマルカードからは加護を得られない可能性の方が高いか。
ブレイドから加護をもらっていた感じはしないし、ノーマルカードでも加護がどんどん入るのであれば低コストデッキで無双できるかもしれない。
その場合俺自身が戦う感じになると思うけど。
一応護身術程度に剣は学んだが、戦場で戦えるだけの力を持っているかと聞かれれば持っていない。
それに戦場で人を殺す覚悟もぶっちゃけない。
あの戦場ではトリップ?というか戦わないと生きて帰れないという強迫的な気持ちだったからこそできたのであって、通常の状態では難しい。
やっぱり加護の事はあまり気にしない方が良いのかな?
スピリット達に頼んでやっと戦えるのだから、無理に自分でと考えない方が精神的にも助かる。
「分かった。でも頼り過ぎないように気を付けるよ」
「そうしていただけると助かります」
「人間の中には私達高位の精霊と契約する事で強くなると勘違いしていている者達もいる。確かに多少は戦いやすくなるかもしれないが、絶対的な力と言う訳ではない。それならマスターの様に戦いは私達に任せてもらう方が良いだろう」
「それじゃ申し訳ないがこれからも頼むよ」
俺の言葉にシルフィードとレムルシャールは頷いた。
とりあえず頭の中で加護についてはリセットだ。
カードに記述されていない効果について気にし過ぎた。
頭の中をリセットして、しっかりと考えよう。




