気の早い懐妊祝い
ノアの懐妊。それは即座に国中に広がった。
貴族は新聞で、市民は噂話などで知り大いに盛り上がった。
「いやなんで?」
新聞を読みながらノアの妊娠がここまで持ち上げられる事が不思議でならない。
ノアが今も王家に居るのであれば不思議ではないが、もう既にノアは俺の妻であり、言い方を変えればヘキサグラム家の者と言っていいはず。
それなのに何故ここまで持ち上げられるのだろう?
「お兄様は嬉しくないのですか?」
「ノアの事か?嬉しいが周囲からこんな風に祝われるのが疑問と言うだけで嬉しいぞ。でも何でこんな大々的に発表されたんだ?」
「陛下の思惑でしょうね。私が嫁いでそれだけ関係が良好であるとアピールしておきたいんでしょう。私もやり過ぎだと思うけど」
何て言いながらノアの体調は比較的普段通りに戻っていった。
妊娠初期は疲労感や朝起きれないなどあったが今ではすっかり落ち着いている。
「ノア。本当に大丈夫なんだよな?」
「もう体調は治ったわよ?」
「いやだってさ、妊娠するとつわりとか色々体調が悪くなるって聞いてたから無理してないよな?っと思って」
普通に朝食、卵やベーコンを食べる姿は俺が想像していた妊婦の姿とは違う。
妊娠によりホルモンバランスが崩れ、味覚や体調が不安定になると聞いていたので、ここまでいつも通りだと逆に無理をしているのではないかと心配してしまう。
だがノアはあっけらんとしており、むしろ俺の言葉に首をかしげている。
「そうなの?今のところは……そういう事もないわね」
「そうか。無理するなよ」
「あなた。心配してくれているのは分かるんだけど、そこまで心配されるとむしろ気を使っちゃうわよ。私はいつも通りだからあなたもいつも通りにしていて」
「ああ……」
それを言われてしまうとその通りなんだが……ノアはこういう症状に強いタイプ、だったんだろうか?
個人差は出るだろうがここまで全く何事もないと安心していいのかどうかよく分からない。
ノアを見てくれた婆ちゃんは代々王族の産婆をして来た一族だそうで今後も頼る事になった。
今後は1週間ごとに様子を見、ノアの体調管理などをしていくそうだ。
そして俺はそんな妻を置いて学校へ。
学校に到着した途端周囲から奇異の視線にさらされる。
これに関しては仕方がない。
本来貴族の中であっても学校を卒業した後に結婚式を行い、その後に子供が出来るのが普通だ。
最低でも婚約者の段階で妊娠というのは非常に珍しいし、我慢できなかった品のない奴と言われても仕方がない。
だが同時に一部の者達から強い視線を感じるが敵意はない。
それなら別にいいかと無視して教室に入る。
教室の中でも奇異の視線にさらされるが、意外な3人が俺の前に立った。
「ノアの懐妊、我々の耳にも届いている」
殿下とその側近2人が俺の前に立つ。
「後日陛下がノアに祝いの品を送ると言っていた。その事を伝える」
「ありがとうございます」
「それから……」
そう続けたがなかなか声に出さない。
じっと待っていると殿下は目を泳がせながら言う。
「ノアは、幸せそうか?」
何と意外な質問につい普通に答えてしまった。
「ええ、喜んでくれています」
「そうか」
それだけ言って殿下は席に戻る。
しかし側近達はまだ戻らず俺と話を続けた。
「私達もノア姫様のご懐妊、祝福させてもらう」
「ご懐妊おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「……そんなに意外か?」
「それは……まぁ。てっきり非常識だのなんだの言われるとばかり思っていましたので」
「それはその通りでしょう。普通は2人とも学園を卒業した後、早くてもどちらか一方が卒業した後です。気が早いにもほどがある」
眼鏡はそう呆れながら俺に苦言を言う。
「まぁ……気持ちが先走った事は事実ですので申し訳ないとしか言いようがありませんが後悔はしていません」
「当然だ。後悔などされてたまるか」
「お前ももう少し素直になれ。ノア姫様の事を心配していたと言えばいいだろうに」
「な!?」
ガタイの良い方が眼鏡に言う。
眼鏡は顔を真っ赤にして怒っているのを見ると気があったのだろうか?
「ともかく私達もノア姫の懐妊にはめでたいと思っている。少々早いと感じている事も事実だが」
「流石にそれは分かってます。愛しすぎました」
冗談半分でそう言ってみると、ガタイが良い方は茫然としている。
眼鏡の方は呆れたような感じでため息をつきながら頭痛でもしたのか眉間をもんでいる。
「そのような事が言えるのであれば問題ないようですね。それでは失礼します」
そう言って去ろうとしたのでふと思った。
この2人名前知らない。
「あ、1ついいですか?」
俺が声をかけると2人とも振り前った。
「お2人の名前、聞いてもよろしいですか?」
なんて聞いてみると眼鏡は呆れながら、ガタイの良い方はそう言えば名乗ってなかったと思い出したように言う。
「私はアトラス・キュリーだ」
「僕はベル・デュアル。本当に今更だね」
そう言って殿下の元に帰っていった。
多分あいつらとも長い付き合いになっていくんだろうな~。
そんな予感をしながら今度はエムリアール嬢が声をかけてきた。
「ノア姫様のご懐妊。おめでとうございます」
「ありがとうござます」
「贈り物をお渡ししたいので放課後にサロンでお話よろしいでしょうか」
「分かりました。では放課後にまた」
こうして放課後まで一応授業を受け、放課後エムリアール嬢がいるサロンによる。
「お待たせしました」
「改めてノア姫のご懐妊おめでとうございます。上手くやりましたね」
「上手くとは?」
「そのままの意味よ、よくノア姫様をそこまで心を開かせたわね。幼いころの姫様を知っている者にとってまさか本当にこんなに早くご懐妊するなんて誰も予想してなかったわ」
「いや~何というか、戦場から帰ってきた後から子供欲しいって言われるようになりまして、欲望に負けている間にいつの間にかできてました」
「タイミング的にはあっているわね。それで何が欲しい?」
「欲しいとは?」
「懐妊祝いよ。貴族としてノア姫様に贈り物をしないといけないの。生まれた後も改めて送るから何が良いのか聞いてるの」
「そんな要求するなんて図々しい事できませんよ。というか大丈夫なんですか?賄賂的な意味で」
「懐妊祝いなのだから問題ないわ。それより欲しい物は何」
何て強く聞いて来るので少し考える。
やっぱりほしいのは……
「おむつ、とか?」
子供が生まれると考えるとやっぱり欲しいのは生まれてくる子供のための物だ。
おむつに赤ちゃん用のおもちゃ、絵本とか?が欲しいかもしれない。
なんて思いついたままの事を言うと何故か頭を抱える。
「おかしな事を言ったでしょうか?」
「……いえ、おかしな事ではない。それは認める。でももっとそういう生活必需品じゃなくて、何か嗜好品とかないの?お酒とか、絵画とか」
「あ、お酒は授乳期間終わるまでいただけないです。酒とか飲むと腹の子に悪影響が出るらしいので、授乳中も」
「それは気を付けておくわ。じゃなくて!贈り物として何が欲しいのか聞いてるの!!」
「そう……ですね……あ」
「何か欲しい物があるの!?」
「離乳食の作り方が書いてあるレシピ集みたいなのがあったら嬉しなって思います」
エムリアール嬢はスライディングをするようにズッコケた。
「分かった。それじゃこちらで勝手に選ばせてもらうけどいいかしら?」
「それでお願いします。出来れば子育てが便利になる物でお願いします」
「ええ、そうしておくわ」
何故か疲れた様子で言うエムリアール嬢。
そんなに変な事はいってないはずなんだけどな。おむついくつ必要なのか分からないし。




