ノア、妊娠した
「……これで一応完成か」
「完成……じゃダメですかね?」
コピー機産業に一応の終着点が見えた。
安定したコピーに原稿の取り換え、インクの使用量など最低限の基準をクリアしたコピー機が一応完成した。
「申し訳ありませんアレックス様。我々も手を尽くしたのですが、これ以上は現在では難しいかと」
「機能に関しては問題ないさ。その代わり安全性は大丈夫なんだろうな?」
「それはもちろん。カバーを外し、歯車に直接手を突っ込まない限りはほぼ安全です!安定して使用し続ける事は1週間連続駆動にも成功していますし、定期的に修理をすれば問題ないかと」
「逆に全く手を加えずにどれくらい稼働できる?」
「あくまでも計算による予測ですが、2年は大丈夫です。ただしこの計算は無理なく使用した場合であり、1日連続で8時間を超える使用の場合には半年持つかどうかという所ですが」
「分かった。それから特許の方はどうなってる」
「特許は全て出願し、正式に認められました」
「分かった。それじゃこれから複写機の量産、販売に動くぞ!!」
俺の言葉に従業員たちが歓声を上げる。
複写機の製造にはかなり時間がかかったためようやく一息つける。
特に初期からかかわっていた技師、ホルンとカルムは感涙している。
「やっと……やっと完成って認められたっ!」
「長かった、長かったですね……」
感涙と言うよりは苦労して疲れていたと言う方が正しいのかもしれない。
まぁ俺の理想が高すぎたと言うのが一番問題だったのかもしれない。
何せ前世の頃にあったコピー機、あれが再現できないかと最初に思ってカラーコピーとか、小型化とかできない相談していた。
だが現在の技術やインクの素材的に現状では無理と結論付けた。
カラーコピーのためにコピー機用のインクを開発するのは無謀だし、畑違いにもほどがある。
その結果カラーコピーは諦め白黒で大量及び高速で印刷できることに技術を集中させた。
あと小型化も検討したがどうしても高価な物になってしまうため、一般家庭では普及しようがないので工業製品のような感じに落ち着いた。
まぁつまり家庭用は諦め、新聞会社にある様な印刷機を目指した訳だ。
でもカラーコピーだけは諦められなかったので今後も研究は続けていく。
「次はもうちょい家庭向きに開発したいな」
俺がそう言うと歓声がぴたりと止まった。
何で?っと思っているとパンサーが恐る恐る聞いて来る。
「ぐ、具体的にはどのような魔道具をおつくりになりたいと思っているでしょうか?」
「う~ん。やっぱり食材の長期保存が出来るような物が良いかな~。それなら家庭でも普及しそうだし」
「具体的にはどのような物にするおつもりで?」
「そうだな~……やっぱり家に合わせた縦型がいいよな~。容量とかも確認しなきゃだし、まぁその内で良いだろ。今は休んでもらうべきだからな」
そう言うと開発者達はほっとしたように息を吐く。
しかしパンサーだけは俺に耳打ちをしてきた。
「アレックス様、その魔道具の草案だけでもいただけますか?」
「ん?分かった。あとでまとめて提出しておくよ。あとみんなからの意見もな」
「承知しました」
こうしてコピー機は販売されることが正式に決定された。
今後は販売していくがやはりどうしても使用する場所は限定されてしまう。
今使っているのはエムリアール侯爵がいる裁判所のみであり、他にも大量の書類が必要な場所は現在限られている。
何せ識字率が低いという事はそれだけ本や新聞が求められていない事に繋がる。
知りたい事は調べろ、じゃなくて聞けが基本だ。
だがそれでも小説は販売されているし、絵本なども存在する。
だから出版社の様な所には求められるだろうが過程では要らないのも納得だ。
小型化をあきらめたのはそういう理由もある。
領地の会社から屋敷に帰ってくるとノアが出迎えてくれた。
「あなたお帰りなさい。仕事は問題なかった?」
「問題なかった。だから明日から複写機の販売に入る。まぁあまり数は売れないと思うけどな」
「便利だけど大きいから仕方ないわ。それに1つあれば十分だし」
「だから物で稼ぐと言うよりは修理費などで稼ぐの方が正しいかもしれない。カード事業の手助けとはいえ、カラーも出来てないし、やっぱり色々な要素が上手くかみ合わないと上手くいきそうにない」
「そう。それでもリリアの夢の一部が完成したのだから良い事じゃない」
「まぁそうなんだけどな」
前世の感覚でコピー機なら各家庭にあっても不思議ではないと思っていたが、やっぱりある程度文明が発達していないと家庭用は要らないわな。
前世だってネットが普及して家で印刷する必要があるからって理由でコピー機買ったし。
なんて思っているとノアの顔色が少し悪い事に気が付いた。
額に手を当てて熱がないか確かめてみるが、特にそういうことはなさそうだ。
「あなた?」
「体調悪いか?無理してないか?」
「心配するほどではないわよ、今日はちょっと調子が悪いだけ」
「そうか?一応医者呼んでおくか?」
「大丈夫よ。ちょっとだるい感じがするだけだから」
「それならいいが……無理するなよ」
「……それなら今夜も甘えさせて」
「一緒に寝るだけだぞ。体調が悪い時に無理させられねぇだろ」
「え~。それなら優しくしてくれればいいだけじゃない」
「無理。そう簡単に出来るなら俺の理性はもっと強いっての」
「……仕方ないわね。それじゃ大人しくしてる」
少し不安が残るが本当に医者に診てもらわなくて大丈夫なのだろうか?
ノアの初めて弱気な感じに少し俺はビビっていた。
――
何と言うか、ノアの症状が良くならない。
一緒に起きるときノアの方がすぐ起きれていたのに最近は俺よりも寝坊をしている。
夜になると疲れたと言って甘える。
食欲もまばらで朝はそんなに要らないと言う時も増えてきた。
症状1つ1つは軽いものの、それがしばらく続いているのを見ると不安になる。
なので医者を呼んでノアの事を診てもらう。
「大袈裟じゃない?」
「俺が戦場から帰ってきた時と同じ。心配だから診てもらうの」
そう言うと渋々と言う感じで医者に診てもらう。
担当医は少し考えながら言う。
「失礼。ノア姫様には専門の方をお呼びしますので少々お待ちいただけますでしょうか」
専門家という言葉に俺は過剰反応した。
「それは大きな病と言う意味か」
「そうではありません。ただ私よりもこの症状について知っている方がおります。なのでその方に改めて診断してもらうと言うだけです。私の予想が正しければ重い病などではございません」
重い病ではないと言ってくれているがそれでも心配な物は心配である。
「あなた」
ノアがそっと俺の手を取りながらにこやかに言う。
「大丈夫よ。彼は私の専門医であり、城にいた時からの名医。彼の言葉は信用できる。だから落ち着いて、ね」
「……分かった」
渋々納得してからその専門医の到着を待つ。
次に現れた医者は女性、はっきり言って婆ちゃんだ。
「ノア姫様、お久しゅうございます」
「え?専門の方ってあなたなの?え、それじゃ……」
「それを明確にするために呼ばれましたので少々診させていただきます。旦那様は少々お待ちください」
「……頼む」
俺にはそれしか言えなかった。
自分ではノアの事を守る事も出来ない事にイライラしているとリリアや他の者達も心配してきてくれた。
「お兄様、心配しているのは分かるけど落ち着いて」
「落ち着いてる」
「貧乏ゆすり、足ずっと動いてる」
リリアに言われるまで気が付かなかった。
無理矢理貧乏ゆすりを止めるとリリアはくすりと笑ってからデッキを出す。
「気分を紛らわせるためにバトルする?」
「……する」
妹に情けない所を見せてしまったが、本当に何か別な事をしていないと落ち着かない。
バトルをしながら時間を潰すと専門医とノアが部屋から出てきた。
「ノア!大丈夫か!?」
「大丈夫よ。病気じゃなかった」
「そ、そうか」
ホッとしていると専門医の婆ちゃんは言う。
「長生きはしてみるもんですじゃな。姫様の事、これからも大切にせねばなりませぬよ」
「それは当然だが……結局あれは何だったんだ?」
原因は何だったのかと聞くと婆ちゃんは笑いながら言った。
「ほほほ、おめでたですじゃ」
おめでた、それってつまり……
「妊娠してました」
ノアが嬉しそうに言うので俺は優しく抱きしめる。
「そう……か。何と言うか……あれだ。ありがとうな」
「うん」
そしてみんなから祝福された。




