キメラの正体は何だ?
再び学校に行くようになり、少し安定してくると小鳥型の精霊が俺の前に資料を持って現れた。
この子はファランゴル王国に貸していた精霊であり、何かあったら連絡用にと言っていたが何かあったのだろうか?
資料を受け取ると小鳥はすぐ帰っていき残った資料を確認すると少し意外な事実が分かった。
「これ……マジか?」
「何か分かったの?」
近くにいたノアが資料を覗き込むようにしながら聞いて来る。
「ああ、滅茶苦茶意外な事実が判明した」
「というと?」
「あのキメラ達、もしかしたら使い捨てようだったのかもしれない」
「何でそんな事が言えるのよ?」
「胃の内容物が全くなかったらしい。つまり胃から大腸まで空っぽだったそうだ」
「それって一切食料を摂取してなかったという事?」
「そうらしい」
全てのキメラを解剖して調べたところ胃の中は全てからっぽで何かを食べている様子はなかったようだ。
もちろん巨人キメラも調べたがこちらも胃の中には何もなく、どこにも食べた形跡が無かったらしい。
その代わりに意外な物が発見されたそうだ。
「なぁキメラって一応魔物だけど、魔石って入ってて当然なのか?」
「魔石?流石にそこまでは詳しくないけど、魔石が体内にある魔物は珍しいはずだったわよ」
「だよな……」
異世界定番の魔石。俺が使っている物とは違いこちらは加工によって様々な形に代わる素材だ。
魔道具を作る際の回路には必須の鉱物であり、鉱山を見つける事が出来れば比較的安価に手に入る。
だが魔物の体内に入っている魔石は非常にレアであり、同じ種族であったとしても魔石があったりなかったりする。
魔物を研究している人の論文によれば老化が原因ではないかとの説がある。
魔物には魔力があり、一定以上長く生きた魔物の中に魔力のたまり場が生まれる。その魔力が結晶化した物が魔石だという説だ。
まぁ説と言うだけあってまだ確定ではない。
老化説の他にランク説などという一定以上の強さを持つと魔石が出来るという説だってあるくらいだ。
で、魔物から取れる魔石のメリットはその魔物の属性の魔石が生み出される事。
例えば火の魔物から魔石が取れれば火の力が強くなるし、水の魔物から取れれば水の力を強くする事が出来る。
これらを回路に組み合わせる事でより強力な魔道具になると言う仕組みらしい。
でも取り扱いが簡単なのは鉱物として取れる魔石なので、ピュア魔石とでも言うべきだろうか?
こちらだと好きな属性を付与したり、回路作りがしやすいと前に言っていた。
「冒険者からも聞いた事があるが、魔石は同じ魔物を狩り続けても滅多に取れないらしい。それは全てのキメラ、小型から巨人型まで全てに入っていたとなると……」
「これが動力源?」
「俺はそう思う。でもその場合キメラと言うよりは死体が動いているイメージになるな。ネクロマンス?って言うべきか」
「ねくろ……って何?」
「死霊術師とでも言えばいいのかな?死体に偽りの命を与えて操るって言えばいいのかな?本来は死者の声を聞くとか、そういう意味だった気がするけど」
この辺はゲームとごっちゃになってるな。
でもこの世界で死体を操る力を持った人なんて聞いた事もない。
それは伝説の中でもだ。
もちろん子供だましのお化けくらいはいるが、それはあくまでも死んだ人が成仏できずにさ迷ったり、イタズラをする程度。
パニックホラーに出てくるようなゾンビの話は聞いた事がないな。
「気持ち悪いし悪趣味な話しね。死んだ動物を利用しているだなんて」
「あくまでも予想でしかないけどな。それに人間が意図的に死者蘇生が出来たらもっと大々的に自慢してそうだし、利用方法は軍事だけじゃない。それこそ医療技術の最終到達地点の1つと言ってもいいくらいの偉業だ。帝国のそれだけの医師が居るのか?」
疑問は尽きないし最低でも治癒魔法に頼ってばかりのこの世界では難しい話ではないかと俺は予想している。
何せ前世の頃だって蘇生と言ったら死にかけているか、死んでまだ数分しか経っていない人でないと無理だ。
死んで数日経てば不可能だし、それこそ神話の死者蘇生レベルでなければ不可能だろう。
「……あなたの前世の頃にそういう技術はなかったの?」
「ない。蘇生に関しては医学として普及していたが、それでも死にかけや心臓を再び動かしたりするだけ。物語の様な死んで数日たった死体を蘇生するのは無理だ」
「そう……それじゃ本当にこの技術は未知の物って事ね」
「そうなるな。生物兵器とか空想の中ではよく出てきたが、現実的には爆弾背負った犬に突っ込ませるとかその程度だぞ。それ以上となれば病原菌に侵されたネズミを放つとか、そういう行動になるはず。いや、魔法なんて前世にはない法則があるのだから前世の知識だけで戦うのは危険か。なんにせよ現在予想できる範囲では魔石を使ったキメラの運用が事実である事。巨人に使ってた魔石は……拳サイズか。拳サイズの魔石ってどれくらい珍しい?」
「かなり珍しいはずよ。でも一応鉱山で取れた魔石でも複数の小さな魔石を1つの塊にする技術は存在する。それを使えば作れなくはないって程度ね」
「完全な非現実的ではないのか」
「それにドラゴンの魔石は非常に大きいと聞いた事がある。拳以上の大きさと聞いた事はあるけど……わざわざドラゴンを殺して魔石を奪うより、ドラゴンをそのまま使った方現実的よ。最低でも巨人よりも強いって話だから」
「そうなると更に鉱山で取れた魔石とかを1つにまとめた方が現実的か。しっかしあの巨人は一体どこから連れてきたんだ?そもそも巨人ってこの大陸に住んでいるのか?」
「北の雪山のどこかに住んでいるって噂程度にはあるけれど、さすがの帝国も来たには領地を伸ばしてないから分からない」
「そうなのか?てっきり領地を奪えるのであればどこでも襲うのかと思ってた」
「前に言ったでしょ、資源が欲しいって。その資源の大半が食糧。つまり食糧自給率の高い国を優先的に狙っているから北の方にはあまり手を伸ばさないのよ」
「あ~そっか、寒いと植物は育ちにくいからな。そういう理由か」
なんにせよ今の帝国はこのキメラを生産して次は一体どんな手を打ってくるのか分からない。
あの場では1人でも多くの帝国兵を殺したが、全員皆殺しにできたのかと聞かれると自信はない。
その逃げ延びた帝国兵が俺のスピリットに関する情報を持ち帰っていたとする可能性だって存在する。
そうなるとやっぱり――
何て考えていると急にノアに抱きしめられた。
ノアの胸が顔に当たっている事に安心感を覚えていると、心配そうにしているノアの顔があった。
「ノア?」
「……怖い顔してた。きっとその顔で戦場に居たのね」
慈しみながら抱きしめられるのは妙に心地いい。
ちょっと甘えてみると軽く反応しながらほんの少しだけ色香を漂わせる。
「ここは戦場ではないのだから落ち着いて。このまま私に溺れる?」
「……さすがに外でするほど非常識じゃない。だからまた今夜な」
「そう。元に戻ってくれてよかった」
そう言いながら資料を取ってしまう。
「ノア」
「心配なのは分かるけど今はダメ。没収」
「え~」
「え~じゃない。ほらこの子で癒されなさい」
いつの間にか居た子猫を持ち上げながらノアが言う。
「いや本当にいつの間に居たんだ?」
「あなたが辛気臭い顔をしている時によ。ほら抱っこしてあげて」
言われるがままに子猫を抱っこすると子猫はくねくねと動くが膝の上からは落ちない絶妙な体幹でゴロゴロする。
「全く。こっちは未来のために真剣に悩んでるって時に」
「未来のためってどんな未来?」
「そりゃノアと俺の子供が安心して育てる未来」
子猫をくすぐりながら言うとノアの顔が真っ赤になった。
「いや、恥ずかしがるなよ」
「恥ずかしいとかじゃなくて、よくそういう事をさらっといえるな~っと思って」
「やっぱ恥ずかしがってるだろ。毎晩結構激しめに子作りしてるのに」
「それは言わないで!!この年で子供産むわよ!!」
「むしろ生んでほしいんだが?」
愛し合っているのだからやっぱり子供は欲しい。
それくらい当たり前だと思って言ってみるとノアは顔を真っ赤にして逃げ出した。
「変なこと言ったかな?」
そう子猫に聞いてみたら呆れたようなため息をつかれた気がした。




