学校、二学期突入
9月、俺にとって長すぎる夏休みが終わり久しぶりに制服に袖を通す。
夏休みぼ~っとしている時間の方が長かったが、その代わり面倒事と言うか、濃密なイベントごとが多かったように感じる。
そして久々に学校に行くと周囲から妙な視線を感じる。
リリアと殿下の婚約解消の件かと思ったが、それにしては視線に腫物のように扱う感じがしない。むしろ好奇心と言うか、興味?のような視線を感じる。
特に女子からの視線が強く感じるのは何故だろうか?
初めて感じる視線に首をかしげながら席に着く。
「久しぶりね、アレックス・ヘキサグラム」
「エムリアール嬢、お久しぶりです」
最後に会ったのはあの社交界以来だ。
特に深く話したりはしていないが、それでもあの場にいたのでノアと一緒に軽く挨拶をしていた。
この人ならこの視線の謎についてわかるだろうか?
「エムリアール嬢。俺女子達に何かしましたかね?」
「何か、というと?」
「いや、何か妙な視線を感じるんですが、好奇心?みたいな視線なので何か注目を集めるような事をしたかな?っと思いまして」
「ああ、それならこの間の社交界が原因でしょうね。ノア姫様と仲が良かったから」
「それだけですか?」
「それともう1つ、あの子達上手くいったみたいよ」
「あの子達?」
「聞いたわよ、大公の令嬢が婚約者との関係について相談してあげたって。その後関係が良くなったから色んな子が興味を持っているんじゃないかしら」
なるほど、つまり恋愛がらみという事か。
まぁ貴族と言ってもまだ子供、恋に恋する時期と言えばその通りなのかもしれない。
あとあの3人上手くいったんだ。
「なるほど。とりあえずあの3名に関してはアドバイスをしてよかったと思います」
「だからこそあなたとノア姫の関係について色々妄想しているようよ」
「妄想?」
「私達の中では1番進んでいる関係なのではないかとみんな予想しているのよ。だからどこまで進んでいるのか話し合っているって訳」
「……そういう話が好きなのはどこも変わらないんですね」
俺は特に興味なかったが世界が変わっても恋バナは女子の娯楽の様だ。
だからと言って俺とノアがどこまで進んでいるのか話す必要もないだろう。
なんて思っているとやつれた感じの殿下が教室に入って来た。
それは他のクラスメイト達が声をかけるのも躊躇うレベルであり、そして全員が察する。
あ、これフラれたのが原因だ。
「……あなたの妹本当に愛してたのね」
「それがリリアに伝わっていないからダメだったんですよ。それよりクロエス様との関係の方が気になるのですが?」
「そちらは目立った動きはないわよ。ただ恋敵が減った、くらいの物なんじゃないかしら」
「あの夫人らしい反応と言えばその通りかもしれませんね」
権力に憑りつかれているような印象があったため、殿下が次の王の第一候補である限りクロエス様は永遠に殿下との婚約をそのままにせざる負えない。
「……もう少し自由にすればいいのに」
「あら、それは誰に対して?」
「クロエス様に対してです。自分の意思で鳥籠の中に居るのならいいですが、そうではなくただ閉じ込められているのであれば自由を一度くらい経験しても良いと思います。その後に改めて籠の中に戻るかどうか決めればいいのに、と」
「あなたは自由に動いている物ね。不自由は嫌い?」
「誰だって自由気ままに生きられるのであればそれを選ぶと思いますが?」
その自由気ままのために権力が欲しいと言うのならそれもいいだろう。
自由の対価として全て自分の力だけで行動しなければならないと言う責任が嫌だから自由は要らないと言うのならそれもいい。
でもやっぱり経験は必要だ。
経験しなければ何も分からないし、判別も付かない。
だから片方しか知らないクロエス様に自由という物を少しは味わってから判別してほしい。
「私は貴族として生まれたから特に疑問に思った事もないけど、貴族は不自由ではないわよ?」
「それくらい知っています。でも今のクロエス様はご両親の言う事を聞いているだけで自分の意思で決めた訳ではありません。まだ殿下の容姿が好きだとか、権力が欲しいとか、くだらなくても自分で決めた理由という物を知りたいんですよ。ご両親の言う事を聞いていたという理由を逃げ口にしている訳でもない、他いう事にしたがっているだけ。それが悲しく感じます」
ただ親の言いなりになってロボットのように動くのはなんか違う。
親の意見や話を聞いて決めたのではなく、ただ従っているだけと言うのが気に入らない。
「悲しい……ね。あなたは親の命令で婚約した人達の事どう思う?」
「え?そうですね……結婚相手くらい選びたかっただろうな~、くらいですかね?」
「そうかもしれないけど、基本貴族は家の繋がりで婚約し、結婚するのだからそれくらい普通だと思うけど」
「まぁ……理解はできるけど納得は出来ないと言うか、やっぱり俺はある程度の自由が欲しいですよ。選択の自由が」
「やっぱりあなたは市民側なのかもしれないわね」
「というと?」
「私達貴族は権力を得る代わりに様々な事に束縛を強いられる。それこそ結婚相手などね。それらを捨てて自由でいたいと言うあなたは貴族らしくないと言っているの」
「自覚はありますよ。色々非常識なのも分かっていますし、だからと言って貴族社会を壊そうとも思いません。秩序が築かれているのであればそれを乱す必要はないかと」
「……本当にあなたってやり辛い。自分の意見を持ちながらも今の体制を変えようとはしない。現在の体制のまま自由を得ようとする。陛下達もてこずるのも納得よ」
「誉め言葉として受け取っておきます」
何て言っている間にチャイムが鳴り、久々の授業が行われた。
眼鏡ことホディ達とも顔合わせをし、家に帰ると白猫がもう我が物顔で屋敷を散歩していた。
「お前も馴染んだな~。それとも俺の監視か?」
何てしゃがみながら指を近づけると匂いを嗅いで手に顔を擦り付ける。
そのまま頭を撫でるとリリアがげっそりした表情で部屋から出てきた。
「リリア?どうしたそんな疲れた顔して」
「どうしたって……また大量に送られてきたから疲れるよ」
そういうリリアから出てきた部屋には大量の書類が積み重なっている。
前にもこの光景見たな。
「もしかしてまた婚約者候補達からの見合い書類か?」
「ええ。ここまで増えているとは思わなかったわ」
「むしろ何で増える?もう既に婚約している貴族の方が多いんじゃないか?」
「前回は貴族だけだったから少なかったの。今回は豪商の息子や騎士の息子も見合いを出してきたのよ。おかげで以前より莫大な数になったわ」
ノアも精査に疲れているようでだるそうにしている。
疲れたリリアを癒そうとするモンクーやレムルシャール。シルフィードも手伝ってはいるが苦戦中だ。
「まさか商人からも求婚が来るとは、どっから情報仕入れたんだか」
「殿下との婚約解消はあちこちに聞こえているでしょうからね……それに貴族の中では焦って商人と結婚する事もあるから、結局家に貢献してくれるなら商人でも構わないって家もあるからそれを狙ってでしょうね。うちはタイプライターと複写機で目も付けられているでしょうから余計にね」
「なるほどね……ってこれ教会の人から婚約来てるじゃん。枢機卿の息子?」
「そういうのも居るのよ。断り辛いと思ってやってくるバカが居るのよね~」
リリアのモテ具合、このレベルだと本当に心配になるんだが?
「で、リリアはどの人がいいとかある?」
「……分かんない」
疲れているせいか反応が鈍い。
婚約解消した直後にこれとか、マジで大変だな……




