婚約解消
「本当に婚約を解消するのか」
翌日、こちらよりも陛下の方が動きが早かった。
もちろん内容は婚約解消の話。もちろんしっかりと断るつもりだ。
「はい。リリアはもう深くかかわるつもりはないようです」
陛下と俺、おまけで殿下。そして陛下の護衛がいる小さな空間で話をしていた。
「そ、そんな!!」
殿下はリリアにもうそんな気は全くないとはっきりとフラれたのにまだ脈があると思っていたのか。
ここまでくると哀れだし、リリアも洗脳系の魔法でも無意識に使っていたのではないかと疑ってしまう。
そして陛下が懸念しているであろうことは先に言っておくとしよう。
「それでも私は辺境伯の息子としてこの国を守る所存です。いざとなれば王族も守ります」
「それは助かる。ファランゴル王国からも帝国からの抵抗が激しいと聞く。以前のようにキメラを使ってくる事は今のところないようだが、それでも状況は緊迫していると言っていいだろう」
「キメラを使っていないのですか?」
「ああ、ファランゴル王国にいる兵達からの報告だ。現在は帝国兵と時折ぶつかっているそうだが、キメラを使っての戦闘は行われていないらしい。生み出すのに時間がかかっているのか、それとも調教するのに時間がかかっているのか、どちらなのかは不明だが現状均衡を保っているようだ」
「それは何よりです」
騎士団長とかゴルドーから連絡はない。
おそらく無事だと思うがキメラを使ってこない事に関しては不気味さを感じる。
「アレックス・ヘキサグラム!本当に、本当にリリアは!!」
「もうあなたに一切の興味はありません。すでに改めて婚約者を一応募集しています。印象をよく思わない方の方が多いでしょうからあまり応募は集まらないと思いますが」
もう既に他の男を探していると伝えると殿下はうなだれた。
もういい加減諦めろ。
「……すまない。まだ引きずっているようだ」
「この話はもう終わりでよろしいでしょうか」
「ああ、息子が1人で暴走した結果だ。これが良い薬になってくれればいいのだが……」
陛下も王としてよりも親としてこんな息子で大丈夫なのか気になっているご様子。
それに関してまだ気になる事がある。
「それでクロエス様、ヴィーナ家はどのような反応をしているでしょうか」
「今のところは様子見の様だ。だがヴィーナ大公はこのまま息子がふさわしくないと判断すれば婚約を解消するかもしれぬ。夫人の方はどうだかわからないが」
「そうですか」
クロエス様はもうしばらくあのままか。
少しでもいい方向に転がってくれることを願っているが、あの毒親がどう反応するかなんだよな。
父親の方はまともそうなんだけど、貴族としてふるまっている部分が強いからその辺どうなんだろ?貴族として役目を果たせと言う可能性も少なくない。
こればっかりは家庭環境によるとしか言いようがないか。
少しでもクロエス様の幸せを考えてくれると良いな。
「では正式に婚約は破棄という事でお互いに納得したという事でよろしいでしょうか」
「うむ。それで合意とする」
お互いに婚約破棄の書類にサインと印鑑を押し、これでリリアは正式に婚約破棄となった。
その様子を見ていた殿下がさめざめと泣いている。
思っていた以上にごねられたりはしなかったな。
てっきりもっと粘ってくるかと思っていたので意外だ。
殿下も泣くばかりで抵抗してこない。
楽だけど何か裏がありそうだ。
「それで、ノアとの関係はどうだ」
「ノアとはいい関係を築かせていただいてもらっています。悪くはないはずですよ」
「社交界でも随分見せつけていたと聞いている。もしあのまま2人でいたらどこまで見せつけていたのか気になっている者もいたそうだ」
「何ですかそれ?」
いつの間にそんな注目を受けていたんだ?
「あの場にいたメイド達も言っていたぞ。ヘキサグラム家の所は完全に夫婦だったと」
「夫婦に見えるのは自然ではないかと。婚約してからかなりの時間が経過していますし、それなりに関係も深めてきましたから、ある意味自然な結果かと」
「…………そういう所を恥ずかしげも言えるのだな、君は」
何か感心したように言う陛下。
それと同時に安心したように見えるのはノアとの関係が良好だと分かったからか。
一体どんな意味なのか、裏がないと素直に嬉しいんだけどな~。
「そりゃ愛してますから」
そう言うと陛下は本当に驚いた表情をする。
殿下は嗚咽まで出ている。
「少し聞いてもいいか」
「何でしょう?」
「ノアの婚約はかなり強引だったように感じた。それこそ当時の君は嫌がっていたようにも感じた。それなのに何故そんなよどみなく愛していると言える?」
普通に疑問をぶつけてきた感じだな。
これはまぁ正直に答えてもいいか。
「何故と聞かれればノアが本気で俺の事を愛そうとしている事に気が付いたからですかね。だから愛そうと思いました」
「……それだけかね?本当に?」
「端的に言えばこんなもんですよ。そりゃ急に押しかけてきたので驚きはしましたけどね。でもちゃんと愛そうとしてくれていたのは比較的すぐ気づきましたし、それに応えようと思っただけですよ。それに個人的に愛は育むものだと思っているので、逆に一目惚れとかは信じていません」
「なる……程。育むものだから受け入れたと。意外と現実的でもあるな」
「まぁ後はノアの好きという感情が分かりやすかったと言うのもありますから。馴染むと分かりやすいですよ」
「……真か?」
「真実です」
そう断言すると陛下も殿下も意外そうな顔をする。
あいつ城にいるときどんだけ身内に隙を見せなかったんだ?
「それではそろそろ戻ります。殿下、今までありがとうございました。これからは一家臣の1人としてお使いください」
「あ、ああ。よろしく頼む」
正式に婚約は解消したし、これ以上長居する理由もない。
屋敷に変えると庭で何やら2人が膝を抱えている。
「何してんの?」
「あ、お兄様。珍しい子が遊びに来ました」
「珍しい子?」
そう思いながら覗き込むといつぞやに見た青い宝石を首輪に付けた白猫が猫じゃらしにじゃれていた。
「本当に久しぶりに見たな。どれくらいぶりだ?」
「城に住み着いている白猫よ。この子は精霊だと言われているのだけど、どうなのかしら?」
「どうなんだ?シルフィード、レムルシャール」
そう聞いてみると2人とも頷いた。
「精霊である事は間違いないな。ただ……」
「意図的に力を抑えていると言うか、分霊である可能性が高いですね」
「分霊?ってなんだ」
「簡単に言えば精霊の欠片ですね。どこかにいる精霊の本体が魂を切り分けた存在です。大抵はその地域がどうなっているか調べる程度の物ですが……」
「この子には特別な力がある?」
「いえ、普通の分霊です。特別な力はありませんが、強力な精霊の分霊なのは間違いないかと」
「ほ~」
俺の目にはただの白い子猫にしか見えないが、そんな特別な子だったのか。
「それからリリア、婚約破棄正式に決まったぞ」
「あ、ありがとう。殿下ごねてなかった?」
「ごねるってか泣いてた」
「どれくらい泣いてた?」
「滅茶苦茶泣いてた」
「うわ~」
ドン引きながらも正式に婚約解除の書類を手渡す。
すると子猫が俺の足元ですり寄ってきて来たので指の匂いをかがせてから首を撫でる。
「扱いなれてるのね」
「まぁなんだかんだで動物?に囲まれてたから。前みたいに勝手に城に帰るのかな?」
「多分そうだと思うけど……もともと気まぐれな子だからもしかしたら居座ったりね」
「壁とかひっかかなければそれでいい」
さて、本当に王族が意地悪してこないか、少し警戒しておかないとな。




