まずはクロエス様に謝罪
「この度は大変申し訳ございません」
場所を移しクロエス様に俺達3人は頭を下げた。
この影響は必ずヴィーナ家にも届く事であり、考え方によっては早急に対処せざる負えない事案なのは誰にでも分かる。
一応社交界は続いているが、主催者である殿下は意気消沈しているが、あとから逆切れを起こされても困る。
まぁこの辺はこちらで対処するしかないが、軍事力だけでも上回っていてよかった。
「い、いえ。あまり頭を下げないでください。殿下を振り向かせる事が出来なかったのですから。まずはお座りください」
相変わらずクロエス様は気の弱い印象を受ける。
令嬢としての所作などは相変わらず美しいのに、自身のなさがその美しさを陰らせているような気がする。
座るとレムルシャールがお茶を入れてくれたのでそれを飲み、一息入れるとクロエス様は口を開く。
「この状況はおそらくお母様にとっては良い傾向でしょう。お母様にとってリリア様の事を邪魔ものと見ていましたから、自らいなくなる事に関しては大喜びでしょう。しかしそれで殿下の気持ちが私に向くと思えませんが」
「それでも影響は大きいでしょう。こちらとしても責任を取りつつ、間を持つ事が出来たらと思うのですが」
「そんなに私の事を気にかけていて大丈夫ですか?おそらく殿下の怒りの矛先はリリア様に向けられると思うのですが」
「それに関しては覚悟の上です。これほどまで早く婚約を解消する事は想定外でしたが、準備は進めていました。それに今回の事は既に精霊を使って両親に連絡を入れています。両親もすぐに動き出すでしょう」
「やはり精霊様は偉大なのですね。人間には出来ない事を軽々とやってのける」
羨ましそうに俺を見るとクロエス様は俺を見ながら言う。
「それほどまでに余裕があるのは、やはり精霊様に守られているからでしょうか」
この問いに関してどう答えるか少し考えてから、しっかりと応える。
「もちろんそれもあります。シルフィード達が居れば普通の騎士であればどうとでもなるだろうと考えています」
「やはりそうですか」
「しかし――」
「しかし?」
「絶対ではありません。確かに精霊達は強力ですが、それを召喚する私には限界があります。どれだけ強力な個を持っていようとも、無限の敵に対してどれだけ対抗できるのかと聞かれれば分かりません。なので強力なのは分かりますが、絶対の力でもないんですよ」
俺の魔石は現在29個。
ここから魔石を増やしたからと言ってもデッキは40枚。
しかもその内容はスピリットだけではなくフィールドやマジックが入っている事で数はさらに少なくなる。
相手が1万で攻めてくるのに、こちらはたったの30体で防戦しなければならない状況になる可能性は低くない。
だからこそこの力は絶対出ない事は俺が知っている。
「……なるほど、それもそうですね。ともかくヴィーナ家としてあなた方に報復措置を取る事はないでしょう。精々社交界でハッキリと断るなと嫌味が届く程度です」
「ご配慮くださりありがとうございます」
「いえ、これはあくまでも予想です。実際にそうなるとは限りませんから」
それでもヴィーナ家の者からそういう声が聞こえるのは安心を得られる。
本当にリリアと敵対していたとかそういう事はなかったみたいだな。
その事にもホッとしているとリリアが口を開いた。
「クロエス様。クロエス様は婚約を破棄しなくていいのですか」
意外……でもないか。
リリアにとって俺とノアの関係が良いと思っているからこその疑問だろう。
だが貴族としてそれは一個人で決められるものではない。
それはリリアも分かっているはずだが聞かずにはいられなかったという所か。
「殿下はクロエス様の事を全く見ていませんでした。家のためというのは分かるのですが、もう少しだけクロエス様自身の事を考えてもよろしいのではないでしょうか」
リリアの言葉にクロエス様は困ったように、そして少し疲れたような表情をしながら口を開いた。
「リリア様。私は家のために生きると決めております。リリア様の言葉も理解できます。ですがそれでも私は家のために生きろと言われ、それを振り払えるほどの力はありません。ですからこのまま殿下の婚約者でいるつもりです」
何と言うか、目に生気がない。
諦めきった生活、自分から動こうにも動けない状況、そういった物を感じる。
きっとあの母親からずっとそうするように言われ続けてきたのだろう。
疑問を感じながらも押し殺すのが当たり前になってしまった。
そんな感じ。
「しかしそのままだとクロエス様が――」
「リリア」
俺がそう言ってリリアの口を止める。
なぜ止めるのだと睨んでくるが別に助けるのが悪いと言っている訳ではない。
ただこの子は動けないだけ。色々な者の手によって心が動けずにいる。
そんな状態でどれだけ手を差し伸べても手を取ってくれるとは思えない。
だからこう言っておく。
「クロエス様、本当に逃げたくなった時は屋敷に来てください。温かいお茶をご用意して待っております」
「……お優しいのですね。ノア姫様が羨ましい」
それは自分が手に入らなかった物を手に入れた者に対しての純粋な嫉妬。
いや彼女は嫉妬だと感じている自覚すらなさそうだ。
この世界の人と言うか、国の人達は目ではなく口を見て判断している。
これは日本人と外国人の違いの様な物で、相手の表情を読む際にどこを注目して表情を読むようにしているのか、そんな意識と風習の違い。
だから俺は相手の目を見て感情を読み取るが、他の人達は口元を見て表情を読む。
ノアも最初の頃この違いに戸惑ってたな。
俺が視線や目の動きで相手の感情を読むから最初は相手の心が読めるのではないかと考えていた事もあったらしい。
そして俺はこの世界で生まれて相手の口元を見て表情を読むのに気が付いたから、口元を全く変えないようにしたら無表情すぎると言われたな。
「それでは失礼いたします」
「あ、1つだけよろしいですか」
何だろうと思いあげた腰を再び下ろすとリリアに向かってクロエス様は言う。
「たまにはお茶会、お誘いしてもよろしいでしょうか?」
「はい。喜んでお受けいたします」
やっぱり関係は良好らしい。
もしかしたらクロエス様にとってリリアは友達と思っていたのかもしれない。
殿下に気に入られる嫌な奴と思われていたかと思っていたが、そうでもなさそうだ。
城の廊下を歩き、帰る途中リリアに確認する。
「リリア、クロエス様の事助けたい?」
「っ!当然だよ!!クロエス様は良い子だもん!!」
「でも現状クロエス様は自分の悲鳴に気が付いていない。いや、気が付いていても気付いていないふりをしている可能性が高い」
「な、何で?そんなことしたら心が壊れちゃうかもしれないのに?」
「それが家のためとして育てられた令嬢の末路なのかもしれないな。とにかくあの状態じゃこっちが助けようとしても手を取ってくれることはない。自分から助けてと言えるくらいなにかこう、変化がないとダメだ」
「変化って……どうすればいいの?」
「分からない。おそらく元凶はあの母親だろうがだからと言って人ん家の家庭事情に首を突っ込めるほど問題が起きた訳じゃない。今は助けたくても本人が助けてと叫ばない限り強く介入は出来ない」
「そんな……」
「リリア。でもあなたにはそのチャンスがある」
「お姉様?」
「お茶会を開きたいと言っていたけどおそらくリリアとクロエス様の2人っきりのお茶会になると思うわ。その時に少しずつ心の傷を癒しながら助けてと言っても良いと思わせるの。これはリリアにしか出来ない事だわ」
「私が心の傷を癒す……うん分かった。私からもお茶会に来ないか誘ったりしてみる」
「今のところはそれだな。さて、陛下にも文句言う準備するぞ」
殿下の勝手なのか、陛下も絡んでいるのかその辺りをはっきりさせよう。
まぁ多分陛下は知らないって言ってくるだろうけどな。




