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殿下がやらかした……

 主催者様の登場に俺達は違和感を感じた。

 それは殿下の隣に居るのがクロエス様ではなくリリアが立っているからだ。

 そしてクロエス様がリリアの後ろに立っているので、立場が逆じゃないかと思ってしまう。

 リリアの方は俺達の事を見て申し訳なさそうな表情を作り、クロエス様の方は完全に虚無だ。何も感じていない。

 もうこれ戦争レベルだろ……


「ノア。これヴィーナ大公から猛抗議入っても仕方ない状況だよな?」

「ええ、多分リリアも抵抗したでしょうけど、愚兄に押し切られたようね」


 ノアも素早く状況を察しどうしたら改善できるのか考えこむ。

 これ本当にどうしたらいいんだ?


 だが周囲からは感じた違和感はそれだけではない。

 クロエス様の方が地位が高いはずなのにリリアが殿下の隣にいる事に対して違和感を覚えている様子がない事だ。

 いくら殿下の我儘でも普通は地位の高いヴィーナ家の方に注目するはず。

 それなのに何故リリアが隣に居るのが当然の様な雰囲気なのだろうか?


「ノア。もしかして俺達の認識間違ってたか?」

「……間違っていたのか、すでに裏で動いていた可能性が高いわね。リリアが隣に立っている事に対して違和感を感じないように」

「俺が戦場に行った事と関係あるかな?」

「まだ分からない。でももしかしたらかなり頭の悪い事をしてくるかもしれない」


 こうなったら裏技を使うしかない。


『シルフィード、俺とノアだけ声が届くようにしてくれ』

『マスター、すまない。どうやら我々はかなり状況を甘く見ていたらしい』


 声を風として捉える事で特定の人物だけに声が届く精霊の魔法だ。

 これで俺とノア、シルフィードが誰にも聞かれないように話す事が出来る。


『甘く見ていた?』

『殿下の執着心だ。殿下は裏ではやはりリリア嬢を正妻に据えたいと考えていたらしい。陛下は最初こそルールに則ってヴィーナ家の令嬢を正室に据えるつもりだったが、殊勲しゅくんを上げているアレックスの弟なら問題ない、ドラゴンや精霊を操る存在の妹を正室にする方が王家も安泰だと判断したらしい』

『あのクソ親子が!要らないもん押し付けて恩を売る気か!!』

『それだけじゃない。この場でリリア嬢を正室として宣言するつもりだ!!』

『それだけは絶対に阻止しろ!!ぶっちゃけ風の魔法でリリアの声を全て遮断して認めさせるな!!』

『王子の方も妨害するか?』

『全力で妨害しろ!!もうこの会場で何も話させるな!!』


 こっちは権力闘争に巻き込まれたくないし、地位も欲しくないから側室にしてくれと言ったはずだぞ!!

 その約束を勝手に黙って破るならそれ相応の罪を償わせてやる!!


『でもこれは時間稼ぎにしかならない。もうスピーチも始まる』


 殿下が拍手を受けながら片手を上げ、拍手を止めさせてから何か言おうとする。

 しかしその声は一切響かず、口パクしているように見える。

 周囲は殿下の声が届かない事に戸惑い、殿下もそれに気が付き喉を触ったり声を出そうと色々やる。

 殿下の従者は水を用意させて飲んで治らないか試そうとしていた。


 この短時間でどうする!?

 ここまで入念に用意されたものをどう穏便に壊す!!


『お兄様、お姉様。私に任せてもらえませんか』

『リリア!この状況どうにか出来るのか?』

『1つ案があります。ただ家には大きな迷惑をかけてしまいますが、よろしいでしょうか』

『構わん。約束を破ったのは向こうが先だ』

『ありがとうございます。シルフィード、この魔法を解いて』

『は』


 ちょうど殿下が水を飲んで声を出すと普通に聞こえたので喉の不調と周りは思ったらしい。

 何度か声を出して再調整すると殿下は言う。


「今回の社交界に来てくれて嬉しく思う。この度私、ヘルダイム・フォン・ディクト・ゼレンは正式にリリア・ヘキサグラムを正室として迎え入れたいと思う!」


 ……関係あるかないか分からないが、サプライズで告白する人ってどんなメンタルしてるんだろ?

 心臓鋼鉄で出来てるのかな?フラれるかもしれない可能性どこに捨ててきた??


「彼女ほど素晴らしく聡明な女性はいない。故に今日を持って正式に婚約を締結したいと思う!リリア、この手を取ってくれるか」


 殿下が片膝をついて恭しくしてい居るのってイケメンだから許される面があるよね。

 あとフラれるの分かっている身としてはスゲー哀れ。

 リリアはにこりと微笑みながら手を取らずに声を出した。


「殿下。殿下と私が初めて会った時の事をお覚えですか?」

「もちろん覚えているとも。愛してくれるかと」

「ええ。私を愛してくれますか?そう聞いた殿下は了承していただきありがたく思いました」

「では――!!」

「その後の言葉を覚えていますか?」


 そう強くリリアは聞き返した。

 周囲は不穏な空気を感じざわめき、殿下は思っていたのと違う展開に戸惑いを見せる。


「確かアレックス・ヘキサグラムとノアのような関係なりたいと言っていたはずだ」

「はい合ってします。しかし……私の望む形にはなってくれませんでしたよね」

「な、何故だ?ノアと同じようにリリアの事を――」

「愛していません。ノアお姉様の愛し方と、殿下の愛し方は似て非なる物です。私は両方とも近くで見続けてきたのでよく分かります」


 そう言って俺とノアの事を一瞬見た後、何かを確信するような、そんな視線を感じた後にリリアは言う。


「幼いながらもお姉様とお兄様の婚約は非常に驚きました。王族の方がお兄様に求婚してきた事だけではなく、かなり強引だったことをよく覚えています。お兄様も他に婚約者がいないから、向こうから婚約の申し出をしてきたから、特に好きな女性がいないからいいか。そんな酷い物でした」


 懐かしむように言うが隣のノアは顔真っ赤だぞ。

 周囲もそうだったのかとざわめいているし。

 実際「そうだったの?」「強引な婚約だったのか?」「あの2人が?イチャついているという話ばかり聞くのに??」っとかなり戸惑っている。

 最後のイチャつきはどこからの情報だ。


「そんな婚約でしたからお兄様はまるでお姉様をぞんざいに扱っているのを見て仕方ないかな?と思いつつもお姉様がアピールし続けるのを見ているのも苦しい物でした。必死に好きである事をアピールしながらも振り向いてくれないのだから、同じ女としてそれは悲しい事だとすぐに感じ取れました。ですがお姉さまは決してあきらめず、お兄様が求める距離感、求める行為の伝え方などを学び今の関係になりました。その時はもうお兄様もまんざらではない表情をしていたので、お姉様の粘り勝ちだと思いました」


 そんな風に見てたんだ。

 そう言えばこうしてリリアから俺達の関係をどう見ていたのか聞くのは初めてだったな。

 そしてリリアは殿下に冷たい視線を向ける。


「お姉様と殿下の愛し方は違う。お姉様は愛してもらうために様々な事を学び、愛される努力をしていた。しかし殿下の愛は愛玩です。私の事を一方的に愛し、私が好む愛し合い方を学ぼうと、知ろうとしてくれなかった。なので婚約は破棄させていただきます」


 そのハッキリとした言葉に会場は最大級のざわめきに変わった。

 まさか殿下からの告白をフル者がいるとは思わなかったのだろう。

 というか普通こういうのはお互いに認め合ってから正式に婚約となるのだ。正式に婚約が決まっていないのに大々的に婚約を発表するとは思っていないかった、の方が正しいのかもしれない。

 実際殿下は口をパクパクして金魚みたいになっているし、一体どこで絶対に成功すると思っていたのだろう?

 そしてリリアは続けて言う。


「それにまだあります」

「まだあるのか!?」

「むしろこちらが本題です。殿下、何故クロエス様の事を愛してくれないのですか?」


 強く、冷たく殿下に言い放つ。


「私、殿下にさんざん言いましたよね?クロエス様が正室なのだから私だけではなくクロエス様の事も愛してほしいと」

「そ、それは……」

「私は正室にふさわしくない、正室にふさわしいクロエス様の事を何故愛してくれなかったのですか?私はそれがとても悲しいです。私を愛するようにクロエス様の事も愛してくれたのなら、こんな事を言わずに済んだのに」

「…………」

「貴族の令嬢として、私よりも勉学にもマナーでも、そして殿下に愛してもらえるよう努力してきた事を知っています。それこそお姉様のように。だから気に入りません。お姉様のように愛せるように、愛されるよう努力し続けた方を踏みにじるような方と結婚できません。そして勝手に私を正室として持ち上げた事、改めて家から陛下へ抗議させていただきます」

「な!」

「あたりまえでしょう。契約を先に破ったのはあなた方王家、抗議するのは当然ではありませんか。もし強引にでも結婚させると言うのであれば――」


 瞬間リリアの手元が光ったかと思うとスピリットが召喚された。

 3メートルはあるかという巨大な猿。如意金棍棒を肩でトントンと叩きながら殿下に顔を近づけ睨みつける。

 これこそがリリアの切り札の1枚、『晴天大聖せいてんたいせいモンゴクー』。

 まぁ読んで分かる通り西遊記の孫悟空がモチーフのカード。ちょっと字は違うがそれはカードあるあるって事で。


「――お兄様と共に徹底的に戦う事をお約束します。それでは御機嫌よう」


 呆然とする会場と殿下達。

 最後に方にいたモンクーが殿下に向かって威嚇すると殿下は情けない声を上げて尻餅をついた。

 そのままリリアは俺達の前に来て謝罪する。


「お兄様お姉様。この度は勝手な判断をしてしまい申し訳ありません」

「別に良い。面白い話を聞けたからな」

「そうね。あなたに良い影響を与えられたのであればそれはそれでよかったわ。さて」


 俺達はへたり込んでいる王族を見る。


「嫌がらせくらいは当然してくると思うが、どう対応する?」

「とりあえず武力的な衝突はないでしょう。帝国が近づいてきている事もありますし、私達の戦力を恐れてします。何より今あなたの力を失うのは王国にとって大きな痛手、やるとしたらもっと遠回しな攻撃でしょう」

「お兄様お姉さま。その前にクロエス様とヴィーナ家への謝罪が優先です。この話はすぐに広まるのは目に見えています。口封じをする必要はどこにもありませんが、むしろ広めるだけ広めたいところですが、それが先でしょう」

「ならとりあえず最初にクロエス様に謝罪してこないとな。殿下はもうどうでもいい」

「ええ、あんな愚兄どうでもいいわ。厄介なのは陛下の方よ」

「私は婚約者探しもか~。もう領民の誰かと結婚しちゃダメかな?」

「ぶっちゃけそれでもいいんじゃない?貴族の中じゃ本当の最終手段らしいけど、リリアが納得できるんならそれが1番いいと思う」

「お義父様とお義母様にすぐ連絡しないと。王家に抗議を入れるのであれば2人からの抗議文の方がよっぽど有効だし、ヴィーナ家も仲間にできないかしら?」

「それは流石に時期尚早。そもそもリリアがいなくなってくれてラッキーって思ってるかもよ?特に奥方」

「あ~、奥方はそうだろうね。元々私の事嫌いみたいだし」

「というよりもあれは正室の座を狙われている事が嫌いな原因でしょ。このまま正室の座を維持すると言うのであれば協力すればいい。クロエス様のご意見次第だけど」

「とにかくすぐ動けるのはクロエス様への謝罪だ。みんなで頭下げるぞ~」

「当然ね」

「あ~あ、私クロエス様の事好きだったからこのまま縁が切れるような事だけは避けたいな~」

「それも実現できるように謝罪行くぞ。あとリリア、晴天大聖しまっとけ」

「は~い」


 そんな俺達の様子を見て他の貴族達は「堂々と作戦会議?」「堂々とし過ぎじゃない??」「と言うか殿下の事どうでもいいとか言ってたぞ」「軍事力で抵抗できるって何?」「え、もしかしてリリア嬢と結婚できる可能性出てきた?」なんて声があちらこちらから聞こえてくる。

 呆然としているクロエス様の前まで俺達は来て一言。


「お時間よろしいでしょうか?クロエス様」

『名前    晴天大聖せいてんたいせいモンゴクー

 カテゴリー スピリット

 コスト   6

 軽減    黄4

 種族    想像獣そうぞうじゅう 皇冠おうかん

 シンボル  黄1

 レベル1  魔石1 BP8000

 レベル2  魔石2 BP10000

 レベル3  魔石3 BP12000

 効果   【レベル1~3】自分のアタックステップ時

       種族、皇冠を持つスピリットがアタックしている間、

       お互いにスピリットカード以外のフラッシュを使用できない

      【レベル3】自分のアタックステップ時

       種族/皇従おうじゅう、皇冠を持つスピリットがアタックした時、

       手札からフラッシュ効果のあるスピリットカードをコストを

       支払わずに使用できる

       そうした時、そのスピリットカードをコストを

       支払わずに召喚できる

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