社交界は夫婦で
リリアの言葉通り殿下から俺達全員に社交界の招待状が届いた。
戦闘準備と思いながらしっかりと服装を整え、いざ出陣。
会場は城だが今回はきちんとしたホールで行われるらしく、子供の頃のように庭でという訳ではない。
時間も夕方からスタートだし、こうした小さな違いが大人になった感覚を味あわせてくれる。
そう思いながら3人で入城。だがすぐに騎士の人から言われる。
「リリア・ヘキサグラム様。殿下と共に入場していただきたいので殿下のお部屋に向かっていただいてもよろしいでしょうか」
「分かりました。護衛のシルフィードを連れて行きます」
この展開は予想していた。
大方貴族と友好を深めるとともに誰と婚約しているのか分かりやすくアピールするための場でもあるんだろう。
簡単に言えばこいつは俺の婚約者だと周囲に知らしめるためだ。
大抵の奴なら殿下の婚約者と言うだけで手を引くが、根性のある奴はそれでも奪い取ろうとするかもしれない。
だから今のうちにアピールしておこうってか?
それは婚約者だから別にいいが、問題はクロエス様。
あの人の今の境遇はどうなっているのか、直接確認するいい機会だ。
「全く。昔はこんなんじゃなかったのに、何でこうなってしまったのやら」
ノアが誰にも聞かれないようにつぶやきながらそういう。
確かに子供の頃は天才だか神童だか言われていたはずなのに俺達の目からそう言える要素はだいぶ減った。
それでも第一王子として君臨しているのは単に早く生まれただけではなく、政治能力は一定以上あるからと言っていい。
だがそれもリリアが絡むと途端にポンコツになる。
それを欠点と見るか人間らしいと見るか、それは人によるだろうが今の所周囲の反応は半々と言ったところ。
あるいは王にふさわしいかそうでないか、確信的な要素がないという事か。
何はともあれ俺達は入場し、同じ辺境伯同士で情報収集をしたりする。
「アレックス。元気そうで何よりだ。戦場に行ったのは本当か?」
「ああ、おかげで一足先に戦場という物を知ってしまった。あれは確かにできるだけ体験したくない出来事だ」
「もう少し帝国に関する情報を持っていないか?国からある程度の情報は開示されたが、具体的な大きさや強さに関しては伏せられている状態だ。国と領地を守るためにも聞いておきたい」
うちと同様にファランゴル王国と隣接している辺境伯同士で情報交換をする。
俺の口から出てきたキメラ軍団に関して聞くと分かりやすく表情をゆがめた。
「なるほど、キメラを使役しての侵略か。ずいぶん帝国は進んでいるらしい」
「しかも大きさもまちまち、犬猫の大きさから象の大きさまでいると言うのは十分脅威だ」
「まだ謎は解明されていないがそのキメラ達に与える餌が不明なのも気味が悪い所だ。いったい何を餌にしていたのか分かっていない。人間と同じものを食べさせているとすれば、解決するんだがな」
なんて少し重い話をした後に急に話題を変えさせられる。
「それより、お前ノア姫とどこまで行ったんだ?噂によれば随分深い関係になったそうじゃないか」
何て下心丸見えの下品な笑みを浮かべるので、どんな世界でも男とは変わらない物なんだなと思う。
「そりゃずっと一緒に居るからな。情も沸く」
「あ~羨ましい。俺達の世代じゃノア姫かリリア嬢のどっちが好みかで盛り上がってたのに、お前は両方手に入れてるんだからな」
「変な事を言うな。片方妹だぞ」
「それでも周囲のやっかみはある程度あるって事だ。特に侯爵や大公家だと本気でノア姫の事を狙っていたのに、いつの間にか辺境伯が連れ去ったっていまだに恨み言を言ってる始末だぞ。いまだに狙っている奴がいるから気を付けておけ」
「忠告は感謝するが、問題ない」
「その理由は?」
不思議そうに言うので俺は嫌味な笑みを浮かべながら言ってやった。
「あいつは俺の妻だ。抱きしめて話すつもりはない」
それを聞いた辺境伯仲間はのろけかよっという反応をしたが、俺にとって言った相手は違う。
こちらに聞き耳を立てている誰かさんに向かってだ。
ノアとの関係性についてよく思っていない奴本人か、それともその小間使いか、とにかく誰かが聞き耳を立てているような感じがした。
なのでわざと関係は良好である事、そして手放す気は一切ないと伝えておく。
「そりゃそうだよな。あんな美人な人を妻にもらえるなら手放せるわけないもんな」
「そういう事だ。俺にとってもかけがえのない相手だよ」
そう言うとまたヒューヒュー言ってくる。
ノアの方は他の辺境伯の妻となる人達、そして元から交流があった人達と話をしている。
そうしている間に侯爵家や大公家が現れ賑やかになっていく。
「あなた」
ノアが自然と俺と腕を組み隣にいる。
何か危険でもあるのかと警戒しているとノアは笑った。
「警戒しなくていいわよ、ただ一緒に挨拶回りをしてほしいだけ。彼女達があなたにも興味があるみたいで」
「女の子の流行りとか知らないぞ」
「ただ一緒に居ればいいだけよ。恋愛に関して興味があるだけだから」
「もしかして……相手いない子?」
「そうじゃなくて、リリアと同じ。恋に恋してるって感じ」
「なるほど。それなら話し合わせられる」
要はノアとイチャついているところを見せればいいんだろう。
そう思いながらノアの友人の前に行く。
「初めまして、アレックス・ヘキサグラムです。ノアと親しくしていただきありがとうございます」
「あなたがアレックス様ですのね。お初目にかかります、ホルーグ家の次女でございます」
「クリスティール家の四女でございます」
「ゼイル家の三女でございます」
この子達みんな大公の所の娘さん達かよ。
俺より断然偉いじゃん。
「みなさん、改めて私の夫であるアレックス様です。これで納得していただけました?」
「ええ、とても仲睦まじいようで羨ましく思います」
「ノア姫様が辺境伯に嫁いだと聞いた時は驚きましたが、こういったたくましい方がお好みでしたのね」
「召喚士と聞いておりましたがしっかりと筋肉はあるのですね」
「ノアの夫として相応しい姿を保つためですよ。これでも色々努力しているつもりです」
「そんなご謙遜ならず。あの巨大なドラゴンを召喚した方と聞いていましたが、お優しい方なのですね」
「そう……でしょうか?」
「それはもちろん!ノア姫様と手紙でやり取りするときは必ずと言って良いほどアレックス様の話題が――」
「そ、その話は良いではありませんか!少し飲み物をもらってきます!」
そう言ってノアは離れてしまう。俺の事を紹介するだけだったのだろうか?
ノアについて行こうとすると令嬢達が止めた。
「本当に安心しました。ノア姫様が心を許した殿方について一度しっかり見ておきたくてノア姫様に無理を承知でお願いしましたの。あなたはノア姫様の事を本当に大切に思っていらっしゃりますのね」
「?当たり前じゃないですか。彼女は私の妻です。愛しい人を守るのは男の役目かと」
「……ふふ。手紙の通りの方なのですね」
「ええ。女性を守るのは当然という考え方、実はできている殿方は少ないんですよ」
「私達の婚約者はその辺りを勘違いしていますものね。家のためというのは分かりますが、もう少し私達個人の事も見てほしいものです」
「守ってくれるようですが……正直彼の気持ちなのか、義務として守っているのか分からなくなります。贅沢かもしれませんが、義務ではなく好いているから守ってくれている。そんな実感が欲しくなります」
ふむ。
恋に恋してると言うよりは恋愛相談がしたかったのだろうか?
ノアの事を慕っているのも本当の様だが、もしかして俺と話したかった理由はこれか?
少し考えてからアドバイスを送ってみる。
「それなら弱みを見せてみると言うのはいかがでしょう?」
「弱み、とは?」
「本当に小さなことです。虫が怖いとか、暗みが怖いとか、そういう弱みを見せながら婚約者の方に甘えてみるのはいかがでしょう」
「それは……はしたないと思われるのでは?」
「そのくらいじゃはしたないとは思いませんよ。なんだかんだで男は守る側になって良い気になりたいんですよ。その辺りは個人差が出ますが……女性に頼られる事で自信を持つ男性もいます。失礼ですが婚約者の方は大公家の方でしょうか?」
「いいえ、私達全員侯爵家の方と婚約しました」
「もしかしたらですが、みなさま大公家の方なので委縮してしまっている可能性があります。なのでほんの少し、小さな事で良いので頼ってみるのはいかがでしょうか」
俺がそう言ってみると彼女達は少し考え始める。
そうしている間にノアが戻って来た。
「何を話していたの?」
「婚約者に甘えてみたいと言うから少しアドバイスを」
「あまり変な事を言ってないでしょうね」
「言ってないって。まぁ俺が言った事は本当に切っ掛け程度にはなるかな?っと思っただけなのであまり期待しすぎないでください。それでは」
ノアが腕を引くので一緒に移動する。
その顔はどこか不機嫌そうだ。
「ノア。別にナンパとかしてないぞ。ただの恋愛相談に乗っただけだ」
「分かっているけど……それでも気に入らない物は気に入らないの」
そう言って拗ねているので優しく抱きしめる。
少しの間黙って抱きしめ続けると――
「帰ったらしっかり私の事を愛してるって行動で示して」
「分かった」
そう約束するとファンファーレの様な物が鳴った。
どうやら主催者のご登場の様だ。




