殿下開催の社交界
晩飯中リリアが何故か俺とノアを見比べながら顔をしかめている。
「…………リリア、何か俺達の顔についてるか?」
そう確認してみるとリリアは俺達に向かってはっきりと言う。
「お兄様とお姉さまは淫乱です」
まさかリリアの口から淫乱という言葉が出てくるとは思わなかった。
それはノアにとっても予想外だったようで、その衝撃からかフォークに差していた肉が皿の上に落ちる。
「リ、リリア?私達が淫乱ってどういう事かしら?」
恐る恐る確認するとリリアの口から非常に真っ当な言葉が発せられる。
「殿下の自慢で色んな同級生の女の子達と話をする事が多くなったのですが、お兄様とお姉様のように毎晩愛し合ってるカップルは他にいません!みんな手も握った事がないと言っていました!!」
まぁ中学生くらいならそれくらいが妥当だよな……
そもそも婚約していると言っても普通はお互いの家にいて、たまにお茶会と言う名のデートで仲良くしたり、王都にいればデートで町を護衛に守られながらショッピング。みたいなものである。
そう考えると俺達何段階吹き飛ばして進んでるんだろ?
ノアは最初から子供を望んでいたし、俺も戦争を経験したからか子供欲しい衝動みたいなのがあった気がする。
ある意味生存本能の暴走?みたいな事になっていたように思える。
実際戦場に出る前は本当にたまにだったのに、最近は毎晩愛し合っている気がする。
なんか言われて思い出したが確かに早すぎるし、周りから淫乱判定を受けても仕方がない気が……
「私だって、お兄様とお姉さまが仲良くしている事は良いと思います。でも先に進み過ぎだとも感じました」
「あ~それは~その~……その通りです」
「あなた!?」
味方してくれると思っていたノアが裏切られたかのような悲鳴に近い声を上げる。
「でもよノア。世間体で見れば俺達が進み過ぎてるって話は仕方ないと思うぞ。お父様に聞いた話じゃ学校を卒業した後に子作り始めるのが一般的みたいだし、平民から見れば早過ぎる異常事態だぞ」
「あ、あなたがそれを言ってはいけないでしょ!!あなただってノリノリだったくせに!!」
「そりゃ男として愛する女を抱ける機会は1回でも多いのは嬉しい。でも世間体という物も考えなきゃいけなかったのは事実だろ。それは受け止めるべきだ」
「く!こんな時ばっかり正論を言って!!でもねリリア、私達は別に淫乱と言う訳じゃないのよ?ただ~その、お互いに愛し合っているとそういう気持ちになると言うか、これそう!お世継ぎ問題に関する事で――」
「ノア」
俺がこちらの負けだと言う意味を込めて一言言うとやっとノアは諦めた。
ノアが落ち着くとリリアは真面目に言う。
「お兄様とお姉さまが愛し合っている事に関しては特に問題でも何でもないの。好きにしていいしそういうコミュニケーションが重要な事も……ちょっとは分かる。でも面倒なのは殿下なの」
「殿下?何でそこで殿下が出てくる?」
唐突過ぎる殿下の言葉に俺とノアは首をかしげる。
するとリリアはため息をつきながら言った。
「最近殿下がお兄様とお姉様の関係を持ち出してそういう関係になろうとしてきてるの。それが本当に気持ち悪い」
あ~……そこで殿下が出てくるのか。
つまり何か?俺とノアが愛し合っている噂を聞いて、自分達も~みたいな事を言い出したという事か?
それは良くないよ殿下。
あくまでも俺達の関係は無数に存在するパターンの1つでしかない訳で、それを基準にしてもらっては困る。
というか俺達の関係でリリアが困らされていたとは思わなかった。
この状況を打開するためにどうするべきか考えると、ノアがため息をつきながらリリアに謝罪する。
「リリア、ごめんなさい。まさかあの愚兄がそんな事を言い出すなんて……」
「愚が付いちゃったよ。前評判良かったお兄さんの事愚かって言っちゃったよ」
「あたりまえでしょ。婚約者とはいえ強引にそういう事を迫ったのだから嫌われても仕方ないわよ」
「それは……そうだが」
確かにそれに関しては殿下が悪い。
でも本当に殿下暴走しっぱなしじゃないか?前評判大分変ってしまっているような気がするが大丈夫だろうか?
「それに同じ女として好きでもない相手に言い寄られる気持ち悪さは分かる物。悪い虫は潰しておくべきでしょ」
「お姉さま!!」
「ノア。お前も俺に対して押しかけ女房だったこと忘れるなよ」
それを言うと少しの間ノアは固まった。
恋愛関係で暴走しがちなのは王家の特徴か?それとも肉食系ばかり集まってしまったのか?
なんにせよぶっちゃけノアに殿下の悪い所を突く資格はあまりなように感じる。
でもリリアに対してそういう態度を改めさせる必要もある。
となると。
「リリア、次の茶会とか俺達も参加できるかな?」
「次は……あ、問題ないよ。次は茶会じゃなくて社交界だから」
「社交界?何で夏休み中に?」
「情報交換の場だよ。殿下が主催者として暇な学園の人達とか色々呼ぶつもりらしいよ。何か国の方から重要な話もあるって殿下も言ってたし」
「重要な話しね。戦争に関する話じゃないと良いけど」
だがこれで俺も参加できる可能性が非常に高いな。
もしかしたら個別に招待状が届くか、あるいは俺達3人まとめての招待状になるかもしれない。
あと気になるのは両親にも招待状が届くのかどうか。
「リリア。その社交界大人も参加できるのか?」
「分かんない。でも殿下の言い方だとお父様たちは参加できないかも。次期当主達と親睦を深めたいって言ってたから」
「なるほど……それ男だけじゃないよな?」
「もちろん婚約者も一緒に参加できるようにするって」
となると俺とノアは確実に参加できるな。
俺も一応次期当主だし、ノアはその妻。参加資格はある。
あと問題は殿下が本当に俺達に招待状を送ってくれるかどうかと言う所か。
殿下にとって俺とノアは邪魔な存在と思われているかもしれない。リリアとの逢瀬を邪魔する存在として。
そうなるとクロエス様も参加するだろうし、その時に改めて殿下との関係が今どうなっているのか確認しておくべきか。
「よし。それじゃ作戦会議と行きますか。リリアがそう聞いたのなら確実に社交界そのものは開かれるかもしれない。それまでの本当に良好な夫婦の関係性について見せつけてやる」
「それで殿下の悪癖直るの?」
「直してもらわないと困る。あと殿下とクロエス様の関係はどうだ?」
「その……あんまり関係は良くない。殿下は相変わらず私ばっかりだし、クロエス様は……諦めちゃってる感じ」
「そう……か。それなら婚約破棄の方向に舵を取るか。殿下はどうにかなるかもしれないが、そのバックが怖いんだよな」
つまり本当に怖いのは陛下。
おそらく今でも俺の事を強力な戦力として数えているのは間違いない。
殿下とリリアの婚約を解消するかどうか、その決定打を目撃できるかもしれない。
これは色々準備しておくべきか。
「全く。結局殿下も陛下もリリアの事見てない可能性高いな。陛下も俺がこの国で貴族していればそれでいいみたいな雰囲気あるし。ノア。いい加減落ち込むの止めろ。社交界の準備入念にしておかないといけないかもしれないぞ」
「同じ……?あの愚兄と私が?同じ…………」
同じとまでは言っていないが想像以上に効果があり過ぎたらしい。
クロエス様との関係しだいだが、見極めさせてもらうぞ。
こっちだって縁を切る権利だけはあるんだからな。




