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戦争報告会

 報告書をまとめて城に行くとき、妙な気迫のノアを連れて行く事となった。

 何でそうなったかって?ノアが親父に俺を戦場に行かせたのが気に入らないから抗議するって。

 そのために凄まじい雰囲気を出しながら顔だけは笑顔。このギャップが非常に怖い。

 それでも報告しに行かなければならないのでこの辺は陛下自身に納めてもらおう。

 親子で喧嘩しな。


 そして報告は陛下だけではなく国のお偉いさん達も混じっての報告となる。

 いわゆる大臣とか軍事関連のトップとか、そういう人達も報告を聞く。

 そして今後の帝国への対抗策を考えるそうだ。


「これより、アレックス・ヘキサグラムによる報告会を行います」


 色んなお偉いさんの前でコピーした資料を渡してから報告をする。

 父親に手直ししてもらった報告書を読みながら事実だけを言えばいい。感想とかは聞かれた時に言えばいいのだ。

 だから淡々と、ただ事実だけを伝えていく。その時の被害やキメラ達の事を。


「――以上です。報告を終わります」


 俺がそう言って着席すると周りの空気は非常に重かった。

 どうやら帝国側が想像以上の強化っぷりにどう対応すればいいのか分からないらしい。

 実際中型、ライオンとか熊をベースにしている連中だってかなり厄介だ。それに象が1番デカいから中型に枠組みしているだけで、ライオンとかも十分デカい。

 あと他にデカいのはキリンとかもいたな。どこのホラーゲームだよっとツッコミたくなるような異形の姿だったのだから動物が可愛そうだ。


「……実際に戦ってみた感想はどうだった」


 陛下が聞いてきたので詳しく聞く。


「それはどのキメラの話でしょうか。それとも帝国軍全体の話でしょうか」

「キメラの話から聞こうか。それぞれ小型、中型、大型と戦った際どれくらいの兵力があれば勝てると思った」

「そうですね……まず小型に関しましては一般兵でも勝てるかと。中型だと一般兵なら4人がかりがいいのではないかと思います。大型に関しては……10人がかりでやっとかと。ただしこれは1体だけを想定した場合です。複数で攻められたら……そのような数では足りないかと」

「……巨人のキメラに関してはどう思う」

「非常に優秀な魔法使い達に攻撃してもらうしかありません。剣や槍では皮膚を貫通するかどうかも怪しいです。何より大き過ぎて近付くだけでも踏み潰されてしまう可能性が高い。なので魔法で目を狙うくらいでないと攻撃が通じるかも分かりません」

「矢ではダメなのか?」

「飛距離の問題と刺さるかどうか分からないところが懸念点です。あれだけの大きさとなれば皮膚も分厚いと思いますし、刺さったとしても攻撃になっているのかどうか分かりません」

「…………分かった。他の者達はこれを聞いてどう思う」


 陛下の問いに誰も答えられない。

 あまりにも規模がデカすぎるし、今までと全く違う状況なのだろう。

 非常識で異常事態。今までの常識が全く通用しないと言ったところか。

 彼らはどう答えを出すのか、黙って待っていると1人が口を開く。


「やはり騎士団や魔法師団をより強化するしかないのでは?魔法使いの数はそう多くない。徴兵令を出し全ての魔法使いを戦えるように訓練すべきでは?」

「だがそれでは時間がかかりすぎる。それに全ての魔法使いと言うが下位の魔法使いはどうする?奴らの徴兵するのか?」

「いくら魔法使いを徴兵したところで数が足りるとは思えませんな。ここは魔道具を普及させ、騎士団に使用してもらうのが手っ取り早いのでは?」

「その魔道具はどうする?確かに生産しているとはいえそんな急に巨人を倒せるような魔道具を量産する事が出来るのか?それに今までの戦略と大きく変わり過ぎる。戦術の見直しを行わなければならない」


 まぁ無難な意見の出し合いが行われる。

 徴兵による軍事力の強化、今いる軍人により強い武器を持たせる、巨人でも通用するトラップを用意するなど、実現可能かどうかは置いておいて話し合っている。

 色々と話が出てくるなか、1人の気弱そうな貴族が俺を見ながら言う。


「全てその男に任せるのはどうですか?精霊の力を使えば巨人など一捻りだったのでしょう」


 その言葉を聞いた瞬間ノアから恐ろしい気配がした。

 俺は気が付いて宥めている間に他の一部の貴族達はそれに同調する。


「なるほど、それなら召喚するだけで済む」

「そうだ。それでなら人の被害はなくなるかもしれない」

「巨人を倒せるほどの精霊を召喚し続ければ帝国など怖くない」


 少しずつ同調の輪は大きくなっていくのに比例してノアの怒りも増していく。


「アレックス様。発言させてください」

「俺がまとめて潰すから、お前はそのあと追撃してくれればいい」


 必死にノアをなだめていると同調しない貴族達もいる。

 その中にはエムリアール侯爵の姿もあった。

 他にもその話に乗らない貴族達はおそらく我が家よりも地位の高い貴族達である可能性が高い。

 確かに俺に頼るのが最も楽で分かりやすい答えの1つかもしれないが、俺は善人じゃないぞ。


「アレックス・ヘキサグラム。お前ならどんなキメラであろうとも倒せるのではないか!」


 とうとう俺に聞いてきたのでまだポーカーフェイスを保ちながら言う。


「どんなと言われると今後の事も考えて不確かな事は言えませんが、今回の巨人のキメラを倒したのは私の精霊です」

「それでいい!ならお前がこの国中に精霊を配置し、この国を守れ!」

「なるほど、それを望む方々はどれくらいいらっしゃるでしょうか?」


 あえて確認すると半分より少し多いくらいの貴族が手を上げた。


「ノア、顔覚えた?」

「ええ、名前もよく知っているわ」


 ノアはもう既に敵をかみ殺したいと思っている獣のように彼らの顔を覚えていく。

 それじゃ準備は整ったという事で反撃に出よう。


「なるほど分かりました。国のためですからね」

「良い心がけだ。これで国の未来も明るい」


 何て上手くいったと思っているようだが、世の中そう甘くはねぇぞ。


「ですが……少々条件が」

「条件だと?いったいどんな条件があるというのだ」

「はい。みなさんが持っている領地、家族、財産。全ていただきます」


 その言葉に手を上げた貴族達は非常に驚いた。


「一体どこからそんな話が出てくる!!国を守るのになぜ領地や財産を渡さねばならない!!」

「精霊達を定着させるためですよ。私の召喚魔法はそんなに便利じゃないんです。実は召喚魔法で召喚した精霊達は私のそばから離れる事が出来ないんです。どれだけ広くても王都くらいの広さを超えると精霊とのつながりが薄まってしまい、途切れてしまう可能性があります。その場合どれだけ多くの精霊を召喚したところですぐに消えてしまうので意味がないんですよ」

「お前の精霊が王都から領地に飛んでいくのを見たという者を知っているぞ!それはデタラメだ!!」

「それはヘキサグラムの土地が私の土地だからです。人間が定めた土地の権利はお父様にありますが、精霊達にとっては俺の土地という感覚なんです。実際領地と精霊が契約しているとでも言いましょうか、そうする事で遠く離れていても消える事なく魔力を供給する事が出来るのです」

「土地との契約というのであれば領地を与える必要はないだろう!」

「それは私個人が気に入らないからですよ」

「な、なんだと!?」

「例えばですが、農業が盛んな土地に土の精霊を召喚した事でより作物が多く収穫できるようになったとします。それは私の精霊のおかげなのに得をするのはあなた方、というのはとても気に入らない。逆の立場ならお分かりいただけるのでは?」

「それならそれと関係のない精霊を召喚すればいい!!」

「残念ですが彼らは必ず何らかの属性に属しています。シルフィードは風、レムルシャールは氷と言う感じで必ず自然と結びつきがある。それを切り離すとなると……どこかの強力な魔物を召喚し、その地に野放しにするくらいしか思いつきません」


 わざと困った表情をしながら言うとバカな貴族達は黙る。

 そこにノアが迫力のある笑みを浮かべながらバカ貴族達に言う。


「皆様、これは真っ当な対価です。自分達は兵を出さないのに自分達を守れ、金も食料も出したくない。そのような話があるでしょうか」

「そ、それは!」

「国のためというのであれば夫の様に最前線に立ち、キメラの1体でも倒してみたらいかがでしょう。まぁ、そのようなお腹ではあっという間にキメラの餌にされそうですが」


 ノアは太った貴族をそっと嗤いながら他にも手を上げていた貴族達に視線を向ける。


「あなた方もです。あなた達の考えは国を守るではなく自分達の身の安全を優先しているだけでしょう。そんなあなた達こそ、この国に不要なのでは?」


 そこまで言って良いんだ。

 なんて思っていると次のノアの標的は陛下だ。


「それから陛下。彼らがこのような意見を出すのは陛下が原因である事を自覚しているでしょうか」

「なに?」

「陛下がファランゴル王国に夫を送ったのが原因。国としての判断だったとしても、私は妻として陛下に抗議させていただきます」


 有力貴族がいる中でハッキリと抗議した事にどの貴族も動揺する。

 陛下は視線を鋭くしながらノアと敵対する。


「私の判断が間違っていたとでも」

「間違ってはおりませんわ。夫が活躍した事でファランゴル王国は安定しましたし、この国に大きな貸しを作る事が出来ました。ですが夫も私も未成年と見られるのも事実。陛下は念のため夫を送ったというのでしょうが、それでも妻として抗議させていただきます」

「ふん。そんな事か。要は妻として夫を戦地に送った事が気に入らないという事なのだろう?」

「その通りです」

「…………あっさりと認めるのだな」

「ええ、所詮私の言葉などただの我儘。ですが夫が戦地で死なないよう抗うのも妻の務め、そもそも戦地に赴かせない事が重要だと思います」

「国を守るためだ」

「ではなぜ守るために殿下が戦地に赴かれたのでしょう?ファランゴル王国は存亡の危機の時に殿下の相手などしている暇などない事を分かっていたでしょうに」

「あれには戦地を知ってもらう必要があった」

「夫がすぐに送り返さなければ今頃巨人の足の下だったかもしれませんね」


 ノア、止まらない。

 それに殿下が戦地に行った事を知らなかったのか貴族達は驚いている。

 まぁすぐ従者共々送り返したから問題なかったんだけどさ。


「陛下、夫の力が優れているから利用するというのであれば。夫にその王位を譲ってはいただけませんか」

「は?」


 その言葉に1番最初に反応したのは俺だ。は?と言ったのも俺。


「おいノア。さすがにそれは飛躍しすぎじゃね?」

「ですがこれが国を守る最も手っ取り早い方法ですよ?アレックス様が王位に立つ事でこの国の土地全てがあなたの物、そうすれば精霊達はこの国で自由に過ごす事が出来る。それこそキメラ対策のためにもできるでしょう」


 俺が言った嘘そのまま活用してきやがった。


「それは……そうだが、俺は王位に興味なんてない。要らねぇよあんなもん」

「それは残念です。あなたが玉座に座ればよりこの国は発展できたというのに」


 本気か嘘か分からない。

 この国の姫としてそう育てられてきたんだからそういう考えもするかもしれない、それくらいの説得力がある。

 頼むから嘘であってくれよ。


「……よく我が前で王位の話が出来たな」

「当然でしょう。国を守るために必要な可能性は全て出しておくべきでしょう。それでは失礼いたします。それから領地を夫に渡してくれるのであれば、考えない事もありませんよ。それでは行きましょうアレックス様」

「それもそうだな。報告もしたし、これ以上はお邪魔だな。陛下、そして皆様。失礼させていただきます」


 2人揃って丁寧に頭を下げた後、退室した。

 扉が閉まった事を確認してから聞く。


「あれどこまで本気?」

「どこまでって?」

「王位の所」

「ああ、あれ全部嘘。あなたが王位に興味がない事は知っていたし、無理矢理王に担ぎ上げるつもりもない。でもあなたが要らねぇよあんなもんって、あんなもんって!」


 何がウケたのかは分からないがノアが爆笑している。

 腹抱えて笑っているんだから相当だ。


「それにしても……かき乱すだけかき乱して出てきちゃったな。お父様達に後で叱られそう」

「まぁ大丈夫じゃない。一応未成年のあなたを何度も戦場に送り込むようだったらお義母様も抗議を行うって言ってたし」

「……お父様に負担かけるな~」


 お父様、あなたの息子と嫁は悪い子です。

 何で王様の前で王位なんかいらないというし、国を守るために玉座よこせと言いました。

 こんな非常識な夫婦他にいないだろうな。

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