ただいま
シルフィードに担がれて屋敷にあっさり帰って来た。
玄関前に降り立つと勝手に力が抜けた。
「マスター大丈夫か?」
「ああ、どうやら思っていた以上に疲弊してたらしい。気が抜けただけだ」
思っていた以上に戦場での日々は疲れていたという事なんだろう。
シルフィードが扉を空けると早速抱き着かれた。
「……お帰りなさい」
「ただいま、ノア」
そう言って空いた手で抱きしめるとノアが珍しく人前で甘えてくる。
リリアとか他の使用人達も見ているのでちょっと気恥しい。
それに何と言うか、使用人達が生暖かい目で俺達を見ているのが余計に恥ずかしさをかきたてる。
でも戦場に行って心配かけたのは俺だし、ここは甘んじて受けるべきだよな。
なんて思いながら抱きしめられ流石に長くない?っと思う。
10分くらい経過した?
流石のみんなも邪魔しちゃ悪いと思っていたからか黙っているけど、さすがに長くない?っとアイコンタクトを図ると頷かれる。
やっぱ長いよな。
「あ~、ノア。喜んでくれているのは分かるんだが、さすがに長くない?」
「あ、ごめんなさい。久しぶりだったからつい……」
そう言って慌てて離れながら赤面するノア。
なんか久しぶりに会ったからこんな感じだったっけ?っと思ってしまう。
「それでお食事にしますか?お風呂にしますか?それとも……お休みになりますか?」
「臭いと思うから風呂入るよ。たまにしか体洗えなかったし」
って事で風呂に入る。
久々の風呂に入る前に念入りに体を洗うと……想像以上に汚ねぇな。
何度も石鹸で洗い落とさないといけないし、髪も特に汚い。なんかい石鹸で洗い直さなければならないのかと思うほどだ。
「背中、洗ってあげるわね」
「お、ありが――ってなんでいんの?」
いつの間にか後ろに居たノアに少し驚く。
風呂場だから当然だが、当然裸。
普段一緒に風呂に入っていないのに何で今日は一緒に入ってきた?
「戦地から帰ってきた夫を労わってるだけよ。それにしても汚いわね」
「仕方ないだろ。向こうじゃ良くて水浴びだけだったし、それ以外は不衛生極まりないぞ。旅行じゃないから着替えとかも大量に持って行けないし」
「理屈では分かるけど……それでも汚い。洗ってあげる」
「いいって、恥ずかしい」
「恥ずかしがらなくても良いじゃない。少しは甘えなさい」
そう言って俺の背中を両手で洗ってくれる。
目の届かないところを洗ってくれるのは確かに助かるんだが、それでもこう、気恥ずかしさがある。
ノアの方はそういうの感じていないんだろうか?
それとも労わると言っていたし、そっちを優先して気恥ずかしいのを我慢しているだけとか?
色々考えながら現れているとふいにノアが後ろから抱きしめてきた。
「あ~ノア。色々当たってるんだが?」
「いいのよ。抱きしめてるんだから」
そう言って気にせず抱きしめ続ける。
混乱と恥ずかしさで固まる俺をよそにノアは体を擦り付けるようにして俺の背中を洗う。
というかこれ本当に洗っているのか?ただ甘えているだけじゃ??
そう考えているとノアが耳元で言う。
「不安だった」
その一言に意識がしっかりとノアに向けられる。
「あなたの精霊達が強いのは知っているけど、それでもちゃんと帰ってきてくれるか心配で、ずっと神様に祈ってた。無事に帰ってきますように、また会えますようにってずっと祈り続けてた」
「……すまん」
「悪いのはあなたじゃない。あなたはしっかりと貴族として陛下の命令を遂行しただけ。恨むなら陛下よ」
「それ自分の父親を恨むって言ってるような物だが?」
「その通りよ。例え血の繋がった父でもこればっかりは容認できる訳ないじゃない。あなたがいない間色々仕掛けさせてもらったわ」
「悪い笑みを浮かべてらっしゃる」
「当然じゃない。いくら強いと言ってもまだ当主になっていない子供扱いをするのにこういう時だけいいように利用する。気に入らないに決まってるでしょ」
「まぁな。でも王様だしそれくらいの強かさ?図々しさ?は必要なんじゃないの」
「それでも子供扱いしている者を戦場に駆り出すのは最終手段であり、援軍として送り出す相手じゃないのよ。それならきちんと騎士団の隊長を送り出すべきね」
「後から来てくれたが?」
「遅すぎる。最初に子供を援軍として送ってこられた隣国の将も困惑したでしょ」
「それは確かに。本当に実力があるのか、助けられるくらいの力があるのか疑われた」
「そういう事を起こさないようにするためにもしっかりと大人と認められた者が出るべきだったのに。全く」
ノアの不満が止まらない。
よく見てみるとすぐ隣にノアの顔があり、ちょっと顔を動かせばキスが出来る。
なのでキスをした。
考えなしでただしたいと思ったからしたキス。
ノアは突然キスされた事に驚いていたが、自然と受け入れてくれた。
「……不意打ちはズルい」
「すまん。したくなった」
「別に良いけど、そんなことされたらしたくなっちゃうじゃない」
そう言ってさらに体を密着させる。
ぶっちゃけ俺もたまらないのだが……
「流石に後でだ。飯食って体力取り戻した後で思いっきり、な」
「……食べたらすぐするわよ。今日1日中あなたの事を労わってあげる」
「そりゃ楽しみだ」
だから今はまだ我慢。
風呂に入って体を癒した後に飯を食べる。
「これまた……送別会以上じゃないか?」
「お兄様が無事に帰って来たお祝いだもん。それにあっちじゃ美味しいご飯なんて食べれなかったんでしょ?」
「そりゃな。保存食を少しずつ食べるだけだったからこういうのはなかったな」
皿を洗うみたいな行為も避けるべき戦場で皿の上にある温かい料理なんて食べれない。
食ったのは火で炙ったパンや干し肉、チーズなどの保存食品。
火すら使えなければそのまま食べてとにかく動けるだけのカロリーだけを摂取するという感じだ。
味やら何やらは二の次三の次だ。
「それじゃ、いただきます」
そう言ってから口に物を運ぶと温かい。
ちゃんとした料理を食べるのはどれくらいぶりだったっけな?
「美味い。そして温かい」
「お兄様……」
「どうしたリリア?」
「涙、出てるよ」
そう言われて目元をぬぐうと、確かに水滴がついていた。
どうやら戦地での環境は想像以上に俺を疲弊させていたらしい。
少しずつ心が回復していくような感じがする。
飯を食べれば腹だけではなく心も回復していっている。
それがはっきりと分かった。
「すまん。別に悲しいとかそういうんじゃないんだ。ただ返ってきたって安心したら、なんか勝手に出た」
「アレックス様、本当にお役目お疲れさまでした。今日はしっかりとお休みください」
「ああ。そう言えば学園ってどうなってるんだ?明日からまた通学か?」
「お兄様……もう学園は夏休みに入ったよ。だから学園に行かなくていいの」
「え、もうそんな時期か!?やっべ実家帰るタイミング逃した?」
「ふふ、アレックスが帰ってきた事はシルフィードに頼んで伝えてもらってるから。それに帰って来たばかりなのに領地に帰るのも大変でしょ?だから今回は流石に見送りましょ。その旨を伝える手紙はシルフィードに持たせたから」
「なんか申し訳ないな。実家帰るつもりだった分余計に申し訳ない」
「いいのよ、そういう事情はお義父様も分かってくれると思うから。それより今は食べて回復して、ゆっくり休みましょ」
「ああ、そうさせてもらう」
こうして俺は久しぶりに腹いっぱい飯を食ってから寝室に入る。
久しぶりのフカフカのベッドに力を抜くとすぐに寝てしまいそうだ。
それなのに意識はまだしっかりしているところを見るに、なんだかんだで期待しているらしい。
軽いノックの後にノアは下着姿で入って来た。
「お待たせしました旦那様。しばらくの間じっくりと労わらせていただきます」
「ああ、そうさせてもらう」
そうしてしばらくの間ノアと一緒のベッドで寝る機会が増えた。




