戦争による精神変化
帝国兵が使ったルートをそのまま逆に使うような感じで俺達は北に向かっていく。
捕まえた奴の話によれば拠点にもキメラが居て俺達に勝てる訳がないと言っていたそうだ。
他の細かい所はゴルドーにでも任せて俺はとにかくキメラを殺して進めばいい。
この国で作った拠点は全部で4つ、1つはさっき壊した拠点なので残りは3つ。
次いで使えそうな物、矢とか鎧とか、武器の類は全てゴルドー達に渡し、食糧に関してはみんなで分けた。
相手から奪った物資で補給し、次の拠点を潰しに行く。
クリムゾンとか目立つのである程度近付いたら一気に奇襲を仕掛け、キメラを残さず殺す。
人為的に生み出されたのであれば野生にも還る場所はないし、殺すしかない。
もし半端に放置すれば生態系が崩れるだけだろう。
「次の拠点まで徒歩で半日か。クリムゾンが目立つので少し離れたところで待機している方が良いですかね?」
「そう……ですね、しかしその場合襲撃するタイミングをどうお伝えするか……」
「ドラグーン達とディノスは人間とそんなに背は変わらないので彼らを連れて行ってください。彼らと私は契約関係あるので彼らの耳を使ってタイミングを伝えてくれれば急行します」
「な、なるほど。召喚士だからこそできる連絡方法ですね。それではアレックス様はここで合図があるまで待機をお願いします」
という事で彼らを先に行かせた。
キメラを倒すだけなら俺達だけで十分だが、相手は一応軍隊だ。
兵を1体でも取り逃せばそこから野党となって被害を生み出すかもしれないし、そう言った二次被害を増やさないためにも徹底的に殺しておく必要がある。
野蛮な国ならその辺は徹底的にしておかないと。
待っている間保存食である硬いパンと水代わりのワインをちびちび飲む。
未開封のワインなら腐らないというアルコールの力?を利用している訳だが……酒弱い人大丈夫なのかな?弱いと言っても酒は酒、酔う人いないのか?
俺はザルっぽいから問題ないけど。
しばらく待っている間何故かブレイドが不安そうに俺の事を見るが特に危険はない。
クリムゾンも大人しく待機しているし、何かが近づいてくる気配もない。
一体何に不安を持っているのか分からないが、ディノスから連絡が入る。そろそろ突入するとの事なのでクリムゾンの肩に乗りタイミングを合わせて突入。
中型までは雑兵やディノスが対応し、大型や少し強そうな奴に関してはクリムゾンが殲滅する形でキメラ達を殺した。
やはりBP勝負という点だけで見ればスピリット達はほぼ無双状態と言える。
特にクリムゾンやロマンスは体格だけでも勝っているのだから更にだろう。
そう思っている間に全てのキメラを殺し、帝国兵達も殺していく。
これで残り2つ。
「アレックス様。今日の所はここで休みましょう。精霊のおかげで攻略出来ましたが、疲弊している者も多くいますので」
「分かった。でもこういうのって騎士団長に言う物じゃないのか?」
「騎士団長には先に進言しました。その結果今日は休むとの事です」
「分かった。休憩はどれくらいにする?」
「ここまで連戦でしたので昼まで休憩した後3つ目の拠点に向かう予定です」
「分かった。お互いそれまでしっかり休むとしよう」
夜も軍事行動中なので特に美味い飯が食えるわけでもなく保存食が続く。
帝国兵も食い物はパンとジャガイモの様な物が目立つ。あとは干し肉などもあるがとにかく芋類が多いな。
そんな食生活だが意外と精神的な疲労が少ないのは思っていた以上に図太いのだろうか?
明日の昼まで休むと言っても片づけなどがない訳ではない。
普通に朝起きて再び狩りに向かう。
帝国兵をすぐにでも殺して戦争を終わらせるために。
――
その後順調に3つ目の拠点を潰した後、知っている気配がした。
「アレックス様?どうしましたか?」
立ち止まった俺にゴルドーが声をかける。
「知り合いが来る」
「え?」
高速で降りてきたからか土埃と衝撃が俺の前で起こるが平然と立つ。
ゴルドーや他の兵士達は何事かと槍を向けるが降り立った者は俺に言う。
「やっと追いついたぞマスター」
「久しぶりだなシルフィード。彼女は俺の精霊の1人だ、警戒しなくていい」
俺の言葉に戸惑いながらも武器を収めてくれたのでほっとする。
「それでどうしたんだ?こんな所まで飛んできて?まさかノア達に何かあったか!?」
「そういう事ではない。王国軍がお前達の事を追いかけてきたのに移動速度が早過ぎて追いつけないから少し待って欲しいと頼まれてな。それで飛んできた訳だ」
「王国軍って……ノア達は?」
「今はレムルシャールが護衛している。それより酷いありさまだな」
「ああ。さっきまで帝国兵と戦ってたから――」
「そうじゃない。これで元に戻るか?」
そう言ってシルフィードは俺の前で猫だましをした。
突然の音で驚くが……元に戻るってどういう意味だ?
「お、戻ったようで何より」
「戻ったって何がだ?」
「マスターはこの光景を見てどう思う?」
「どうってそりゃ――」
周りは帝国兵の死体でいっぱいだ。
俺達が殺して地面には血だけじゃなく内臓や腕や足が散らばっていたりする。
特にスピリット達が倒した帝国兵たちは無残だ。
あまりにも強力な力によって倒されたからか、まるで車か何かに轢かれた様な原形が分からない死体も多くある。
その血の臭いと光景に吐き気を堪えながらシルフィードに言う。
「――酷い、光景だよ」
「それが正常な状態だ。マスターは精霊との親和性が高すぎるのが問題だな」
「それってどういう――」
「精霊を使役している間に精神が精霊のようになってしまう事がある。例えば生物の関心が薄くなるような物だ。新しく呼んだ精霊達は生物の死に鈍感の様だからその精神性をマスターが強く影響されてしまったんだろう。さっきまで死などただの現象でしかないと思っていたはずだ」
シルフィードの言葉を否定する事が出来なかった。
いつの間にか帝国兵を皆殺しにする事しか考えていなかったし、何ならゴルドー達を置いてスピリット達だけで帝国兵達を絶滅させようとしていた。
今の俺の手札にはそれが出来るだけの力があるし、やろうと思えば偽りの神を召喚しても良いと考えていた。
その下準備は済んでいるのだから。
「戦場で生物の死をとやかく言っている暇などないだろうが、その者達の考えに影響され過ぎるのは良くない。意外な弱点が分かったなマスター」
「……俺も予想外だったよ」
おそらくブレイドが俺の事を心配してみていたのはこの精神状態の事だったのだろう。
だがそのおかげで殺し合っている時気分が悪くなったり、躊躇って他の人達が傷付く事を避ける事は出来た。
これは戦争なのだから最善を尽くした、と思いたい。
「そ、それでディクト・ゼレン軍は何と?」
「今からそちらに合流するから少し待って欲しいそうだ。問題ないか?」
「拠点潰したばっかりだし、休息は必要だからちょうどいいんじゃないですかね?」
「そうですね。それでどれくらいで到着するでしょうか?」
「まる1日歩けばたどり着く距離だ」
「それじゃ2日くらい休みます?ここんところ休んでは戦っての繰り返しでしたから、しっかりと休むのも重要かと」
「合流する必要がありますからそうしましょう」
「ではそのように伝えてくる。マスターはここで待っていてくれ」
そう言ってシルフィードは向こうの軍を先導するためにまた飛んで行った。
俺の精神の事もそうだが、他の人達だって戦争を終わらせるために急いでいたのだから休息は必要不可欠だ。
「それでは騎士を入れ替えながら全員休みましょう。最後の拠点から物資が送られてくる可能性もありますし、敵の鎧とか着ておきます?」
「そこまで擬態する必要はないかと。それに物資を運んできたのは最近のようですし、敵の物資で少し豪華にしませんか」
「何があります?」
「いつもより新鮮そうな干し肉とチーズですね。あとワインが大量にあります」
「……ちょっと野菜食べたくなってきた」
「そうですね。干し肉と硬いパン、チーズ以外の物もそろそろ口に入れたいです」
精神状態が元に戻ったからか少し弱音が出た。
でもゴルドーは俺の言葉に共感してくれたのはちょっと嬉しかった。




