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未来への投資

 次の日から彼らを徹底的に鍛える事にした。

 まずは――


「魔力量を増やす事から始める。召喚士は基本的に召喚するために魔力を消費する。魔力量が多くなれば強い精霊とかも召喚しやすくなるからな」

「はい!」

「出来るだけ早く魔力を回せ。最初のうちは集中力が必要だろうがそのうち自然と回せるようになるし、早く回せばそれだけ魔力量が増やしやすくなる。とりあえず魔力量100は平気で使えるようになろうか」

「100!?」


 召喚するために必要な魔力量の確保。

 その後は――


「えっとこれは?」

「勉強。目的の存在を召喚したかったら魔方陣に正しい文字を書かなければならない。だからしっかりと文字を学べ。あ、そこ誤字で読めなくなってる」

「え、どこです?」


 そして勉強。

 表向きの理由として魔方陣に正しい文字を書くためと言っているが、本当の目的は違う。


 簡単に言えば俺は教師が欲しい。

 領内で文字と簡単な計算が出来る程度でいいので教師になれる人材が欲しいのだ。

 そうすれば領内で学校、とはいかなくても寺子屋みたいな文字と計算くらいは出来るようにすれば上等。

 別に大学みたいな頭のいい連中を育成するつもりはない。読み書きが出来ればそれでいい。

 なんせ目的がリリアのカード仲間を増やす事だからな。


 そんな感じでまずは魔力量を増やす事と、文字の読み書きをとにかく練習させている。

 読み書きに関してはよく分かっていないようだが彼らの得になる事だから真面目に勉強するし、まずは絵本を正しく音読する。その次に子供向けの小説を読むと少しずつレベルを上げていく。

 文字の形態は英語に似ているので単語その物に意味はない。

 そして単語の組み合わせで言葉を作るので同音異義語が非常に少ないからほぼ暗記すればできなくはない。

 元日本人の俺としてはいまだに違和感はあるが、文字の上では結構慣れた。


「で、サロンに来ても勉強会ですか」


 エムリアール嬢が最近の俺の様子を見てまた声をかけてきた。


「ええ、俺の見てないところではどれだけ休んでもいいですが、俺の前ではしっかり勉強させます」

「召喚士として大成させると聞いていましたが」

「魔方陣に正しい文字を書けなければ何が出てくるか分かりません。そう言った事故を防ぐためでもありますよ」


 それっぽい事を言って本当の目的ははぐらかす。

 隠すような事でもないと思うけど。


「…………そう。それよりほかの王子達の動向は探ってる?」

「いえ全然。彼らの育成の方が大切なので」

「はぁ。本当にあなたといると貴族として非常識すぎ。この国の未来を決める事ですのに」

「それも分かりますが……情報のほとんどは妻が持っていますので」

「ノア姫様の負担を減らすためにも自力で情報を得なさい。何やら最近第二王子が怪しい事をしているそうよ」

「怪しい事?殿下暗殺?」

「滅多な事を言わない。ありえないとは言えないけど」

「ですが王位継承権第二位なのであればそういった準備も当然では?本気で打ち取ってでも手に入れようと考えているのであれば」

「今の所はあなたが抑止力になっているようなので問題ない。一部の者達は殿下を狙うとなったらまずあなたを暗殺するべきだという声を聞こえてくるから」

「……え、俺?」

「当然でしょう。今殿下の最大の戦力はあなた。強力な精霊を2体従えている。それだけで警戒対象なのよ」

「ぶっちゃけ妹の婚約者だから気にかけているだけですが」

「それが十分大きな抑止力となっているの。もし殿下を襲おうとしたら精霊が間に入って守った、というシナリオくらい容易に想像できるでしょ」

「なるほど、納得しました」


 随分俺と殿下の仲は深いと勘違いされているらしい。

 というかそのシナリオ――


「しかしその話、この間の魔物騒動と話が似ているような……」

「その通り。あの時はリリア様がいたからその場にシルフィード様もいたのは知っているけど、それでもあの力を持った者に守られていると考えれば、まずあなたを殿下から引き離す事から始めるでしょうね」

「その辺は普通に暗殺すればいいような気がしますけどね」

「本当に王族への敬意が欠けているわね」

「もう少し俺好みの政策をしてくれるのであればもっと強力的になりますよ。ですが現状変えたい事の方が多いので」


 今面倒を見ている連中も含めて変えたい事は多くある。

 まずは教育、識字率のアップは本当に課題だと思っている。


「アレックス様。これでいいでしょうか?」

「おう。ちょっと見せて」


 最近は文字を読みながら移すだけではなく、自分で考えた文章を書けるかどうか教育している。

 貴族なのだから手紙を書く機会もあるだろうし、自分で考えた文章を書けるようになれば文字はほとんど学んだと言ってもいいだろう。

 で、今回練習させているのは日記。

 この日何があったのか、どんな事があったのか書かせている。

 最低1ページという基準を設けて描かせた結果は――


「君はこことここが誤字だね。君は……文章が間違ってる、でも単語のミスはなし。君は……合格、花丸をやろう」


 眼鏡だけ合格だったが、他の2人もだいぶミスが少なくなってきた。

 文法を覚えるのが得意、単語を覚えるのが得意と個性は出ているが確かに成長している。

 眼鏡に関してはずいぶん努力しているようで成長速度が早い。


「随分成長してきたじゃん。この調子なら文字の授業はもうすぐ卒業できるかもな」


 難しい単語に関してはまだだろうが、一般生活を送るうえでは十分と言える。


「……本当に熱心ね。召喚士の仲間を増やして彼らを魔法師団にでも入れるつもりなの?」

「いいえ、そういうのは戦える連中に任せます。彼らには未来を任せようかと」

「未来?いったいどんな?」


 まぁこれは真似されても問題ないし、まだ商売にするつもりはない。


「彼らにはここを卒業した後にうちの領地で教師をしてもらおうと考えています」


 俺の言葉に眼鏡達は驚いていた。

 そんな彼らの反応は無視して続ける。


「教師と言ってもここにいる教師のように国の歴史などではなく文字の読み書き、簡単な計算方法を教える側になってもらいます」

「それはあなたの子供に、という事?」

「いいえ、領民にです。彼らは領民の教師になってもらいます」

「……領民のほとんどは文字が読めなくても生きていけると考えている方が多くいる。そんな彼らが金を払って教育を施すとは思えないけれど」

「あ、領民から金はとりませんよ」

「何ですって」


 ありえないという雰囲気を出しながら否定するがこの辺はこちらで考えがある。


「これはあくまでも未来への投資です。文字の読み書き、簡単でも計算が出来るようになれば商人になったり、冒険者ギルドなど様々な生産に結び付ける事が出来ます。エムリアール嬢の所にいる模写を専門職としている方々だって読み書きができる事が前提で雇っていると聞いています。それだけ読み書きができるだけで経済を支える大きな柱となるとなる事は明確。ならば料金取らずに将来働いた時に税として領地に納めてもらう、この方が賢いと思いますがいかがでしょう?」


 あまりにも長期的なプランにエムリアール嬢は口を開けたまま背もたれに寄りかかった。

 そして金がかからないと領民達が知れば好奇心で覗いてくる者達もいるだろう。

 更に勉学に励みたいという物たちが出てきたら、その時は有料で授業を受けさせる塾の様な物を生み出せばいい。

 あくまでもこれは社会基盤の政策だ。

 文字の読み書きが出来れば彼らも職業の選択肢が増えるし、領内で商売をしてくれるのであれば税として納めてもらう。

 領民達から見て金を取られているという実感が沸かなければ反対する者も少ないだろう。


「…………あなたの計画は非常に長期的な物が多いわね。これまでの常識を疑いたくなる」

「誉め言葉として受け取らせてもらいますよ。ですが力のない存在が狙われるのは世の常、なので彼らには同時に召喚士としても強くなってもらいます。文字を習いたいと思う大人のもいるかもしれませんが、出来る限り子供に来て欲しいと思っていますので、子供を狙った人攫いなどから守るためにも彼らには強くなってもらわなければならない。あ、もちろん給料は出しますよ」

「……未来を任せるとはそういう事ね。ええ、確かに実現できれば大きな未来になるでしょう。辺境伯はこの事に賛同しているのですか?」

「これは国が全体の識字率を上げるつもりがないと判断した時にやろうと考えていたのでまだです。ですが面白い試みだと興味は持っていただけるかと」

「ええそうね。今まで民衆に文字の読み書きを教えようとする領主はいなかったもの。あなたが領主になったら実行する気?」

「もちろん。そこから優秀な者が現れるかもしれませんから」


 全員が全員こいつらみたいに勤勉だとは思わない。

 でも学びたくても学べない環境だけは潰しておくべきだと思っている。

 これは日本人だったからこその感覚かもしれないな。

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