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コピー機が欲しい令嬢

 学校生活初日と2日目を大々的に失敗し、3日目から俺は距離を置かれる存在となった。

 平然と自分よりも地位の高い存在にも勝ちに行く、その姿は貴族社会では異端であり非常に怖い者のように扱われる。

 なのでクラスでは軽い挨拶をする程度で交流らしい交流はほとんどない。

 授業も一応あるが家庭教師に教えてもらった事の復習がほとんどだし、それから国の歴史ばかり勉強している。


 あと殿下の従者は普通にクラスにいる。

 俺にぼろ負けしたが特に噂のようになっていないのは情報規制でもあったのだろうか?それとも口に出し辛い事で誰もが自主的に黙っているだけなのか、その真偽は分からない。


 だが俺にとっては非常にいい環境だ。

 元々そんなにおしゃべりではないし、情報戦はあまり得意ではない。

 そういうのはノアに任せっきりだったからな……次作る魔道具は掃除機と洗濯機、他には何が良いだろうか?

 出来ればリリアのカード事業に貢献できる魔道具が良いが……そればっかり作るのもな……


「アレックス様。少々目立ち過ぎではないでしょうか」


 ぼんやりと外を眺めながら考えているとエムリアール侯爵令嬢が声をかけてきた。


「エムリアール侯爵令嬢。どうかしましたか?」

「どうかも何も、あなた目立ち過ぎている自覚はおありですか?」

「まぁ悪目立ちしている自覚はありますが、しかしなぜあなたが気にかけるのです?」


 そこだけが分からない。

 こういう時貴族なら近付かないのが利口なはずなのに何故近付いてくる?

 一体こいつは何を望んでいるのだろうか?


「……ついてきてください。そこで話しましょう」


 そう言うので仕方なくついて行く。

 不意打ちとかで消されたくないからブレイドには警戒してもらう。


 ほんの少し歩いて別の教室に入ると、教室ではなくなんか広いどこかの店のような感じ。

 エムリアール嬢と俺が入ると俺に強い視線を向けられる。敵意と言うよりは警戒心、好奇心が強いように感じる。

 その中で最も日当たりのいいソファーに座ったので対面するように座ってから言う。


「ノアに浮気だと思われたくないから手短に頼む」


 何て言うと大きなため息をついた後だらしなくクッションに寄りかかった。


「全く。あなたはノア姫様の事しか頭にないんですの?」


 そう言いながらピーナッツの入ったガラス製の器から適当に掴んで口に入れる。

 ポリポリと食べた後にはっきりと言った。


「あなたが作っている魔道具や道具、それらの販売を止められては困りますの。だから殿下との関係を改善してください」

「……はぁ。お買い上げありがとうございます」


 そんな事かと思った。

 こうして直接購入者の声を聴く機会が来るとは思ってなかった。


「ちなみに止められて困るって言うのはタイプライターの事でいいんだよな?」

「当然じゃありませんか。あのおかげで資料を製作する時間がかなり短縮出来ましたし、人によっては読めないくらい汚い字がなくなりましたもの。あれが壊れて買い替える事が出来なくなって昔に戻るかと思うと……あの汚い文字と格闘しなければならない過去に戻るのはうんざりしますので」

「なるほど。ちなみに他に困っている事はありませんか?作れそうなら商品に反映したいので」

「……あなた貴族としてふるまうよりも商人としてふるまう方が気が楽なのかしら?でも無理よ。魔道具であってもそう簡単には出来ないわ」

「内容をお聞かせください。聞かなければ商品を作れませんから」

「……自動的に模写する魔道具は作れないかしら」

「模写ですか?それは絵を?それとも文字だけでしょうか」

「資料よ。エムリアール家は司法に関する仕事をしてきたの。だから資料を大量に使うし、会議の場で用意するだけでもかなり時間を使う。その分人件費もかさむ。おかげで節約したいのであれば1つの資料を読み回ししろって状況なの。さすがにこれは――」

「複写機は今開発中です。ある程度形になりましたが非常に巨大なのとA4サイズよりも小さい物はコピー、じゃなかった。複写した場合ぼやけた印刷になってしまうのでまだ実験段階ですが――」

「それはいくら」


 さっきまで横になっていたとは思えないスピードで俺の前に現れ肩を掴んできた。

 しかも目は血走っており何なら爪が肩に食い込んでいる。


「痛い痛い!落ち着いてください!!」

「開発中と申しましたわね!!一体いつ発売予定ですの!!」

「まだ実験中で販売予定はありません!!だって1つ印刷するのに1分も時間かかりますし、連続で同じものは印刷できても別な物は印刷できません。つまり他の物を印刷するためには一々オリジナルの用紙を取り換えないといけないんですよ。何より大き過ぎて置き場も――」

「十分です!!今すぐ売りなさい!!」

「どうせ後から不満言われるようなもん売れるか!!せめてほかの資料も一緒に印刷できるようになるまで売らんぞ!!」

「我が家にはすぐにでも欲しい魔道具なんです!!侯爵の命令が聞けませんか!!」

「お偉いさんに売るから半端なもんは売れないの!!そっちだって適当なもん売りつけられたくないだろ!!」

「半端でも何でも使わせなさい!!こっちは早急に必要なのよ!!」

「あーもう!!それならちょっと待て!!折衷案せっちゅうあん考えるから!!」


 そう言いながら引きはがす。

 さてこう言うとき大抵ノアに来てもらってたから上手くいくか分からないな……

 色々運搬とか細かい資料とかないし、とりあえずこちらから提示できるのはこんな感じか?


「……まず初めにやっぱり販売は無理。中途半端な物を渡してケガさせたりしたらこっちの評判が落ちる。そうならないようにするには、共同実験っという形で貸し出すしかない」

「貸し出し?いただけないの?」

「プレゼントする訳ねぇだろ。あれ結構高い素材使っちゃってたりするから高級品なんだぞ。今最低限の機能は出来たからここから低コストの素材で代用できないかどうか確かめてる所。全くまさか魔道具作りの基礎が基盤づくりなんて誰が想像するかよ。マジで専門職じゃねぇか」

「アレックス・ヘキサグラム?」

「ああすまん。心の声がこぼれた。とにかく今の所高い素材を使って作れるかどうかの実験をしているところだからプレゼントはしない。販売するにも低コストで高品質の物を作ってくれる業者とか探してるし、販売までまだまだ時間がかかると思う。それにいつどんなタイミングで故障したりおかしな動作を起こすか分からないから騙し騙し使うような形になる。なのでこちらから提案できるのは共同研究と言う肩書きだ」

「共同研究?流石に魔道具を共に作れる人材をすぐに用意する事は出来ないわよ」

「そうじゃない。頼むのは現段階でも使用した感想や改善点、欲しい機能などそう言った事を細かく報告してほしいって感じだ。あと初めてだから色々実験してみて欲しい」

「もう少し具体的に。実験とはどのような形ですればいいの」

「別にかしこまった使い方だけじゃなくて思いついた物全てを実際に印刷するだけでもいい。今言った資料の印刷だけじゃなくてもっと他の何かを印刷してみるとか、適当に目についたものを印刷できるか確かめてみるとか、そういうことをして細かく報告してほしい。そういう事が出来るなら貸し出しと言う形で使わせてやる」


 俺がそう言うとエムリアール嬢は少し考えながら口に出す。


「つまり私達の方で動作試験をしろと。その間何が起こるのか分からない危険性を含んだ状態なら貸し出すと」

「そうなるね。あとそれからきちんと書簡にまとめたいから納得できるならこのまま家に来い。こういうのはしっかりと書類の上でまとめておかないといけない。そっちには執事とかいないのか?」

「屋敷の方にいます。何ならお父様とその執事を用意します」

「その方が良い。こっちも当主が直接話を聞いてくれる方が後で行き違いなどが起きないだろうからな。それに問題は運搬だ。うちの領地で作ってるからそのまま運ぶとしたらかなり手間何で時間もかかる。それくらいは了承してくれよ。あと絶対にパクんな」

「パクとは何です?」

「模倣、真似っこ、そのまま丸写して同じ製品作るなって事」

「なるほど、技術の保護という事ね。分かったわ、その事もしっかりと記載させていただきます」

「後は……ノアと話してくれ。俺は名ばかり社長で細かい事はノアに任せてるんだ」

「ここでノア姫が出てきますか。分かりました、すぐ屋敷に戻りお父様を引きずってでもお邪魔させていただきます」

「お~う。それじゃとりあえず解散。すぐに来いよ」

「ええ、有意義な時間でした。何かあったら後ろ盾になってあげてもよろしいですわよ」

「コピー機で大袈裟。それにまだ信用していない」

「……なるほど。警戒心に関してはそれなりに張っているという訳ですね。そういう事なら行動で示させていただきましょう」


 こうして仕事が一本向こうからやって来た。

 それにしても試験運用を侯爵家に任せるってぶちゃけどうなんだろう?

 また危ない橋を渡っている気がする。

 とりあえず帰ってノアに伝えないと。

 それにしても想像以上にコピー機欲してたな。何でだ??

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