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リリア、カード産業のために覚悟を決める

 再び冬前の秋。

 冬支度を領全体で行っている最中に何故か俺とリリア、ノアも両親に呼び出された。


「どうしましたお父様?」

「……これを見て欲しい」


 両親の目の前には何かの資料が多く重なっており、巨大なビルがいくつも建造されていた。


「何ですかこの資料の山?」

「資料ではない。見合いの申し込みだ、リリアの」


 その言葉に俺とノアはリリアに顔を向ける。

 リリアは目をぱちくりして何で私?みたいな顔をしている。

 というか――


「これマジで全部リリア宛の見合いの申し込みですか?」

「そうだ。この前の社交界でリリアと婚約したいという要望が多くてな、大抵秋に送られてくるが……ここまでとは」


 とりあえず見合い資料?を見てみるとどこそこ家の長男とか次男とか、自分の領地はこういう事をしている、自分の領地はこれが名産みたいなものまで書かれている。

 もちろん本人がどれだけ優秀なのかも書いてあるが……一緒に添付されてる自画像並みに信憑性がないな。

 この世界に写真はないからどうしても絵描きに描かせるしかない。

 だがそうなると加工モリモリの合成写真並みに信憑性がない。

 これ大真面目に探偵とか必須な案件じゃない?


「何と言うか……色々書いてアピールしているのは分かりますが信憑性がない気が……」

「そういうな。もちろん数が少なければちゃんと調査する。しかしこれ全てとなると費用もかさむ。だからまずはリリアの意見を聞きたいのと……ノア姫様にご相談が」

「ノアで構いませんお義父様。それでお聞きしたい事とは?」

「……殿下の事だ」


 そう言って資料を渡してくる。

 え、まさかこのパターンって。


「拝見します。…………お兄様、自分がどれだけ愚かな行為をしているのか分かっているのでしょうか」

「ノア、やっぱりそれ……」

「ええ。お兄様からリリアへの求婚です」


 ノアは呆れながら資料を見始めた。

 普通なら地位の高い貴族と婚約をしてそのまま結婚する。それこそ貴族の中では一番偉い連中の中からだ。

 それに後から知ったが実は毎年この年はこの家、来年はこの家と決まっているらしい。

 少しでも貴族内での権力闘争を分散するのと貴族と仲良くしているとアピールするため。

 だから順当に行けば殿下と結婚するのはどっかのお偉い家の人であり、我が家は候補にすら入らないはず。

 それを無視して無理矢理入れたとしても、そうでなかったとしても問題は生まれる。


 それこそノアと俺の婚約だ。

 もう既にノアと言う王家の血筋を取り込んだのにリリアを王家に入れさせた場合、地位向上を結婚という形で行おうと考えられる可能性が高い。

 俺達にそんな意思はなくてもそう思われる状況が非常に不味い。


 だってそんなことしたら貴族の権力闘争に自分から首を突っ込むという事だ。

 腹の探り合いが当然で面の分厚さが勝負を決めると言ってもいい。そこに自ら身を投げるのは素直に怖い。

 何よりリリアにそんな事が出来るのか?

 腹の探り合いなんてできんの??相手に自分の印象を操作させるような難しそうな事できんの??


 だが相手は王族。断った場合どうなるか分からん。

 会社で例えるなら社長が命令して来たのに平社員が断れるわけがない。

 貴族という地位は高いが、貴族という枠組みの中で見れば平社員と変わらない。

 これをかわすとすれば一体どうすれば……


「随分ギリギリの所を攻めるわね」

「何がギリギリなんだ?」

「ここ読んで。正室じゃなくて側室として招きたいって書いてある」


 よく読んでみると確かにそう書いてある。

 つまり正室はどっかの偉い貴族の娘でリリアは2番目3番目か。

 確かにそれが妥当なところだろうがこちらの気分よくないし、ずいぶん我が儘言ってきたなって感じ。


「全く殿下ったらこんな失礼な頼みをよく書けたわね」

「殿下って女好きだったりする?」

「全然。むしろ王家の血が欲しいというだけで寄ってくる女を嫌ってたくらい。でもこうして話を出してきたって事はそれだけ本気かもしれないという意思表示かも知れないけど」

「ちなみに今回殿下と結婚しそうな相手って誰?」

「確か……ヴィーナ家の長女、クロエス・ヴィーナさんだったはず」

「評判は」

「私の耳に入っていた頃は悪い人ではなかった。今はそういう情報を仕入れてないから何とも言えないけど、以前お会いした際には落ち着いたというよりは気の小さい人、という印象だったわ」

「それじゃリリアが正妻にイジメられる事はない?」

「それは何とも。そもそもリリアが王家に入りたいかどうか、まずはそこからだから」


 あくまでもリリアの意思を尊重する。

 俺も尊重したいが仮に王家に嫁入りするとして情報戦と腹黒戦が当たり前の場所で本当に生きていけるのだろうか。

 そんな不安の中リリアは殿下の資料をじっと見る。


「ねぇお兄様。王族って偉いよね?」

「ん?そりゃな」

「王族って偉いから色々出来るんだよね?」

「そりゃそうだろう」


 一体何が聞きたいんだろう?

 なんて思っているとリリアはとんでもない事を言い出した。


「私、王家に行けばカード事業本気で作れるかな?」


 まさかの決断に俺達はマジで驚いた。


「え、ちょ、マジか?マジで王家に嫁ぐ気??」

「うん。王家の財力と権力があれば難しい魔道具でも開発できるよね」

「その可能性は確かに高まるかもしれないが……」

「それに識字率。こればっかりは王家の協力がないと絶対に成功しない。国中文字が読める人ばっかりになればカードだって使える。読めないから要らないはなくなる」

「…………」

「お兄様。やっぱり私本気でカードを作って本気で普及したい。お兄様はそんな私の事を凄いって言ってくれたし、その期待に応えたい。夢を叶えるために婚約する」


 その目は俺には出来ない本気の表情が見えた。

 これ以上は無粋。そして何が何でも達成するという強い意志。

 俺の方が精神年齢倍以上あるだろうにリリアの方が大人だ。

 だからこそノアに確認する。


「ノア。王室に入ればリリアの夢は叶うと思うか」

「……確かに識字率の普及とかは国規模で動かないとダメ。領地内限定でやっても良いと思うけど……」

「私は国中に普及したい」

「って考えている以上領地内限定じゃダメね。それにアレックス様が言っていたように紙やインク、そして複写機と1つの領地だけじゃこの事業は無理。どうしても他の領地との連携が必要になる。そういう意味では確かに王族の力を借りるのが一番早いでしょうね。でもこの領地内で出来ない訳でもない。王家の権力がない分遅いでしょうけど」

「リリアはどうなるのが目標だ」

「私が大人の内に普及したい。そのためならなんだって頑張るよ」

「王族になったら仕事も領地経営よりももっと大変な可能性が高い。それでもやるのか」

「やる」


 リリアの強い意志を確認したから俺はこれ以上は言わない。

 王家の血筋に関しては……こっちが尻拭いをすればいいだろう。

 父親とかにも迷惑はかけるけどな。


「お父様、どうします?」

「し、しかしだな。側室とはいえノア姫が我が家に嫁入りしたのにリリアを王室に入れるのは――」

「他の貴族の反発を買う。それはもう俺がありとあらゆる手を使って叩き潰してやりますよ。ぶっちゃけその時は俺の力であるスピリット軍団で脅したってかまいません。リリアの夢を応援します」

「それは本当に最終手段にしてくれ。品格にも関わる。そしてリリア、まずは見合いからだ。そこで殿下に気に入られて見せろ」

「分かりました。そしてノアお姉さま、私に王室のマナーや必要な物を教えてください。ちゃんと勉強しますから全部教えてください」

「分かったわ。まずはお見合いに向けてマナーと所作を徹底的に叩き込んであげる。ただし厳しくいくわよ」

「お願いします」


 こうしてリリアの見合いは前向きに行く方向に決まった。

 周りの貴族に関しては王族の方から見合いをセッティングされたから断れなかったと言っておけばいいだろう。

 もしダメだった場合は……いや、こんな考え方はダメか。

 リリアが今回の見合いで殿下の心を仕留められるよう手助けしないとな。

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