婚約決まりました
メイドに通された場所は去年も来た庭園。
そこには料理がてんこ盛りに盛られている。
「お、美味そうじゃん」
「アレックス。我々は招かれたのだからすぐに料理に手を付けようとするな」
「姫様より先にお食事を始めていてよろしいと仰せつかっております」
父親の制止をメイドがぶった切った。
許可が下りたので俺は料理を取ってテーブルの上に置く。
リリアは菓子を選んで取っている。
「マスター……私もよろしいだろうか?」
「いんじゃない?」
シルフィードが羨ましそうに言うので許可を出す。
すぐに嬉しそうな表情で様々な菓子を皿に取る。
クッキーだけなくケーキとかも取っているから甘党なんだな。
そうしてのん気に食事や菓子を楽しんでいるのは子供だけで両親は静かに紅茶を飲んで時間を潰す。
思っていたよりも時間はかからず女の子とその家族が姿を現した。
「お久しぶりですアレックス様」
「お久しぶりです。何とお呼びすればよいでしょうか?」
「ふふ、ノアとお呼びください。この度はご相談のために席を用意させていただきました」
そう言ってお互いの家族は相談のために向かい合う。
陛下と王妃は俺の事を品定めする視線を向ける。
「陛下、この度は――」
「よい。ここには我々しかいない。文字通り腹を割って話そうではないか」
そう言って陛下は俺の事しっかりと睨んだ。
そして俺に聞いてくる。
「それで、貴様はノアの何だ?」
「俺は友人だと思っています」
「おい!!」
平然と飯を食いながら言う様子に父親は小さな声で注意するが陛下はそれを止めた。
「よい。ノアにとって初めての友人だ。これくらいの事は目をつむろう。しかしノアと文通をしておきながらただの友人、とは言わぬよな」
「俺にとっては貴重な友人です。何せ貴族社会に友達と呼べる存在はおりませんから。俺にとっては特別ですよ」
「……そうか。それではノアを妻にしたいという気持ちはあるか」
「ありません」
そのハッキリとした否定に陛下も王妃も意外そうに顔色を変える。
「何故はっきりと言える。親バカと思われるかもしれないが他の貴族の娘達よりも整っていると思っている。それでも気持ちはないと」
「う~ん。そりゃお綺麗だとは思いますよ、でも結婚したいかどうか決めるのは姫様のご意志ですよね?そりゃ王族と貴族の関係について気を付けなければならない事はあると思いますが、俺自身は早過ぎると感じていますので特に……」
「早いとは具体的に何が早いのか申してみよ」
「だって俺、金ありませんもん」
その言葉に時間が止まった。
俺にとっては全うな理由だが、陛下や両親にとっては的外れな意見に聞こえたようだ。
「アレックス。我が家に金がないという気か?」
「違いますよお父様。確かに家に金はありますが、その中に俺が稼いだ金はないっという意味です。嫁を貰うという事は養う責任が発生するという意味です。金もないのに嫁にもらうなんて無責任な事は出来ないでしょう」
つまり金銭的な問題だと俺は言った。
子供が言うには確かに違和感のある答えかも知れないが、それでも一度大人の一歩手前まで生きていたのだからそれくらいは分かる。
養えない奴が無責任に結婚なんてするもんじゃない。
これは前世からの教訓というか、父ちゃん母ちゃんに言われてたことが身に染みているだけかもしれないが。
なんてはっきり否定すると笑いを無理矢理堪える声が聞こえてきた。
その声の主はノア姫。
結局耐えきれなくて思いっきり笑い始めた。
「あはははは!!父上!!これが!彼がアレックス様と言う人です!!変わっているでしょう?」
「う、うむ。ずいぶん変わっているな……」
「アレックス様。これからは依然会った時と同じ話し方をしていただけますか?その方がきっと父上にも伝わります」
「あ、そうなの?そんじゃ素で話すわ」
そう言いながらのん気に飯を食う。
そんなノア姫は俺の隣に座って腕を組む。
「それで、お前のご両親に俺を合わせて何がしたい訳?」
「さっきも申し上げた通りあるご相談に乗っていただきたくてこちらに呼びさせていただきました」
「また出来の良すぎる兄ちゃんと比べて愚痴りたくなった?」
「いいえ、手紙にも申し上げたようにそちらは吹っ切れました。今回の相談は恋愛相談です」
「恋愛?俺恋した事ないから相談に乗れないぞ」
「そうなのですか?一度も恋をした事がないと?」
「ないな……」
前世も今も恋をした事がない。
可愛いな~っとか、綺麗だな~っと思った女の人はいたが恋をした事があるかと聞かれると……ない。
というか可愛い綺麗もよく分かってない可能性が高い。
なんせ昔から周りがそういうから可愛いんだろう、周りがそう言ってるから綺麗なんだろうって感じで周りに合わせてきただけだ。
綺麗だ何だと感じるのは基本的に自然の風景とかばかりで、人に対しては全然そんな感情が湧いた事がない。
だから余計にアニメとかマンガにハマって言ったんだろうな……
「それでは私の事はどう見えますか?」
「お前は……綺麗だと思うぞ。大人っぽくて」
「あ、これ本当に自分がそう思ったとかじゃなくて周りの反応からそう判断しているだけですね。ちょっと悔しいです」
と本当に残念がっている。
「何と言うか……ごめん」
「謝られると余計にみじめな思いになるので止めてください……それでご相談なのですが」
「落ち込みながら恋愛相談はするのな」
「もちろん今回お呼びした理由ですから。アレックス・ヘキサグラム様、わたくしと婚約していただけませんか?」
……………………
ある程度予想していたが、本当に言われるとも思ってなかったな。
「どうしますお父様」
「お前自身の気持ちも重要だろう。どう考えている」
「どうって……うち辺境ですよ?田舎暮らしに耐えられるのなら別にいいんじゃない?っとしか言いようがありません。あと浮気しなければあとは別にいいです」
貴族のしきたりやら何たらを省けばそんなもんだ。
田舎に嫁入りしてくれて、あと浮気しなければそれでいい。
愛だの恋だのは後からでも別にいいだろう。
「…………陛下、王妃様。このような息子で申し訳ありません」
ついに母親が謝った。
そんなに失礼なこと言ったかな?
「いいのよアーシェ。ただその、本当にその子11歳?年不相応な考え方というか、大人びてない?」
「それはその、この子がかなり特殊で何とも……」
王妃と母親は親しいのか意外と自然な雰囲気で話す。
辺境に来る前は王妃と距離が近い関係だったのだろうか?
「それに王家の血筋とか、権力などを一切求めてないところは好感を感じます。大抵は王家の血を取り入れる事と、権力が手に入ると考えて行動する方の方が多いですから。そういう意味での下心がない事は信用に値します」
「それだけはこの子は全然ありません。本当に権力にはまるで興味がない子でして……」
「権力は要らん。金があればいい」
腹芸という物を全くせずに言うと両親は呆れた。
だが陛下は何故か興味深そうに言う。
「何故権力は要らないと言える。特権階級の貴族の出でありながら」
「だって権力はなくても生きていけるけど、金は人間社会で生きる上で必須だ。金はありとあらゆる交換券だ。家も食料も何でも交換する事が出来る。だから金の要らない生活をするとしたら獣と同じ生き方をしなければならなくなる。それはごめんだ」
陛下の前で権力いらねぇっというのは失礼なのだろうか?
言い終わった後にそう考えたが、何故か陛下は真剣に考えるようなそぶりを見せる。
自分とは全く違う価値観に興味でも引いたのだろうか?
「なるほど。それで金はいるが権力は要らないと。分かった」
なんか勝手に納得すると陛下は父親と顔を合わせて聞く。
「アレックスなら問題なさそうだ。バシレウス。正式に貴様の息子、アレックスと我が娘、ノアを婚約したい」
ありゃりゃ、陛下から許可下りちゃったよ。
それで父親はどうするのか……
ん?何で俺を見る??
「お前はそれでいいんだな」
「別に良いですよ。まぁ早いとは思いますが嫌いじゃないので」
こうして俺とノア姫の婚約が正式に決まった。
でも11歳で婚約か……やっぱ早くない?




