リリアの社交界デビュー。そして再会
「……リリアの社交界デビュー、本来はこれだけで済む問題だが……」
父親は重苦しい雰囲気を出しながら俺を見る。
この緊張感に母親とリリアも俺に視線を送る。
「アレックスの文通相手がノア様かどうか判明する日でもある」
それはもし判明したらどうなるか分からないブラックボックス。
開けてみたら不敬罪か、あるいはおとがめなしなのか、その日が来るまで分からない。
まぁその日は明日なんだけど。
もう既に去年同様に事前に王都に入り準備をしている。
で、約束通りリリアの社交界デビューであり、ノア姫のお披露目会でもある。
これで本当に俺の文通相手がノア姫かどうか判明するのだ。
もしノア姫だったらどうなるか?
こればっかりは王様の気分次第としか言いようがない。
この君主制度だと王様は本当に何をしても許される特権階級だし、気に入らないの理由で殺されても文句は言えない。
つまり王様の印象一つで生きるか死ぬかあっさりと決まる。
「…………ノア姫じゃないと良いな~」
父親が突然そんな事を言い出した。
もう泣きそうな顔で泣くのを必死に我慢している。
「陛下がノア姫の事を溺愛しているのは貴族の中では有名な話だ。そのノア姫が見ず知らずの男と文通をしていたと知られていたら……はっきり言ってどうなるか分からん!!」
「最悪俺死刑ですか?」
「いや、最悪一族皆殺しだ」
「そこまでですか!?」
「それくらい溺愛されているという事だ!!しかも今回ノア姫様は残念ながら贈り物を授かる事が出来なかったらしい。そのため他の有力な貴族達の庇護下に入れないかとお考えだと聞いている。その辺りはむしろお前の方がよく知っているのではないか?」
うん知ってる。
贈り物をもらえなかったから強い貴族に嫁入りして守ってもらおうかな?みたいな内容でした。
「さぁ?手紙の内容はお父様もご確認しているはずですが?」
「ふん。親を相手に下手な腹芸は止めろ。手紙の内容の方が私の耳に届くよりも詳しく、早く届いているのだからな」
「これでも当たり障りのない返事ばかりしていたんですけどね」
「なんにせよだ。明日判明し、必ず王族から何らかの接触が来るだろう。私達はその対応に一切の間違いを起こしてはならない!これは絶対にだ!!」
自分達の命がかかってたらそりゃ必死になるわな。
さて、あの女の子がノア姫なのか確認しに行きますか。
――
社交界当日。
その面子は意外にも知った顔が多かった。
「お父様。前よりも人、多くないですか?」
「当然ノア様のお披露目でもあるから前回も参加した子供も参加したんだろう。さらに言えば例の話だ。ノア様をあわよくば家に迎えたいと思っているに違いない」
「王家の血筋を入れるって俺は怖いですけどね。後々権力争いに巻き込まれそうで」
そういう責任が取れる家柄、大公か侯爵くらい地位がないとダメなんだろうな。
でないと責任とれないだろう。
なんて思いつつもまた顔を覚えてもらうための営業っと。
今日は家族全員で顔を覚えてもらうために動く。
リリアはやっぱりまだ他の男の子達に対して苦手意識があるからか腰が引けている。しかし貴族の令嬢としてマナーや言葉遣いはしっかりとしているので悪印象はないだろう。
むしろ好感度爆上がりか?
どこの誰だか分からない貴族の男子達が鼻の下を伸ばしている。
前回も思ったが少しくらい下心を隠せよ。
そんな下心丸出しだから婚約者決まんないんだぞ。
よく見てみると俺と同じくらいの男子でも女の子と一緒に行動している子がいる。
あれは多分婚約成功したんだろうな。
おめっとさん。
そんな様子を見ながら俺は色気よりも食い気。
腹減ってるから飯食うわ。
「お兄様……お兄様は婚約者作らないの?」
俺の前に座ったリリアが小さなケーキを食べながら言う。
「そんな積極的に作るつもりはないかな。そういうリリアこそモテモテなんだからより取り見取りだぞ」
「……あんなエッチな目で見てくるのヤダ」
「そりゃそうだろな……」
下心満載の目で見てくる奴なんて信用できないと言われたらそれまでだ。
「でもお兄様はそんな事してないし、女の子に人気でしょ?」
「その人気はお父様とお母様の息子だからってだけ。俺だって慎重に相手を選ばないといけない。金食い虫はお断りだ」
「お兄様も容赦ないね……」
特に容姿に自身がある訳ではないが両親の名は思っていた以上に大きい。
何をしたのかは知らないが国中に名がとどろく何かをしたのだろう。
だから結婚を前提に付きまとってくる連中のほとんどは両親と懇意になる事でメリットを得ようとしているのだろう。
だから俺への感情はほどほど、特に興味もない。
だがそれくらいビジネスパートナー的な方が楽かもしれない。
結婚というのは難しいな……
なんて思っていると前と似たようなタイミングで王族がご到着なさった。
王様と王妃様、殿下、そして……
「あちゃ~……」
「皆様初めまして、ノア・フォン・ディクト・ゼレンと申します」
去年会った女の子である。
去年よりも女性らしさとでも言えばいいだろうか。妹が可愛い感じに成長したとするなら、女の子は綺麗に成長していた。
身長は妹よりも高いし、胸とかも少しずつ膨らんているような感じ。
なのよりわかりやすい変化は顔だ。
凛々しさとでもいいのか女の子というよりは女性っぽい雰囲気に変わってきている。
ありゃ将来美人さんになるなと根拠のない自信を持って言える。
「アレックス、どうだ。その反応を見るに……」
「去年会った女の子です」
「やはりか……」
予想はしていたがそうであってほしくなかったと雰囲気で語っている。
我が家は悲壮感に包まれるが、他の貴族達は既に品定めをしている感じ。
同い年の子供達は……男子は美しさに見とれ、女子は嫉妬すら忘れて憧れているように見える。
こういうのをカリスマとでもいうのだろうか?姿を見せただけで相手を魅了するって見た目の良さだけで出来る芸当じゃないだろ。
なんて思いながら眺めていると、女の子は静かに視線を動かし何かを探しているように見える。
そして俺の姿を捕らえるとほんのわずかに目じりが垂れたように見える。
あ~……もしかして去年の約束を守っているかどうか俺の事を探してたな。
受付の人に聞けば俺が来たかどうかすぐ分かるだろうに。
そう思っていても挨拶をしなければならないのは変わらない訳で、とりあえず初めて会ったふりをして挨拶をしに行く。
これは両親とも決めている事で、他の貴族達の前で実は王族と会ってました~なんてことを知られたら何をされるか分からないからだ。
妬みや嫉妬、そういう事から根も葉もない噂を広げられるのも困る。
だから最初はお互い知らないふりをして挨拶をする。
「初めまして、ノア様。アレックス・ヘキサグラムと申します」
「ごきげんようアレックス・ヘキサグラム。これからも王族のために頑張ってください」
相手も事情を察してか他の貴族達にふるまっていたのと同じように簡単な言葉をかける。
それだけであっさりと終ったのは正直意外だ。
なんて思っていたらメイドが俺達の前で頭を下げた後に言う。
「ヘキサグラム家の皆様、こちらにどうぞ」
……どうやら人気のない所でしっかりと話したいっという事らしい。
マジで不敬罪になったりしないよな?




