洗濯機の試験運用開始
この世界の冬はどう過ごすのかと聞かれたら、大抵は家で大人しくすると言う声が帰ってくる。
農作業している人達も冬の間は作物を作れないので小物を作ったり編み物で生計を立てようとする、またある冒険者は夏の間にしっかり稼いで冬は何もしないなんて言う人も居る。
そして俺はというと――
「洗濯機5台、こうしてみると壮観だな」
「アレックス様。乾燥機に関してはどちらに置きましょう?」
「とりあえず反対側に置いておけばいいだろ」
屋敷に洗濯機を設置していた。
冬の間の本当にやりたくないキツイ仕事は?と聞かれればやはり水仕事だろう。
夏場は冷たい水に触れて涼しい~なんて思うかもしれないが、冬場は冷たいと言うよりも痛い。そんな中で俺や他の者の服を洗濯するのは仕事とはいえ普通に嫌だ。
本当は冬の前に設置したかったがちょっと改良というか、無理にある機能を付けようとするのを止めたらそれなら問題ないとあっさり完成した。
それが洗濯機と乾燥機。
本当は最初から洗濯と乾燥機能をまとめた物を作れないかとやってみたが、やはり難しいとの事だったので別々に作らせた。
どうにか脱水機能までは付けられたので洗濯が終わった後に乾燥機にぶち込めば湿気った日でも乾かせる。
特に冬場は雪のせいで外に干せないから重宝するだろう。
「とりあえずこれで設置良し。あとはメイド達に使用の感想を聞いて改良だな」
「アレックス様、これ本当に家で使っていいんですか?」
従業員の1人がそう確認を取ってくる。
「うん頼む。でもこれがまだ実験している品である事は忘れないでくれ。うちのメイドにも言ったがこれで服を洗っている間に服が破けたり、ボタンが取れたりしたら商品にならない。だから少しでも実験して、その可能性を徹底的に潰す。その実験のために従業員の家を借りているだけだ。気にしなくていい」
「いやこれ本当に助かります。妻も冬場の洗濯は本当に辛いと言っていたので」
「確か小さいお子さんが居るんだよな?かくれんぼとか好奇心で中に入ったりしないように見張っておいてくれよ」
よくある注意書きの1つだ。
選択中水がこぼれて外に出てきてはいけないので内側から開けられないようにしている。
だから子供がもし入って気付かなかったら恐ろしい事が起こる。
この事は販売する際にも注意していくつもりだ。
「承知しています。それで一般販売はいつ頃になるんですかね?」
「今の予想だと春を過ぎたくらいかな~?まぁ今回の実験次第だな」
結局安全に何千回も使える事を確認しなければ商品にならない。
なので従業員の家庭で実際に使って不具合の最終確認を行うのだ。
そんな感じでうちの屋敷、それから従業員達の家庭に協力してもらって徹底的に不具合を洗い出す。
設置が終わったので他の従業員達の家にも設置して今日の業務は終わりだ。
「後は王都の屋敷にも置きたいな。なんかスピリット召喚して持って行こうかな?」
冬場の水仕事は悪。
というか普段から世話になっているし、こういう製品が出来た時に優先して使わせて楽させたやりたい。
「まだ王都に戻るのは早過ぎるわよ」
そう言って俺の腕に捕まるのはノアだ。
何と言うかこの間のコミュニケーションでさらに距離が近づいた。
アバターバードのおかげか何というか、大丈夫っぽい。
でも慢心する訳にもいかないのでどうしたもんか。
というか本当に大丈夫なんだよな?
「どうしたのよ?私のお腹見て」
「いや、普通に大丈夫だよなと思って。子供」
「大丈夫よ。なんとなく分かる」
医者でも何でもない俺達に一体何が分かるんだか。
子供の体調が今一番分かるであろう存在もノアな訳で……どうしたもんかな。
「まぁ大丈夫ならいいか。でも慎重には行動する。それでいいよな?」
「それでいいと思う」
完全な禁欲なんてできない事は分かっているがそれでも子供の事を優先したいんだけどな。
でも……今のノアは非常に幸せそうでそういう事を言い出す事も出来ない。
気分を悪くするだけではなく、ただ単に水を差したくない。
それに理屈だけで行動できる訳じゃないし、ノアの方が自然なのかな?
「絶対守るからな」
何故か自然と出た言葉にノアは優しく微笑んでくれる。
「ありがとう」
そのまま屋敷に入って俺の部屋に一緒に戻ると、何故かリリアが見合い書類を前にアバター達と相談している。
「ねぇみんな、どの人が私と相性いいかな……」
真剣にペットに相談しているように見えるからなんかシュールだ。
それにアバター達も人間のいい悪いの基準が分からないのか首をかしげている。
全員よく分からないと首をかしげるばかり。
「なに相談してるんだよリリア」
「あ、お兄様お帰りなさい。洗濯機と乾燥機の設置終わったの?」
「一応な。あと王都の屋敷にも持って行こうと考えたところだ」
「あれ本当に手で洗わなくても綺麗になるの?」
「ある程度はな。現在選択気に合う洗剤を薬師ギルドに発注中だからそれが出来ればもっと綺麗に洗える。今は水洗いだから何とも言えないけど」
こればっかりは待つしかない。
彼らだって本来は風邪薬などを開発するのが仕事で石鹸をより高度にすると言う依頼を受けるのは初めてだろう。
俺だって大雑把に洗剤にアルカリと塩素と言う感じで別れており、それが服に使用する洗剤でも同じなのかどうかすらよく分かっていない。
ぶっちゃけ今の洗濯機は水洗いのみで洗剤も柔軟剤未開発なのだから待つ。
最初説明した時に石鹸そのまま洗濯機の中に入れるのか?なんて聞かれちゃったしな……
そんな使い方したらあっという間に石鹸無くなるぞ。
それに排水するときだって苦労した。
これから排水する際に川にそのまま捨てたら公害に発展するのは目に見えている。
天然由来の油とアルカリってやっぱそのまま流すわけにはいかないだろ。そもそもアルカリって何から抽出できたっけ?
「それじゃその洗濯用の石鹸が出来たらもっと綺麗になるの?」
「予定ではな。もし石鹸が溶けないようだったらお湯にして洗う方法も考えてる」
「お湯だと汚れ落ちるの?それとも石鹸が溶けやすいだけ?」
「理論的には両方効果ある。結局服に付いた汚れって皮脂、油だから溶かせば良くね?の理論だから」
「え~っと、確か油って火で溶けるんだっけ?」
料理とかしないからイメージし辛いか。
こればっかりは生活習慣かも知れないからな~、気付かないのも仕方ないかもしれん。
「そうだ。だから汚れをはがしやすくする石鹸とお湯で汚れを溶かす力を同時に使えばより早く汚れが落ちるって話だ」
「それも前世の知識?」
「そうだよ。といっても向こうの洗濯機もかなり進化して水洗いでもかなり汚れは落ちるからお湯で洗う必要ないんだけど」
前世の事を思い出しながら言うが次は何作るか……
個人的には冷蔵庫と冷凍庫を作りたい。
でもこれを悪用と言うか、軍事用に利用しようと思えばいくらでも出来る。
つまり冷凍保存による物流革命を起こそうと思えばできる。
保存食を作るという事をせずに食品を運ぶ事が出来る。
もしこれが実際にできたら軍事的にも利用できる冷蔵庫を作れと言われるのは目に見えている。
戦場を経験したからこそ生鮮食品の重要性やそれを運ぶ補給の重要性も知った。
俺が冷蔵庫を作ったらそれが一気に加速するのではないだろうか?
直接人を殺す道具ではないけれど、軍事転用できそうな技術の放出は避けるべきだからな……
「あなた?」
「……大した事じゃない。次は何を作るか考えてただけだ」
意外と軍事転用されない物という前提で考えると、難しいもんだな。




