クロエス様と勝負
シルフィードに頼んで久しぶりに会社の方に行く。
何でも洗濯機の試作機が完成したらしい。
「こちらがアレックス様のご指示で作った洗濯機、縦式と横式です」
ちなみに横式と言うのはドラム型の事。
一応作りやすさや性能などを比較してもらうためだ。
「それで、機能的にはどうだ?」
「機能だけを見るのであれば縦式の方が良いのではないかと予想されます。横式も悪くはないのですが、泥や草の汁などで実験した場合縦型の方がよく落ちるという事でしたので、いずれ一般向けに普及すると言うのであれば縦式の方が良いのではないかと思われます」
「それじゃ縦式を中心に開発しよう。一般的に普及するとなると、やっぱり農家とかそういう人達が特に使いたがるだろうからその方が良いだろう」
「ではそのようにいたします。横式に関してはいかがしましょう?」
「う~ん。そっちの方が生地の痛みは少ないんだっけ?」
「はい。そちらの方が生地の痛みは少なく柔らかい仕上がりになりやすいとの事です」
「ならそっちも研究続行。横式はもしかしたら貴族とか服屋に好まれるかもしれない。研究は続けてくれ」
「承知しました」
「そして石鹸の方はどうだ?」
「石鹸に関しましては薬剤ギルドの方が請け負ってくれるとの事です。洗濯機が売れればそちらにも収益が見込める事を強く主張したところ了承していただけました」
「それはいいがその石鹸を使って生地が傷んだりしないように注してくれ。あと水に溶け辛いと洗濯機の故障原因にもなるかもしれないから注意しておいてくれ」
「承知いたしました」
パンサーと話を終え、他の研究者や販売担当も一息ついた。
そしてパンサーに伝えておく。
「そうだパンサー、まだ未確定だがインクの入手が出来るかもしれない。入手できたら複写機に利用できるかどうか検討してほしい」
「ほう。我々も全力を尽くしましたが、見つからなかったインクを発見できたとは、さすがアレックス様です」
「いや、何度も言うがこれまだ仮の話だ。インクは入手できるようになったとしてもそれを複写機に利用できるだけの価格かどうかもまだ分からないんだ。あくまでももしかしたら、くらいの話だ」
「左様ですか。ちなみにどなたに頼んだのでしょう?」
「ヴィーナ家の令嬢、クロエス・ヴィーナ様だ」
「…………失礼。確認させていただきますが、もしかして殿下の婚約者様ですか?」
「その通りだ。リリアが仲良くしていた事が切っ掛けでな、本人も絵が好きらしい。それなら複写機に使えるインクはないか尋ねたところ取り寄せてみると言われた。実際そのインクの価格がいくらか分からないし、仮にこのまま白黒でも構わないと言われればそれまでだ。だが技術向上のためにも一応チャレンジくらいはしておいた方が良いかなと思ってな」
「左様でしたか。それだと確かに複写機に利用できるかどうかまだ分かりませんな。ですが今後の会社のため、期待してお待ちしております」
「あまり期待しすぎないでくれよ。プレッシャーが凄いんだから」
何て話しをして会社を後にした。
さて、その後の問題は全てのカードを寄こせと言ってきた事だ。
まぁ目的として絵の資料、あるいは見て楽しむためというのは分かるが、それでも強力な武器にもなるのだからそのまま渡す訳にはいかない。
ちょうどいい折衷案を見つけなければならないのが難しい所だ。
何て考えながら帰ると、なんか殿下とクロエス様が居た。
既に応接室に通されており、俺を待っていたらしい。
「どうかなさいました?」
「いえ、その……」
何やら用があるのはクロエス様の方らしい。となると殿下とアトラス達はついてきただけか?
何やら恥ずかしがって言えずにいるクロエス様に変わり殿下が言う。
「クロエスはアレックスに謝罪をしたいそうだ」
「謝罪?何かありましたっけ?」
「インクの件だ」
「ああ、全てのカードが欲しいと言ったあれですか」
そう確認するとクロエス様は何度も首を縦に振る。
そしてたどたどしい言い方でありながらも謝罪を言う。
「その、あの絵が贈り物である事を失念しておりました。贈り物を寄こせと言う大変傲慢な事を言ってしまった事を謝罪したく、参りました」
「いえ、あれは私がわざと欲を煽るような言い方をしたのもよくなかったのです。謝罪は受け入れますので頭を上げてください」
そう言うとクロエス様はほっとしたように息を吐き出す。
だがこれに苦言を言うのは殿下だった。
「アレックス。お前の力は非常に強力であり他の者では真似できないだろう。それをやすやすと与えると言うのは今後するな」
「…………」
「なんだ、その意外そうな顔は」
「いや本当に意外だったから。殿下がまともな事を言うなんていつぶりだ?」
「な!?」
殿下は怒り心頭と言う感じで顔を真っ赤にしたがはっきりと言う。
「だって俺と会う時は必ずリリアが居てそっちばっかり見てたからな。その時の殿下と言ったらもう」
オーバーリアクションを取るとムスッとしながら勢いよくソファーに座り直した。
今は客観的に自分がどうだったのかちゃんと把握できているようで何より。
「でもクロエス様、心情だけで言えばやっぱり欲しいんですよね」
「それは……はい」
「では勝負をしましょう」
「勝負、ですか?」
「ええ。と言っても決闘の様な事をする訳ではありません。あくまでもゲームで賭けをしましょう」
「賭けという事はカードですか?」
「ええ、これを使って」
俺はデッキを取り出しながら言う。
「リリアから聞いていませんか?これは遊びだと」
「……お恥ずかしい話ですが、絵の事ばかり気を取られてその、内容までは」
「ではリリアに頼んで遊び方を教わってください。リリアだけじゃなくてノアも出来るのでもし遊び方が説明だけでは伝わりにくかったらリリアとノアが対戦しているところを見るのもいいかもしれません」
「……もし勝ったら?」
「デッキをお渡しします」
その言葉にクロエス様は前に見た欲望に染まった顔を見せた。
だが今回は自覚があったからか、それとも注意していたのか少しずつ落ち着いていき、大きく息を吐いて落ち着くと改めて聞く。
「勝てなかったらどうなりますか?」
「デッキが手に入らないだけです。まぁこれが神からの贈り物である事は確かなので全部取られるような事にはならないよう全力出しますけどね。ですが……」
「が?」
「そもそもデッキがないと話にならないので最初のデッキは普通にプレゼントしますよ。さぁ!どんなデッキが良い!!」
贈り物である本を取り出しながら言うとクロエス様の目が光った。
どこから取り出したのか分からない手袋をはめ、さらにマスクをして1枚1枚吟味していく。
「リリアー、リリア!クロエス様想像以上のガチだ!ガチコレクターだ!!ちょっとヘルプ!!」
俺がそう呼ぶとリリアが扉を開けながら興奮したように言う。
「クロエス様がカードに興味持ったってホント!?」
「今そのためのデッキ作り中。手伝ってやって」
「は~い」
という感じでデッキ作りを始めた。
一体どんなデッキになるのか少し楽しみだ。




