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クロエス様の趣味

「へ~、これがマンガなんだ……」

「下手くそで悪いな」

「あなたが絵を描いているところなんて見た事ないし、それは仕方ないんじゃない。それにどういう物なのかは分かるし」


 収穫祭3日目。

 今日はゆっくりする事になったので簡単にだが四コマ漫画を描いて見せてみた。

 ネタはSWのルール説明であり、こうする事で遊べるよっという解説書のような感じ。

 日常をネタにしようと思ったけど、思っていた以上に人間を描くのが難しかった。

 なので変わり作画コストの低かったスピリットを利用してルール説明漫画を作った訳だ。


「この四角いコマって言うのがその場面を表現してるんだね。そしてセリフがこの丸いの」

「吹き出しだな。おかげで誰が言ってるか分かるだろ」

「確かにこれは絵本を発展させたような物ね。これはこれで売れるんじゃない」

「そりゃ売れるだろうけど、結局作者の腕の見せ所としか言いようがないし、俺には無理だ」


 そりゃ前世の頃に読んだ漫画をパクればある程度売れるのは間違いないが、結局あれは日本の文化ある程度根付いた事を想定しているからジャンルは狭まる。

 例えばSF物。この世界にロボットとか科学兵器なんて言葉そのものが存在しないし、説明も難しい。

 そうなるとミステリーやホラーなら出来そうだが……俺がそう言ったネタを考えた事もなければほとんど読んだことがない。

 コナンとか有名だけど、映画は見た事があるが漫画は読んでないんだよな……長すぎて読む気になれん。


 そんな感じで漫画を流行らせると言ってもこの世界では一体どのようなジャンルが良いのか全く分からない。

 おそらく昨日見た劇の様な王道の英雄譚を漫画化した、みたいな感じにすれば興味を引く事は出来るだろうが絵心のない俺ではどう頑張っても無理だな。


 何て考えているとレムルシャールが困ったように来た。


「マスター様、お客様です」

「お客?誰が来たの」

「殿下とその従者、そして婚約者様です」


 本当に意外なのが来たな……というか本当に何しに来た?


「とりあえず通して。話くらいは聞いておこう」


 重要な話しとは思えないが、王族を会わずに追い払う事も出来ない。

 仕方ないな~っと思いながら来賓室に通すよう言った。

 そして殿下とクロエス様はソファーに座った後、何故か頭を下げてきた。


「この度は礼を言いに来た」

「…………何かしましたっけ?」


 対応する俺とノアだが思い当たる事がない。

 何の事だか確認するとクロエス様が言う。


「改めて殿下と私の関係を取り持っていただいた事です。おかげで関係が良好となりました」


 今のクロエス様の顔を見ていると少し明るくなったように感じる。

 前のような作り笑いではなく、自然な笑みに見えるから本当に関係が改善されたのだと察する事が出来た。


「それは何よりです。でも報告しに来なくても学校で話せばよかったのでは?」

「それはそう何だが……クロエスがリリアに会いたいと言ってな。少しの間男同士でいてもらえないだろうか」

「そういう事でしたら男同士で庭にでも行きましょうか。ノアはリリア達と一緒に居てあげて」

「承知しました」


 という事で男性陣だけ裏庭に行って世間話でもするか。


「本当に落ち着いたな。クロエス様の良い所でも見れた?」

「ああ。リリア嬢ばかり見ていて視野が狭くなっていたらしい。クロエスもいい女性だ」

「どこが好きよ?」

「あの優し気な笑みと優しい雰囲気、そして私の事をよく見ていてくれている。それを自覚した瞬間非常に愛おしく感じるようになってしまってな、なぜ今までしっかりと見えていなかったのか分からないくらいだ」

「そいつは何より。で、今は関係改善に努めていると」

「そんなところだ。今までぞんざいに扱ってしまっていた事は事実、だからこそ謝罪ししっかりとクロエスの事を見ると誓った。だから最近は茶会に呼んでいる」


 本当に関係修繕に努めているようで何よりだ。


「それならとりあえず良かったとだけ言っておく。で、本当に今日はそれだけ?」

「今日は私と言うよりはクロエスがリリア嬢に会いに来たがっていたと言う感じだ。なんでも絵の話がしたいらしい」

「絵?リリアは絵を描いたりしないはずだが……」

「何でもリリア嬢が持っている絵に興味があるらしい。神からの贈り物も様々な筆が入った物だったらしく、絵の才能があるようだ。時々絵を描いているのを見る」


 クロエス様の趣味か。

 なんだか平和そうな趣味で良いな~。


「お兄様助けて!!」


 なんて思っていたらリリアが何故か飛びついてきた。


「リリア?クロエス様とお茶してたんじゃないのか?」

「それよりもこれ!お兄様が説明して!!」


 これと言って渡してきたのは俺が描いた四コマだ。

 これの説明とはどういう事??


「リリア様。逃げなくてもよいではありませんか。ただこの絵で物語を描くと言うのに興味があるだけです」


 歩いてきたはずなのに一切音が無かった。

 いつの間にか近くにいたクロエス様は俺に向かって礼をしてから聞く。


「リリア様からお聞きしました。この手法はアレックス様がご考案されたとか」

「お、おおう。俺が考えたじゃなくて教えてもらっただけだけどな」

「それではその教えてくれた方を教えていただけないでしょうか。リリア様が持っているカードに関しても興味がございますので」

「でもカードで遊んでくれないじゃん!いっつもカードの絵を見てるばっかりで!!」


 俺の後ろに隠れながらリリアが叫ぶ。


「当然です。あれほどまで精密な絵を、あの小ささに描き込んでいるのですから興味を持ちます。いったい誰がどうやってあの小ささに納めているのか、興味は尽きません」

「だからあれはお兄様が神様からもらった物だから作者とか分からないの!!」


 …………何というか、想像以上に絵への執着心が強いな。


「殿下、これ知ってた?」

「いや知らない。絵が好きというのは知っていたし、描いているところも何度も見たが……ここまで熱中しているのを見るのは初めてだ」


 目が据わっていると言うか、情熱が凄いな。

 そう思いながら女の子受けのよさそうなカードを選ぶ。豪華とも言っていたからレア度の高いカードを見せてみよう。


「チラ」

「?」

「チラチラ」


 わざとらしくチラつかせてカードに興味を持たせるとすぐに食い付いた。


「………………」


 まさにガン見。

 瞬きを一切せず少しでも多くの情報を頭の中に取り入れようとしているように、とにかくじーっと見続ける。


「この色を出す絵の具は何を使えばいいでしょう。石、花弁、砂……どれでもない。何よりこの小さな絵なのに精工……美しい……」


 ふむ。

 どうやらクロエス様は本当にイラストが好きでカードその物にはあまり興味がないらしい。

 リリアが言っていたのは多分この事だ。


「クロエス様はこの絵がお好きで」

「……失礼しました。私も贈り物として筆をいただき、絵を描いているのですがこのような素敵な絵を見た事がありません」

「クロエス様ならもっと価値のある絵画などをご覧した事があるのでは?」

「確かに母の趣味で様々な美術品を見させていただきましたが、この絵はどの絵画とも違い、どの枠にも組み込まれていない。故に興味が尽きません。どうやってこの絵を描く事が出来るのか、どうすればこの美しさに届くのか、考えが付きません」

「なるほど。よろしければ商談に乗ってはいただけないでしょうか」

「……商談、ですか?」


 一体どこからそんな言葉が出たのだろうと疑問符を浮かべているが、説明すれば分かるだろう。


「私の会社で複写機を製造した事はご存じでしょうか」

「それは聞き及んでおります。城でも資料を作るのに大変役に立っているとか」

「そうだな。おかげで文官達が感激の声を上げているのを聞いた」

「それは嬉しく思います。しかし1つ私にとって不満点がございます」

「不満?あれほどの魔道具に不満ですか」

「ええ、これは私達魔道具を作る存在だけでは到達できない問題でして、インクがないのです」

「インク?インクなど売っているではないか」


 殿下は全く分かっていないがクロエス様は何かを考え、ふと答えを見つけたようにつぶやいた。


「黒以外の色ですか」

「その通りです。最初は原本の色も複写できないかと努力していたのですが、どうしても複写機に合うインクが見つからなかったのです。そもそも黒以外のインクが存在せず、探してみたのですが発見に至りませんでした。なので絵の具やインクに詳しそうなクロエス様にご協力いただけないかと」


 それを聞いたクロエス様は少し悩んだ後首を横に振った。


「申し訳ありませんが現在存在するインクの種類は多くありません。この絵のように様々な色のインクは存在しないでしょう」

「申し訳ありません。少々訂正いたします。欲しい色は5色です」


 俺とクロエス様の話についてこれていないリリアと殿下。ついでにアトラスとベルも分かってなさそうだ。

 だがクロエス様はすぐに分かってくれる。


「……三原色と黒と白」

「その通りです。あとは……お分かりでしょう」


 色の三原色、つまり赤、青、黄の3色があれば色んな色を生み出す事が出来る。

 これを応用すればあとは各色の配合を工夫すれば何百色、何千色に変化させる事も可能だ。

 白と黒に関しては明るくしたり、暗くするために必要だろう。

 だが黒のインクは既にみんなが使っている通り存在している。だからあと4色あれば理論上は可能だ。


「……なるほど、分かりました。少しならご協力できると思います」

「それで何を支払えばよろしいでしょうか」

「全て」

「え?」

「あなたの持つカード全てが欲しい!あの素晴らしい絵を私の物にしたい!!」


 ああ、いい目だ。

 欲望に染まった、本当に欲しい物なら何がなんでも手に入れてやると言う強い力。

 俺好みの良い目だ。


「承知しました。では後日改めて商談させていただきたいと思います」

「ええ、よろしくお願いします」


 リリアと殿下はあっけにとられていたがクロエス様にも人並みに欲はあったという事だ。

 ちょっと面白くなってきた。

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