最後まで正体不明
シルフィードとフードの人物は順調に駒を進める。
シルフィードは人間のふりをしながらのハンデありだが、そんなの関係ないと言わんばかりに勝利を重ねていく。
主にカザグルマで相手を叩いていく間に場外に落とすのがシルフィードの戦略。
そしてフードの人物は武器などを使わず体術のみで対応し、ほとんどが関節を決められた状態でのギブアップ勝ち。
当然近接攻撃のみなのにいまだに相手に体を触れられるどころか素顔すら見せないのだから本当に何なんだと思う。
正直言ってここまで強いと人間なのかどうかも疑わしい。
そして決勝戦。
ようやくシルフィードとフードの試合が始まった。
予想通りシルフィードの方が先に仕掛け、カザグルマで顔を貫こうとする。
いきなり危険なの使ってきたなと思ったが、相手はあっさりと後ろに下がりながらかわす。
連続で槍の突きで攻撃しているが全てかわすのって難しいと思うんだが。
それに相手は本当に体を逸らして避けているだけなのでどこまでも手の内を見せない。
シルフィードもいまだに魔法を使っていないのは手の内をさらさないためか?いざという時のための必殺技でもあるんだろうか?
なんて思っている間にシルフィードはカザグルマを使ってさらに速く、連続攻撃を仕掛ける。
カザグルマを中心で持って高層回転させる事でまた扇風機みたいな事をしている。
でもそれでもまたかわされるのでは?っと思っていたのだが意外な事シルフィードはカザグルマを投げた。
飛んでくるタイヤよりも凶悪な、まさに触れたら両断される技を惜しみなく使ってくる。
流石に武器を投げられるとは思っていなかったのか、のけぞるようにかわしたフードに対し始めてシルフィードは魔法を使った。
初級の突風を起こす魔法でようやくフードの顔が見えた。
だがそのフードの下の顔は予想外だった。
「お兄様、あれって……」
「人形、よね?」
リリアとノアが確認するように言う。
俺の目にもそう見える。
確かに人の顔だが目は瞬きをしないし、口も全く動かない、完全に木を彫って作られた顔。そしてわずかに見える首は関節球体か?
予想外の結果に俺達だけではなく他の観客たちも驚いている。
「……ノア。ああいう魔法みたいなのってあるのか?」
「流石に聞いた事がないわよ。小さな人形を魔法で動かす事すら難しいのに、あんな大きい人形を魔法だけで動かすのは普通出来ないわよ」
「つまり人形を動かす技術そのものは存在するんだな?」
「確かに存在はするけど、たぶんあなたが考えているような便利な物ではないわよ。糸に魔力を纏わせて操作するものだけど、魔力で覆ったからって糸は強固にならないし、絡まるし引っ掛かる。特に予選の時点で他の選手に絡まっていないのはおかしいわ。常識通りの魔法だったらね」
「つまり物理的に糸が繋がっていることが条件って事か」
その通りなら糸が切れたり、他の人と絡まる可能性のある大乱闘では既に負けていてもおかしくない。
それこそ複数の人形遊びをしている時に糸同士が絡まって動かせなくなる可能性だって低くない。いやむしろそうなる可能性が圧倒的に高いからノアもありえないと言っているのだろう。
でもゲームやマンガじゃ人形遣いってある程度強力なポジションだったりするんだよな。
でもこの世界でロボットもどきを作る事は出来るのか?
ゴーレムとかは聞くけどあれも近くに魔法使いがいる事が最低条件。
木製のゴーレムも存在するがあれこそ本当にトレントとか動く木のモンスターみたいな形である事が多い。
いや、その辺は人形のように自力で作れば関係ないか?
結局ゴーレムの前提は自分で作った魔力のある人形を動かす。
そういう点だけを見ればあれは人形というよりはゴーレムと言う感じか??
「ノア。人形の贈り物って存在した事があるか」
「……一応記録にはある。でもその人に魔法の才能はなかったから、針仕事の才能があったと言うだけであの人形を作るとか操る様な才能ではないと思う」
「魔法使いにゴーレムを使役して戦う人は」
「ゴーレムの運用のほとんどが盾替わりよ。魔法使いの意思で動く盾。戦えない訳じゃないけどどうしても動きは遅いし、直接魔法をぶつける方が強い。それに動かすのも維持するのも魔力を使うから、あなたみたいに膨大な魔力を持った存在じゃないと戦いには使えないわ」
「なるほど……それじゃあの人形そのものが贈り物の可能性は?」
「…………分からない。贈り物は本当にその人の才能によってまちまちだから、ああいう巨大な人形も出てこないとは限らない、かも」
ノアはそういうがやはり自信はないのだろう。
俺だってまさか神様からあんな人形をもらったら困惑する。
普通に考えれば誰かが作った物と考える方が自然だと思う。
だがあれだけ戦闘に耐えられる人形を誰が作ったのか、何のために作ったのか非常に気になる。
ただの自己満足ならいいが、仮にこれが実験なのだとしたらあまりいい未来を想像できない。
人形もバレたからか、マントを破ると首から下は完全な木の人形。
木目がそのまま残されており装飾は一切ない。あえて特徴を言うのであれば全て球体関節になっている事くらいだろうか。
ちょっとしたホラーゲームのような表情の変わらない人形が襲ってくる事に俺は少し恐怖を感じる。
ゲームや漫画だと人形の体内に様々な機能が盛り込まれている物だが、あいつには一体どんな機能をつぎ込んであるのか、それを知るいい機会でもあるのかもしれない。
シルフィードは人間でないとはっきり分かったからか、カザグルマを風の魔法で手元に戻し、先ほどよりもさらに速く回転させると風が起こり始める。
舞台から離れている俺でも風を感じるのだから舞台ではさらに強い風が起きているのは間違いない。
その風で吹き飛ばすのかと思っていると、また投げた。
同じ技だと思ったら風で操作したのかカザグルマは軌道を変えて避けようとした人形の腹部に当たった。
人形はあっさりと壊れピクリとも動かない。
壊れたから動かなくなったのか、それともただ単に操っていた者が止めたのか、どちらが正しいのか分からないが人形は壊れてから全く動かない。
それにより審判がシルフィードの勝利を宣言し、観客は歓声を上げるが俺は全くそんな気分にはなれない。
あの人形の性能を自慢したいのであればもっと粘っていたのではないだろうか。
人形である事がバレた瞬間、無価値となり棄てられたような気がする。
それは向こう側が情報を渡さないためか、それとも情報収集が目的なのか、全く分からないと言うのは不気味だ。
シルフィードが戻ってきた時に何か気が付いた事があればいいんだが……
「マスター、今戻った」
「どうだった、シルフィード」
そう聞くとシルフィードは掌の物を俺に見せた。
「それは?」
「あの人形の中に入っていた魔石の欠片だ。どうやらあの人形はこれで動いていたらしい」
「それは動力源として?」
「動力源でもあるがこれであの人形を操ってもいたようだ。微かに誰かの魔力を感じる」
「それじゃ俺達が感じていた違和感はその2つの魔力を感じていたからか?」
「違う。あれは邪な感情が混じった魔力だったからだ。私達精霊は魔力越しに相手の感情や性格を推し量る事が出来る。それが邪な感情だと感じたからこそ、警戒していたわけだ」
俺達人間にもそれを感じたのは精霊達に囲まれているからだろうか?
残っていた人形の残骸は大会の運営かどこかが回収している。
「そう言えばその魔石、拾って大丈夫なのか?」
「問題ないはずだ。私が拾ってきたのは砕けた魔石のごく一部、そのほとんどはあそこに置いてあるから大丈夫だろう」
「その方が良い。この事は国が重く見てくれれば勝手に調べるはずだ。あとは任せよう」
何とも後味の悪い終わり方だったが、相手は帝国の仲間か、それとも違うのか。
もし同じ帝国兵の仕業だったら面倒だし、他国の技術だったとしても調べる事が増えて大変そうだ。
この国もしかして他の国から滅茶苦茶狙われたりしないよな?
ちょっと心配して来た。




