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正体不明の参加者

 その後も武闘会は意外と平和に進んでいった。

 シルフィードも人間から見て強い程度の強さに抑えているし、魔法でやらかす場面が無かったので本当にほっとしている。

 この大乱闘は8回行われ、それぞれ勝った人がそのままトーナメントに出場する。


 最終試合まで見ていたが娯楽のないこの世界では戦いも娯楽、ボクシングとか総合格闘技を見ている感覚なんだろう。

 人を殺せる技術を持っている事は怖いが……それは戦うスポーツ全般に言える事でもあるか。

 ボクサーの拳は凶器、なんて言葉も聞いた事があるし。


 なんて思いながら眺めていると、気になる人物がいる。

 フード付きのマントを着た性別も分からない選手。武器らしきものも持っていない。

 でも何というか、嫌な感じがする。


「レムルシャール。あれなんだと思う?」

「……分かりません。ですが人間であることは間違いなさそうです。魔物でも精霊でもありません」


 レムルシャールも違和感を覚えたのかそう言ってくる。


「あなた?レムルシャールもどうしたの?」

「あのフードの人物。妙な魔力してる。リリアも分かるか」

「うん。なんかこう、嫌な空気してる。モンクーちゃんもこの通りだし」


 さっきまでドライフルーツを食べていたモンクーがフードの人物に向かって威嚇を何度も繰り返している。

 そのフードの人物がこちらに振り向いた。

 目が合ったのかモンクーはすぐに怖がってリリアの影に隠れたが……


「最低でもBP4000以上ってか?そんな人間居るの?」

「英雄と言われるほど強い人間ならありえなくもないですが、大抵30代前後である事が多いです。そして当然ですが武器系の贈り物をもらっているはずです」

「その基準は」

「贈り物を使いこなす期間が長い事が最低条件だからです。以前マスター様が戦った鎧の青年、彼がマスターに手も足も出なかった理由が贈り物の熟練度です。つまり使いこなしていればあの勝負もマスター様が勝っていたがどうか分かりません」

「それでももう少し若くてもいいと思うが……」

「あくまでも基準ですのでもっと若い可能性もあります。しかし30代を超えると体力に陰りが出てきますので、その後はその者によります」

「体力の話か。納得」


 つまり贈り物を使いこなす期間と体力が合致する時期が30代と言う訳か。

 ここで勝てばあの人物とシルフィードが戦うのは決勝の舞台。

 少しでも情報が欲しい所だが……


 最後の大乱闘が始まったが、フードの人物は体術だけで相手を場外に落としていき手の内をあまり見せない。

 見る限り動きは不自然でないし、何か特別な力を使っているようにも見えない。

 魔法すら使っているように見えないのだから何も言えない。

 ただの気のせいではないはずなんだが……


 そう思っている間にフードの人物は勝利を収めた。

 他の人達はただ普通に盛り上がっているし、違和感を感じていないのかもしれない。

 結局分かったのはあの人物の名前がプロトという事だけ。

 あとは何もかもが分からない。


「マスター、あれはどうする」


 シルフィードが俺の後ろで聞いて来る。


「必ずあれと戦え。そして勝つな」

「それはどういう事だ?」

「最悪の状況を考えてだ。あいつの情報が少しでも多く欲しい。だからすぐに戦って勝とうとせず、慎重に情報を引き出してほしい。具体的には魔法が使えるのか、贈り物らしいものはあるのか、性別とかな。もしかしたら帝国の人間かも知れない」

「なるほど。それではわざと長引かせるような戦い方をしてみよう」

「文字通り演武って所か?わざと観客を楽しませるような戦い方でもいい。とにかく長引かせてあいつの情報を少しでも引き出せ。あとあのフード破ってこい。そして本当に殺されそうになった時とかは全力を出してもいい」

「良いのか?この一帯暴風で大変な事になるぞ」

「それよりもお前の身の安全の方が重要だ。とりあえず今はあいつと戦えるように負けるんじゃねぇぞ」

「承知した」


 そう言ってシルフィードは風になって消えた。

 もしかしたら帝国とは別の力を持った奴が敵情視察に来ただけかもしれないが、シルフィードの情報はどの程度バレてたっけな?

 伝説として語られている事に関しては仕方がないとして、今までシルフィードを使う時は基本的に手紙のやり取りなど物を運ぶときなどだ。

 戦闘と言う意味ではまだ見せていないはず。

 ここでシルフィードの力を全て晒すのは危険だろうな。


「……お兄様……」

「どしたリリア?」

「何か今の……怖い」

「え?どこが?」

「何と言うか……陛下よりも冷血な王様みたいな雰囲気あった」

「いや、仕方ないだろ。あの正体不明の奴が本当に何しに来たのか調べないと」

「それにわざと勝つなって……」

「あれも相手の情報を引き出すため。本当にただあの人が腕試しに来た強い人ならそれでいいんだよ。でもそうじゃない嫌な感じがするのはお前も分かるんだろ?」

「それは……そうなんだけど」


 どうやら今の言い方が悪かったのかリリアからかなり怖がられている様子。

 ノアはそういう事言ってこないなっと思っていると、なんか顔を赤くしてもじもじしてた。


「ノアはノアでそれどんな反応?」

「……ちょっと、カッコよかった」

「え、嘘!?」


 リリアは怖いと感じたからノアのカッコいいという評価に驚いている。


「何で!?あのお兄様怖くなかった!」

「怖いと言うよりも……シルフィードに指示していく姿の方がカッコよくって。支配者らしい雰囲気と言うか、相手を絶対に勝てない状態にまで確実に持って行こうとしている姿勢とか、そういうのが良くて……」

「良くないよ!だってシルフィードにわざと勝つなって言ってるんだよ!?」

「アレックス様はあくまでもすぐに勝つようなことは避けるように言っただけよ。相手が正体不明だから少しでも情報が欲しい、少しでも相手に悪意があるのかないのか、それを知りたいだけよ。だからいざとなったら本気を出してもいいと言っていたわけだし」

「それは……分かるけど……でもさっきのお兄様戦場から帰って来たばっかりの時と雰囲気似てたよ、お姉様の嫌じゃなかったの?」


 あ、またそんな顔してたんだ。

 そう言われるとカッコいいという評価は少し違うように感じる。

 ノアもそういうのは嫌がってたからな。


「それはもちろん嫌よ。でもさっきのは微妙に違ったもの。あれは、相手をいたぶる時の表情。ふふ」


 そう言いながら顔を赤くして俺に何かを求めるのは止めていただきたい。

 リリアの前だぞ。


「………………どういうこと?」

「あまり気にしなくていい。こいつMなだけだ」

「エム?」


 マゾヒスト。

 だがリリアの前でそういう話をするつもりはない。

 ノアはマジで意外だったが、受けの方がかなり好きだ。

 そりゃもちろん殴られたり髪を引っ張られたりするのが好きという訳ではない。

 ただ優しく求められるよりも激しく求められる方が性癖で基本的に誘い受けである事が多い。

 もっと激しく、もっと強く求められたいと言う気持ちが強いせいだと思う。

 まぁそれで俺もノリノリになっている訳だからサディストなのは間違いないけどさ。


 え、てことは俺は正体不明の相手にドSになってたって事?

 そんなつもりは一切ないぞ!

 というか情報とあいつの正体が気になっただけでそんなつもりは一切ない!!

 うちの妻こっわ!


「ねぇエムって何?何なの??」

「……好きな相手が出来たら自然と分かる」


 そう言って誤魔化すしか出来ない。

 何か余計な心配が増えちゃったな~。

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