97:君は分かるだろうか?
本当は昨晩。
あの刺客に襲われた後。
助けてくれたアズレークに、抱きつきたかった。
でもそんなことをできる雰囲気やタイミングなんてなかった。
今、急に立ち上がったら、アズレークは何というだろう。
「あぶない」と、動きを制するだろうか?
それを無視して抱きついたら……。
「……パトリシア」
耳に心地よいテノールの声。
やっぱり私はこの声が……好き。
「そんなに見つめないでくれ」
「!?」
アズレークは左手で顔を覆った。そして大きく息を吐く。
「このアズレークの姿は、ブラックドラゴン由来の姿だ。それが何を意味するか、分かるか? 君は私の番だ。ブラックドラゴンの本能として番を求めてしまう。この姿で君の前にいる時、私がどれだけ自制しているか、君は分かるだろうか?」
左手で顔を覆ったまま、右目で私をチラッと見る。
その黒い瞳には、燃えるような情熱が感じられる。
見ているだけで火傷しそうな熱に……。
おへその下あたりがカーッと熱くなる。
思わずおへその下を、ドレスの上から手で押さえる。
もう紋章はないのに。
魔力は全部消えてしまったのに。
……!
そうだ、私、なぜ魔法を使えるようになったのか、それも聞きたかったんだ。
アズレークの顔を見ると。
「おへその下に痣があるはずだ。その痣は、ブラックドラゴンの逆鱗と言われている。番はブラックドラゴンにとっての唯一の弱点。奪われたり、損なわれたり、死に追いやられれば、ブラックドラゴンもまた死すと言われている。番=逆鱗の痣がある由縁だ。この痣は、ブラックドラゴンに由来するものだから、自分の番を見つければ、当然反応する。パトリシアは今、痣に触れている。それは私が君の番だからだ。私が君に反応するように、君もまた私に反応する」
思わず手で押さえていたおへその下を見つめる。
ブラックドラゴンの逆鱗の痣。
この痣が番であるアズレークを見て反応していたとは……。
でもそう言われてみると……。
アズレークと共に過ごしていた時、何度となくおへその下辺りが熱くなっていた。でもそれはある日を境になくなったのだけど。
「……本当はアズレークの姿で君と会うつもりはなかった。ただ、君を探すにはアズレーク姿の方が、都合がよかった。アズレークの姿であれば、番の存在を、レオナルドの姿の時より、より強く感じられる。だからあの姿で君を探し、そしてようやく見つけた。あの修道院の裏手の森で。その時は……王太子の『呪い』を解く鍵を見つけた、というより、自分の番を見つけた、という気持ちが強かった。だからうっかり、アズレークの姿のまま会ってしまった」
ようやく顔から手をはなしたアズレークは、大きくため息をついた。
「自分の自制も必要だったし、君が不用意に番である私に反応しないようにする必要もあった。君が魔法に集中できるように作った起点。あれは確かに起点ではあったが、私に反応しないよう、ブラックドラゴンの逆鱗の反応を抑える魔法もかけていた」
そうだったのか。
だからあの屋敷に滞在中、おへその下の反応が、急になくなったのか。
それでも、アズレークの言動や表情に、私は反応していたのだけど。
「しかし、今、その起点も廃太子計画を遂行した時点で消えたはずだ。そうなるように私が魔法をかけていたから。だから君だってこのアズレークという姿を見れば、自然と気持ちが動くはずだ」
それはもう間違いなくそうだった。
アズレークを好きという気持ちで胸がいっぱいになっている。
だから頷くと……。
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