95:同じ眼差し
旅籠に戻ると、あちこちに松明が灯され、まるで昼間のような明るさだった。
アルベルトとレオナルドは私を部屋まで送り、そしてレオナルドは「外が騒がしいだろうから、ゆっくり眠れるように」と、睡眠魔法をかけてくれた。
ちなみにその際、私はレオナルドに一つだけ質問をした。
男達に眠りの香りをかがされたのに、どうやら私はすぐ目を覚ましたらしいことを。私には眠りの香りが効かないのだろうか、と。するとレオナルドは「眠りの香りも、使う魔力により、クオリティが大きく変わります。男達がつかまされていた眠りの香りは、たいした魔力ではない人間の魔法で用意されたものだったのでしょう。つまり粗悪品だったのかもしれませんね」と教えてくれた。粗悪品であったおかげで助かったのかと思うと、まさに綱渡りだったと思う。あのまま何も知らずに眠ったままさらわれ、助けを呼ぶ暇もなく、男達に何かされていたらと思うと、ゾッとする。
ともかくその一言を交わした後は睡眠魔法をかけられ、おかげで旅籠の女性従業員に起こされるまで、ぐっすり眠ることができた。
ということで目覚めた私は。
大きく伸びをして、ベッドから起き上がる。
身支度のため、洗面所へと向かう。
顔を洗いながら、昨晩の馬車での、レオナルドのことを思い出す。
レオナルドの赤い顔と真っ赤になった耳。
あんな姿、ゲームでは見たことがない。
自然と頬が緩む。
アルベルトも、レオナルドのそんな姿を見るのは初めてだったようで、一瞬、動きが止まった。でもすぐに自分のことをレオナルドが指摘しているのだと分かり、ゆっくり私の手をはなし、触れていた頭から手をおろした。
その時、アルベルトはレオナルドに尋ねた。「席を交代しますか?」と。
レオナルドは顔を赤くしたまま、もうすぐ旅籠につくこと、動いている馬車で席の移動は危険だと言い、席を交代することはなかった。でも馬車が旅籠に着くと、アルベルトはレオナルドに私をエスコートするように言い、レオナルドは……。
馬車の中ほどではないが、頬をうっすらと赤くしながら、馬車から降りる私の手をとった。その一瞬、あの紺碧の瞳と目が合ったのだが……。
あの眼差し。あれはアズレークがいつか見せてくれたものと同じだった。
私のことを心配し、気遣う優しさが感じられる眼差し。
そこで初めて、アズレークとレオナルドは同じなのだと実感できた。
エスコートされ、部屋に向かう最中。
前を行くアルベルトに、騎士が次々と声をかけた。次いでレオナルドにも声をかけるので、私はレオナルドと会話することはできなかった。
部屋についてからも、アルベルトともう一人の騎士が、室内を点検し、安全確認を行っていた。だからレオナルドはあくまで私に睡眠魔法をかけ、眠りの香りについて一言会話をするだけだった。
ちなみに睡眠魔法をかけるために詠唱された魔法は、レオナルドらしい綺麗な言葉を重ねたものだ。
「夜明けはまだ遠い 美しい君の寝顔を 星たちはまだ見たいと囁いている 健やかな眠りを」
その言葉を聞き終えた瞬間、眠りに落ちていた。
そう、さっき目覚めるまで、本当に熟睡できた。
そして今は、紺碧色のドレスに着替え終えたところだ。
偶然だが、このドレスはレオナルドの瞳と同じ色。
胸元からウエスト、スカートの上部に細かい白い水玉がプリントされているのだが、それはまるで雪のように見えて美しい。髪はハーフアップにして、ドレスと同色のリボンで留めた。
軽くメイクをして完成だ。
一階の食堂に案内されると、そこには次々と騎士がやってきて、朝食をとっている。
マルクスに声をかけられ、そちらを見ると、三騎士とアルベルトが着席していた。すぐにそちらへと向かった時。そのテーブルに、レオナルドも腰を下ろした。
思いがけずレオナルドと対面の席で座ることになり、緊張が高まる。
だがマルクスが、昨日の刺客から聞き出したことの報告を始めたので、目の前のレオナルドのことをあまり意識せずに済んだ。
むしろ、レオナルドのことを思いっきり意識せざるをえなくなったのは……。
朝食を終え、王都に向かうことになってからだ。
そう、旅籠を出て、王都へ向かう馬車の中で。
スノーはいるが、私とレオナルドの二人きりだった。
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このあともう1話公開します。



























































