55:何もいない?
「スノー、万一があるから、私の背後から中をのぞくようにして」
「了解です、オリビアさま!」
真鍮の鍵を差し込み回転させると、カタンと音がする。
ゆっくり鍵を取り出す。
「スノー、開けるわね」「はい」
取っ手をつかみ、ゆっくり引くと……。
ギィィィィ……と音がして、扉が開く。
塔の内部から、もわっと空気が出てきたように感じる。
螺旋階段の方を見るが、何もいない。
皆が言うような、変な気持ちに苛まれることはない。
「スノー、何か見える?」
「見えないですが……聞こえませんか?」
スノーの顔色が悪い。
がたがた震えている。
その時。
ブブブブブブという不気味な音が聞こえた。
これって……。
!!
扉をバタンと閉じた。
心臓がバクバクと大きな音を立てている。
スノーも一緒に震えている。
「どうされました、聖女様」
弓を構えたまま、ルイスが怪訝そうにこちらを見る。
「……いました。この塔には……スズメバチ型のモンスターゴーストがいます」
「スズメバチ型のモンスターゴースト!?」
ルイスが目を丸くする。
スズメバチは……ゴーストでなくても恐ろしい。
それがモンスターゴーストとして出現しているなんて……。
あの羽音を思い出すだけで、震えるが走る。
どうやって退治する?
塔の中へ入るのは……無理だ。
それに通常のスズメバチより、サイズが大きい。
それが群れをなしていた。
扉を開け、出てきたところを狙う?
ルイスと私の二人で狙えば……。
いや、数が多く、撃ち漏れが絶対に出る。
となると……。
「退治方法を思いつきました」
スノーとルイスが私を見る。
「青い塔を聖杯に見立て、聖水で満たします」
「この塔の中に聖水を満たすのですか!?」
ルイスが目を丸くし、スノーも息を飲む。
「はい。窓はガラスがありますし、聖水は一瞬で満ちます」
「なるほど」
「聖水が満たされたと同時に、窓ガラスをルイスさまの矢で、全て割っていただいていいですか?」
これは素早くやらないと、塔の崩壊を招く。さすがに皿や噴水を破壊するレベルではない。
それは避けたい。
「分かりました。瞬時にやらないと、塔が崩壊するということですね」
私が頷くと、ルイスの顔が引き締まった。
「いいでしょう。任せてください」
万一に備え、スノーと私は塔から距離をとる。
まったく、練習していた時より、とんでもなく難易度が高い。
だが、やるしかない。
ルイスから魔法の呪文と思われたくないという気持ちから、十字架を冠した杖を塔に向け……。
「青の塔に聖なる水を。遥かなるオケアノスよ、その水を青の塔に満たせ」
呪文の後に、聖女の祈りの言葉である「悪しき者の望みは絶える!」と叫び、杖から出る光を塔に向け放つ。
塔が光に包まれる。
窓ガラスを見ていると、塔の中に塩水が満ちて行くのが見える。
「……!」
水圧に押され、スズメバチ型のゴーストが、ガラスに押し付けられ、次々と消えていく。
最上部の窓も、塩水で満たされた。
「今です、ルイスさま!」
私の言葉に反応するように、ルイスが塔の周囲を走りながら、窓ガラス目掛け、次々と矢を射ていく。一撃必殺で、矢が当たったガラスは次々と砕け、そこから塩水が吹き出す。かろうじて塔に陽が当たっている部分があり、そこの窓から噴出する塩水は、陽光を浴び、綺麗な虹がかかっている。
「聖女様、成功ですか?」
「はい! ルイスさまのおかげで、塔も崩壊をまぬがれました」
「それはよかったです。でもここにいると水浸しになりそうですね」
ルイスはそう言うと、スノーを肩車した上で、私のことを抱え上げた。
思いがけずルイスが力持ちであることに驚きつつ、あのルイスにお姫様抱っこされている事実に、全身が熱くなる。攻略対象にお姫様抱っこされている図。それはゲームの画面で眺めた景色であり、実際に抱き上げられるとは……。感無量。
「ではここから避難しましょう」
私達は青い塔から離れた。
このあともう1話公開します!



























































