42:プラサナス城へ
廃太子計画の遂行という重い役目を果たすため、プラサナス城へ向かっていたが、共に旅するのがスノーで良かったと、私はしみじみ思っていた。
馬車に乗る機会があまりないスノーは、ただ馬車に乗っているだけでもはしゃいでいた。さらにメイド仲間から沢山お菓子をもたせてもらったようで、馬車の中でいくつもの包みを広げ、私に様々なスイーツをすすめてくれる。
お菓子を食べ終えると、今度は窓の外を見て、目に入る景色についていろいろと話し出す。
あそこの草原の草はおいしそう。あの紅い林檎は、きっと蜜がいっぱいつまっている。そこの牛は、乳の出が悪くて苛立っている。あっちにいる馬は、隣の草原の草が気になっているなど、私がまったく気づかないことを、教えてくれる。
人間の姿をしているが、スノーは動物たちの気持ちが、手に取るように分かるようだ。そのスノーが伝えてくれる言葉を聞いていると、動物たちがそんなことを思っているのかと驚き、気持ちが和んだ。
そうやってスノーとおしゃべりをしながら、馬車に揺られていると。
ついにプラサナス城のお膝元になる街に到着した。
先日訪れた町は、この街のかなり手前にあり、中規模の町だった。でも今馬車が入っていった街は、城に直接つながる街で、規模もとても大きい。
街の中央に当たる広場で、馬車を降りる。
ここで昼食をとり、城を訪問するつもりだ。
もちろん、アポなんてないから門前払いされるだろうが、それで構わなかった。
聖女が尋ねてきた――その事実をまず残しておく。
それが重要だった。
「スノー、どこのお店でお昼にする?」
そう尋ねると、スノーはすぐさま一軒の食堂へと駆けていく。随分と立派な作りで、値段も高そうなお店だ。おそらく、街の住人向けというより、城の住人が足運ぶお店に思える。
「スノー、ここは確かに美味しい料理を出しそうだけど、私達が入るようなお店ではないわ」
そう言って、スノーの手をひき、店の前から去ろうとすると。
「あら、もしかしてあなたは聖女さまですか?」
私とスノーは、白のワンピースに白いベールを被り、セレストブルーのフード付きのロングケープを着ていた。もちろん手には十字架を冠した杖も持っているし、首からは十字架のついたペンダントをつけている。だから一目で聖女であると、店の従業員らしい女性は、気づいたようだ。
「あ、はい。すみません。お店に入るつもりはないのですが」
「そうなのですか!? やはり何かこのお店にいますか?」
落ち着いたガーネット色のドレスを着た女性は、困ったように首を傾げる。
よく見るとそのドレスはシルクで、襟や袖に繊細なレースも施され、ただの従業員には思えない。もしや、このお店のオーナー? そんなことを思いながら、私は女性に尋ねる。
「何かいる……。気配を感じるのですか?」
「はい。そうなのですよ。三日ほど前から、不思議な現象が起きていて。椅子が突然動いたり、テーブルの上の花瓶が倒れたり……。聖女さま、ゴーストでしょうか? プラサナス城では、ゴースト騒動が起きています。この街にもゴーストが現れても、おかしくない状況なんです」
「なるほど」
女性は店の扉を大きく開け、私とスノーに中へ入るよう促した。
「私はこの店の女主人のミネルバと申します。今日、この店には、王都からやってくる王太子の一行が立ち寄ることになっています。入城前の身支度を整えるために。ここは一階が食堂で、二階は宿になっています。ですから王太子さま達は、二階で旅の汚れを落とされ、一階で食事をし、お城へ向かわれる予定なのです。だから今日は貸し切り。でも王族の方がいらっしゃるのに、ゴーストが何か悪さをしたら困ります。どうか、聖女さまのお力で、退治いただけないでしょうか?」
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次回は本日12時に「実戦経験を積む」を公開します。



























































