41:驚きを通り越した衝撃で息を飲む
昨晩のリハーサル。
何度もやり直すことになった。
でも。
アルベルトのことを好きで、行動できなかったわけではない。
それこそ最初は、『戦う公爵令嬢』という乙女ゲーの一人のプレイヤーとして、目の前にいるアルベルトの美貌に心が揺れた。でもその姿も見慣れてくると、自分がよく知る攻略キャラに対して、眠りの香りをかがせたり、跨ったり、短剣を振り下ろすことに、ただ戸惑ってしまっただけだ。
その戸惑いは、好きだから生まれた感情ではないのに。
アズレークには、私がアルベルトを好きだから動けないと見えていたのか。
それにしても。
アズレークは、私から嫌われていると思っていたとは……。
そう思わせてしまう態度を、私はとっていたのだろうか。
そんなことはないのに。
その誤解だけは、解いておきたいと思った。
だが正面切ってそれを伝える勇気はない。
だから、手紙を書くことにした。
この部屋を、屋敷を出れば、なんとなくであるが、アズレークとはもう二度と会えない気がしていた。計画が成功すれば安全を保障すると言っていたが、修道院に戻るにしろ、他国へ逃亡するにしろ、その時、アズレークは姿を現すことはない。そう感じていた。
ならばいいだろう。
私の正直な気持ちを綴っても。
書き上げた手紙は、テーブルの上に、そっと置いておいた。
◇
ついに、プラサナス城に向け、出発することになった。
昨日は普通に昼食と夕食をとり、何度かアズレークに質問をするうちに、一日が終わった。そして今朝は、起きると聖女の服に着替えた。
白のワンピースに白のベール、セレストブルーのフード付きのロングケープを羽織る。首元には十字架のペンダント。ポケットには聖書。ガーターベルトには短剣もちゃんと装備している。
朝食をとると、最後の魔力をアズレークから送られ、そして髪と瞳の色を変えてもらう。スノーも私とお揃いの衣装を着て、出発に備えた。
「さあ、いよいよですよ、オリビアさま」
スノーは、アズレークから今回の作戦について、しっかり聞いていた。何かあったらサポートするよう、指示を受けている。もうここから先、アズレークを頼ることはできない。スノーと二人で、やっていくしかない。
スノーと私は馬車へと向かう。
改めて馬車の扉の前で、アズレークと向き合う。
「アズレークさま、行ってまいります」「行ってまいります!」
私とスノーの言葉に、アズレークは静かに頷く。
「オリビア、スノー、二人の健闘を祈っている」
「はい」「はーい」
スノーに、先に馬車に乗るよう促す。
アズレークとの別れは、実にあっけなかった。
でも……取引で結ばれた関係だ。これも仕方ない。
小さくため息をもらし、私も馬車に乗ろうとしたまさにその時。
後ろから、アズレークに抱きしめられていた。
驚きを通り越した衝撃で、息を飲む。
「成功すれば、君は必ず幸せになれるから」
振り向こうとすると、スノーが「オリビアさま、早く」と呼びかける。アズレークはその一言を告げると、もう私から離れていた。
「いってらっしゃいませ」
屋敷の召使い達は、一斉にそう言うと、馬車を見送ってくれる。
一方のアズレークは……。
その表情からは、何も読み取れない。
ただ、馬車が遠ざかるのを、黙って見ていた。
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