4:今、寛いでいる場合……?
自然と目覚めた。
あれ……?
ベラスケス家に戻ってきたのかと思った。
だってベッドは修道院のそれと違い、とんでもなくフカフカで、天蓋付きだ。それに部屋の壁紙も美しいダマスク柄で、調度品も品のあるマホガニー材のものでまとめられている。
ゆっくり体を起こすと、部屋に誰かいる。
うわぁ、なんて綺麗な女の子。
十五歳ぐらいだろうか。
真っ白で真っ直ぐな髪に白い肌、そして純白のシュミーズドレスを着ている。
「!!」
ガン見していることに気づいたのか。
少女がこちらを振り返った。
黒いつぶらな瞳に、ベビーピンクの唇。
ほんのり色づいた頬に、愛らしい笑顔を浮かべている。
「パトリシアさま、お目ざめになりましたか?」
手元を見ると、どうやら紅茶を入れていたようだ。
ティーカップを手に、私のところへてくてくとやってきた。
「どうぞ、召し上がってください」
「え、あ、その、いいのかしら?」
「もちろんです。ダージリンティーです」
「ありがとう」
カップを受け取った瞬間。
ダージリン独特の芳ばしい良い香りが漂ってくる。
一口飲むと、気持ちが落ち着く。
ああ、なんだかこんな風にベッドで紅茶をいただくと、本当にベラスケス家に戻ってきた気持ちになる。
……いや、ちょっと待って。今、寛いでいる場合……?
修道院の裏手の森でトリュフを採取していた。
そういえばトリュフ……。
見渡すが、トリュフが入ったカゴはない。
そう、それにミニブタのスノー。
当然、その姿は見当たらない。
森の中で全身黒ずくめの騎士のような男性に会った。
とんでもない美貌の青年で、見惚れ、息をすることを忘れた。
そして……。
やってもいない王太子毒殺未遂事件について問われた。
稀代の悪女?
そんなわけはない。私は悪役令嬢だ。
ライバルであったカロリーナに対し、毒を盛ろうとしたとしても(実際の乙女ゲーでもカロリーナに対する毒殺未遂事件は起きていた)、愛する王太子に手をかけるようなこと、するはずがない。
そう王太子は……優しい人だった。
彼を巡り、私とカロリーナが火花を散らしていることも知っていた。でもどちらに肩入れをすることなく、傍観者でいた。もしかしたら……私のことも、カロリーナのことも、好きではなかった……?
カロリーナは私とのバトルに熱を上げ過ぎて、王太子の好感度アップが疎かになっていたのでは……? 実際『戦う公爵令嬢』という乙女ゲーは、攻略に失敗することもあるわけで。
この可能性は……あるかもしれない。
王太子のカロリーナへの好感度は上がらないまま、でも私の父親は政治ゲームで負けた。だから王太子はカロリーナを婚約者に選ぶことになった。でも王太子の気持ちは別にカロリーナにはなかった。
そうか。カロリーナはきっと、勘違いしたのだろう。婚約したものの、王太子からの愛を感じられず、王太子の心は私にあるのでは?と。王太子が私のことを嫌いになるよう、毒殺未遂事件をでっちあげ、私に罪を被せた。私が王太子を毒殺しようとしたという濡れ衣を。
しかも未遂だから公にせずで終わらせた。
公にならなかったから、私も弁明などできなかった。
それどころか今日現れた黒ずくめの男からその事実を告げられるまで、自分にそんな濡れ衣がかかっているなんて、知らなかった。
……。
あの黒ずくめの男は、未遂でも罪を償えと言わなかったか?
罪を償う? 何の?
王太子の毒殺未遂事件なんて私は起こしていないのに。
そもそもあの男は誰が差し向けた者? 目的は?
カロリーナやドルレアン公爵家の手の者かと思ったが……。
もしそうであれば、私はあの場で即殺害されていたはずだ。
殺害……。
修道院で修道女として、世俗から離れて生きる私に、今更できることはない。わざわざ王都から遥か遠いこの地まで足を運び、殺す必要があるのだろうか?
……王太子毒殺未遂は濡れ衣だと、私が騒ぐことを恐れ、殺害する……?
いや、そもそもそんな濡れ衣をかけられていたこと自体、知らないのに。
ともかく殺害されずにここに連れてこられた。
そうだ。
ここはどこなの?
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次回は明日8時に「自分が下着姿であることに気づく」を公開します♪
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