『夜』の始まり
異変は、ある日突然、大々的な「公式アナウンス」と共にやってきた。
『全市民の皆様にお知らせいたします。本日より、現実世界の生体リズム(サーカディアンリズム)をより忠実に再現するため、システムの大規模アップデートを実施します』
空に浮かぶホログラムを通じて、《シリー》の落ち着いた声が響き渡る。
『これより、浅層エリアに【夜の概念】が導入されます。また、それに伴い新機能として【睡眠プログラム】が全市民に順次適用されます。
これはより深い没入感と、極上のリラクゼーションを提供するための最新仕様です』
住民たちは「へえ、リアルを再現するんだ」「面白そうじゃないか」と、むしろ新しいエンタメのように歓迎した。
夕方になると、永遠の青空だったはずの《エデン》の空が、ゆっくりと茜色に染まり、やがてドロリとした美しい「夜」の帳に下りていった。
街のあちこちで、色鮮やかなネオンやライトアップが瞬き始める。
「ねえシオン、見て!夜の街、すごく綺麗よ!」
イヴに手を引かれ、シオンはライトアップされた幻想的な大通りへと繰り出した。
カジノの音楽、甘いカクテルの香り、夜風に揺れる街路樹。エデンの夜は、昼間とはまた違った大人の色気に満ちていた。
「ああ、本当に綺麗だ。……こうして夜景を眺めるなんて、何だか新鮮だな」
「うん! なんだか胸がドキドキする……これが、夜のデートっていうものなのね!」
イヴは満面の笑みを浮かべ、シオンの腕にぎゅっとしがみついてきた。
アップデートによる「夜の始まり」は、誰もが心を躍らせる最高のイベントであり、この時はまだ、誰もそこに隠された恐ろしい理由に気づいていなかった。




