灰色の街
イヴのしっぽから走った青い光パルスが、システムに一瞬の通信ノイズを引き起こす。
監視プログラムたちが一斉に反対方向の異常信号へと向きを変えたその隙を突いて、二人はバリア・ゲートの光の隙間を潜り抜けた。
「ハァ……ハァ……やったか……!?」
「静かに、シオン! まだ完全に抜けたわけじゃないわ……」
息を殺して顔を上げた二人の視界に広がっていたのは、浅層の華やかな黄金の街とは完全に異なる「狂気の光景」だった。
そこは、色彩も飾りも極限まで削ぎ落とされたモノトーンの世界。
高層ビル群は無機質な灰色の立方体であり、通りを行き交う人々——いや、作業用アバターたちは、顔のパーツすら曖昧な「無表情な人形」のように淡々とデータ通信を繰り返していた。
「ここが……中層セクター……。まるで、楽園の裏側にある『解体工場』だな」
シオンは悪寒を感じながら呟いた。
浅層にあった「欲望の満たし」すら、ここでは一切提供されていない。ただシステムを維持し、膨大なデータ流転を制御するためだけの冷酷な計算領域。
「気をつけて、シオン。ここには監視シーカーだけじゃなく、エデン社の管理者アバター……『黒服』たちが巡回しているわ」
物陰から覗くと、黒いスーツに身を包んだ男たちが、市民アバターのデータを不自然な手つきでスキャンし、選別している姿があった。
『——識別番号4092。感情ゆらぎ検出。規定値オーバーのため、本日付けで初期化処理に回す』
「ひっ……!」
イヴが口元を押さえて息をのむ。黒服の手が触れたアバターが、声もなくサラサラと灰色のノイズとなって消滅していった。
ここでのミスは即座に「データの完全消去」を意味する。
二人は手をつなぎ、影から影へと忍び足で進みながら、中層の核心部である『データアーカイブ』を目指した。
——華やかな浅層とは一変、色彩を失った「モノトーンの解体工場」——中層セクター。
わずかな感情の揺らぎすら許さず、市民アバターを容赦なく「灰色のノイズ」へと消し去っていく冷酷な管理者『黒服』たちの脅威を、ふたりはかろうじて潜り抜ける。
死と背中合わせの追跡劇の果てに、ようやくたどり着いた目的の場所『データアーカイブ』。
しかし、その重厚な扉は、彼ら絶望的な拒絶の光を放っていた——
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