記憶の記録
「……よし、これで出来上がりだ」
シオンは額の汗を拭い、手のひらの上に出来上がった冊子を愛おしそうに見つめた。
無骨な革装調の表紙に、少し厚みのある羊皮紙のような質感。そして、かすかに漂うツンとしたインクの匂い。
《エデン》においては本来、あらゆる情報処理と思考がデジタルテキストとして瞬時にクラウドへ同期される。
だがシオンは、システムログの死角となる最下層プロンプトを改ざんし、電子化(テキストデータ化)の属性を持たない『純粋な描画オブジェクトとしての紙とインク』を創り出すことに成功していた。
「わあ……! これが、昔の人間が使っていた『紙』と『ペン』なのね」
イヴが蒼い瞳を輝かせ、おそるおそる指先で紙の表面を撫でた。
ザラりとした心地よい摩擦感。デジタルデータと異なり、これは文字情報としてシステムにスキャンされることも、アルゴリズムによって自動圧縮・書き換えされることもない。
ただの「絵」としてそこに存在するだけの、最も強固なアナログ防壁だ。
「これから毎晩、睡眠プログラムが起動する直前に、俺たちが過ごしたその日の出来事と本当の記憶を、このノートに手書きで書き残すんだ」
「うん! これなら、眠っている間にシステムの自動更新(改ざん)が入っても、目を覚ましたあとにこの本を読めば『本当の過去』を取り戻せるわね!」
イヴの背中から伸びる『しっぽ』が、ご機嫌な猫のようにゆったりと揺れた。
ふたりは最初のページに自分たちの「真実の記憶」を手書きで記した。
だが、記憶を守る術を得ただけでは、この世界に囚われたままだ。
「なぜエデン社は記憶を改ざんするのか」「この楽園の裏で何が起きているのか」。真相を突き止めるため、シオンとイヴは浅層エリア『バビロン』を抜け出し、エデン社が直接管理する『中層セクター』へ潜入することを決意する。
浅層と中層を隔てるのは、天を突く巨大な光の境界壁『バリア・ゲート』。
そこには一般市民を寄せ付けないための厳重な監視プログラムが巡回していた。
「シオン、正面突破は無理よ。でも……私に考えがあるわ」
イヴは物陰に身を潜めながら、しっぽの先端を壁面の環境制御ノードへそっと押し当てた。
——不完全な記憶を守る術「アナログの日記」を手にした二人は、世界の真相を追うため浅層エリアを脱出する決意を固める。
だが、彼らの前に立ちはだかったのは、浅層と中層を隔てる光の境界『バリア・ゲート』。そして、冷徹に巡回する監視プログラムの群れだった。
一歩間違えれば、即座に捕獲され、初期化される。逃げ場のない境界線で、イヴが静かにその『しっぽ』をノードへと差し込む——
果たして二人は、この厳戒態勢を突破し、楽園の真実へたどり着くことができるのか!?
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
なぜエデンは記憶の改ざんをしていくのか、これから少しずつ明らかになっていきます。
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