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推しが27歳で死んでしまうので、マネージャーになって未来を変えます  作者: Liino
第2章 これから起こる未来を知っている、アイドル運営

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33. 少し遅れた歓迎会


 テレビ局での収録を終えた数日後、次のレッスンの予定を確認していると、優が私の手元を覗き込みながら「この日の夜って、何か予定あります?」と尋ねてきた。


「特にはないですけど、どうしました?」

「じゃあ、ちょっと残ってください。この前の寿司の話、まだ終わってないので」

「……寿司?」

 聞き返してから、夏のイベントで玲が体調を崩したあと優が何を言っていたのかを思い出した。あのときは玲が必要以上に気にしないよう冗談で話を変えてくれたのだと思っていたけれど、どうやら本人は忘れていなかったらしい。


「春さんの歓迎会です。俺らでも話してたんですけど、入社してから一回もちゃんとやってないじゃないですか」

 隣から麗央がそう補足すると、凪も「寿司ならちゃんとした歓迎会になるよね」と当然のように頷いた。


 いつの間に五人でそんな相談をしていたのか。頭が追いつかないまま話を聞いていると、近くにいた佐伯さんまで「そういえば、落ち着いたらって言ったままだったね」と予定表を開き始める。

 私としては、一緒に食事をする機会があるだけでも十分に嬉しい。まさか五人の方から誘ってもらえるとは思っていなかったので、何と答えればいいのか考えているうちに話は開催する方向で進んでいた。


 ただ、佐伯さんが自分の予定も確認しているところで、麗央が少しだけ姿勢を正した。

「それで、お願いがあるんですけど。今回は俺らと春さんの六人でやらせてもらえませんか」

「六人で?」

「俺らが春さんを歓迎する会にしたいんです。会社の人や先輩たちも一緒だと、春さん、気を遣っちゃうと思うので。お店の手配も俺らでやります」

 いかにももっともらしい理由に優と凪が揃って頷いた。私はそこまで気を遣っているつもりはなかったけれど、すでに店の候補まで決まっていると聞けば、口を挟む余地もなくなる。


 佐伯さんはすぐには返事をせず、麗央の顔を見てから、こちらへ視線を移した。

「基本的には仕事以外でメンバーと担当者だけの食事会はしないことになってるんだよね。歓迎会でも、そこは同じなんだけど……湯河さんはみんなとも歳が近いし」

 そう言いかけたあと、佐伯さんは五人を見渡し少し困ったように笑った。


「でも最近、自分たちから何かやりたいって言ってくること増えたよね。デビューしたばかりの頃より、ずっと楽しそうだし」


「だから、楽しく仕事ができてるお礼を春さんにしたいんです。準備も俺らでやりますし、仕事の担当者だっていう線引きもちゃんとしますから」


 麗央が重ねると、佐伯さんはしばらく考えてから「外のお店じゃなくて、会社のラウンジなら相談してみようか」と答えた。


 個室を取ったとしても、店の出入りまで人目を避けられるわけではない。私が担当マネージャーだと知らない人に見られれば、若い女性一人を囲んで五人が食事をしているようにしか見えないかもしれないという話には、私もすぐに頷いた。


「湯河さんなら、そのあたりの線引きはしてくれると思うし。ほかの社員まで呼ぶとなると、これまでの歓迎会との兼ね合いもあるしね。今回は社内で六人、時間を決めてやる形で確認しておく。ただし準備から片付けまで自分たちでやるんだよ」


 佐伯さんに念を押され、五人がそれぞれ返事をした。


 私にも改めて都合を確認すると、麗央は早速ラウンジの利用時間について相談し始めた。その隣では優と凪がスマートフォンを見ながら何かを選んでいて、いつもこちらが予定を決めて伝えている五人が、私の知らないところで準備を進めていく。


 その後ラウンジの利用も認められ、歓迎会の日取りが決まった。会社で開くのだから食事の予算も佐伯さんと相談して決めるのだろう。私はそう思い、当日の予定に少し照れくさくなりながら【歓迎会】と書き足した。


     ◇


 約束の日、仕事を片付けて会社のラウンジへ向かうと普段はノートパソコンや打ち合わせの資料が広がっているテーブルに大きな寿司桶が二つ並んでいた。


 蓋を外したばかりらしく、優が包みを畳んでいる横で凪が中を覗き込みながら何かを指している。赤身や白身が隙間なく並び、その端には艶のあるたれをまとった穴子や小さな軍艦巻きまできれいに収まっていた。


「……すごい。これ、お寿司屋さんから届けてもらったんですか?」

「そうですよ。春さん、こっち座ってください」

 麗央に窓側の椅子を勧められ、私は思わずテーブル全体を見渡した。六人分の取り皿も箸も用意されていてお茶の入ったカップまで並んでいる。


 いつもなら自分が先に来て確認するようなことが、すでに全部終わっていた。


「あ、飲み物くらいは私が――」

「もう入れてありますよ」

 近くにあったカップを玲がこちらへ寄せたので、伸ばしかけていた手が止まる。


「今日は座っててください。春さんが動いたら、麗央が佐伯さんに言ったこと嘘になるので」

「そうそう。俺らもこのくらいできますから」

 優にまで言われ、私はようやく椅子へ腰を下ろした。


 レッスンを終えた五人はそれぞれ私服へ着替えている。ステージの衣装でも撮影用に整えられた姿でもなく、会社で何度も見ているはずの格好なのに、六人で食事を囲んで座るといつもの仕事終わりとは少し違う時間に感じられた。


「じゃあ遅くなりましたけど、春さんの歓迎会ということで。これからもよろしくお願いします」

 麗央がカップを持ち上げると、他の四人も続き、私は慌てて自分のお茶へ手を伸ばした。


「こちらこそ、よろしくお願いします。こんなに準備してもらってありがとうございます」

 六つのカップを軽く寄せたあと、待ちきれなかったらしい凪が「もう食べていい?」と聞き、優が「乾杯したんだからいいでしょ」と箸を割った。


 私も目の前の寿司へ箸を伸ばしたものの、立派な盛り合わせにまだ少し遠慮があって最初の一貫をなかなか決められない。

 そうしている間に麗央から「春さんが先に選ばないと、凪がずっと我慢してるので」と言われ、隣を見れば、凪が笑いながら私の箸の行方を見ていた。


 慌てて一番近くにある寿司を口へ運ぶと、冷たすぎない酢飯がほどけ、思わず「おいしい」と声が出た。それを聞いた凪が満足そうに笑ったので、もしかすると店を選んだのは彼だったのかもしれない。


「そういえば春さん、俺の動画見ました?」

「メンバー紹介ですか? 今朝、十万回を超えてましたね」

「そう! あれ、俺が会議で言ったやつが十万回も見られてるんですよ」

 凪は箸を持ったまま嬉しそうに言ってから、すぐに「まあ、再生数はメンバーのおかげだけど」と付け足した。

 凪が、どの場面が好きだと言われていたかを話し始める。自分で出した案が撮影され、編集され、知らない人にまで見てもらえることが本人にとっても思っていた以上に嬉しかったのだろう。


「でも、考えたときより出来上がったやつの方が面白かった。みんな全然話が終わらないし」

「凪が最初から長かったんでしょ」

「紹介したいところが多かったんだから、仕方ないじゃん」

 瑛につっこまれても、凪は楽しそうだった。


「瑛さんの動画も十五万回いってましたよ。歌だけじゃなくて、その前に話してるところも見てもらえてますね」

 私がそう言うと、瑛は箸を置きかけた手を止めた。


「見ました。最初は曲の話をあんなにしても、飛ばされるんじゃないかと思ってたんですけど」

「その話を聞いてから、もう一度曲を聴いたって書いてくれてる方もいましたね」

「はい。そういう見方をしてもらえたなら、やってよかったです」

 短く答えたあと、瑛は自分の皿へ目を戻した。そのまま食事へ戻るのかと思ったところで少し考えるように口を開く。


「それで今度、作ってる曲のことも相談したいんです。まだ直したいところはあるんですけどずっと自分の中だけで直してても分からなくなるので、そろそろ会社の人にも聴いてもらえたらと思って」

(……瑛の方から、具体的に相談してくれるんだ)


 自分の中で大切にしていたものを、誰かに聴いてもらおうとしている。その変化が嬉しくて私はすぐに頷いた。

「もちろんです。誰に聴いてもらうのがいいかも含めて一緒に確認しましょう」

 

 瑛が「お願いします」と答えると、その横で凪も「俺も次のオーディションがあったら受けたいです」と話を重ねた。落ちた直後は悔しかったものの、今はレッスンで自分が苦手だと分かったところを直しているらしい。


「受ける前は自信ないから無理かもって思ってたんですけど、一回行ったら次は何とかしたいって思うようになって。だから、あのとき勧めてもらえてよかったです」

「凪、最近ずっと台本持ってるもんな。車の中でも何かぶつぶつ言ってるし」

「覚えてるんだよ。優だってダンスの動画見ながら、座ったまま動いてるじゃん」

「俺らの動画もまだ伸びてるからね」


 優がそう言って玲へ顔を向けると、玲は頷きながら「次も何かやるか」と返した。

 話題が、終わった仕事から自然と次の仕事へ移っていく。私が一人ずつ何をしたいか尋ねなくても、瑛の話を聞いて凪が自分のことを話し、そこから優と玲が次の動画の相談を始めていた。


 今日は歓迎会のはずなのに結局いつものような話になっていることが少しおかしくて、私はお茶を飲んでからもう一つ決まったことを伝えた。


「そうだ、麗央さんのグループ紹介も撮影することになりましたよ。細かい進め方はまた一緒に相談させてください」

「本当ですか? グループにまつわることをクイズにしてメンバーが答えていく形とかって、どうかなと思ってたんです。どうやったら見てる人にも面白く紹介できるか何となく考えてて」

 麗央自身も楽しみにしていたらしく、どこまで決めて撮るのか、誰から答えるのかと、少し具体的な話を始める。


「前はグループのことを聞かれたら俺が代表してちゃんと答えなきゃって思ってたんですけど、この前みんなに聞いたら俺だけじゃ出なかった話も結構あったので。答えを用意するだけじゃなくて、そういうのを聞いて回るのも俺がやれることなんだなって最近ちょっと分かってきました」


 いつも誰かに話を振っている麗央が自分の役割についてそう話すのを私は箸を置いて聞いていた。本人にとって自然にできていたことでも、それが企画になり実際に動き始めるとまた違った手応えになるのかもしれない。


「俺は単純に、春さんが来てから楽しいですけどね」

 優が何でもないことのように言ったので、私は顔を上げた。


「思いついたことを言いやすいから。すぐできるかどうかは別でも一回ちゃんと話聞いてくれるし、じゃあ次これ言ってみようかなってなる。春さんが笑ってるとこっちも気楽に話せるし。何より、春さん可愛いし〜」


(いきなり真面目なこと言うから、照れる……! 最後はいつもの優だけど)

 どう返せばいいのか迷っていると、麗央が少し面白そうに玲の方を見た。


「優もそうだけど、なんだかんだ一番春さんに懐いてるの、玲だよな」

 話を振られた玲は、寿司を取り皿へ移すと、箸を持ったまま麗央へ顔を向けた。


「練習生の頃から、外部のダンスレッスンとか俺らにも言わずに受けてたのに、今は先にちゃんと春さんへ送ってるじゃん。何のレッスン受けるかまで。大きな進歩だよ」


「……知っててほしいと思ったから」

 玲は表情を変えず、当たり前のことを言うようにそう答えた。

 

「あっ、玲さん、いつもご連絡ありがとうございます! プライベートの予定でも、教えていただけるとスケジュールを組むときの参考になりますので……今後とも何卒……」

 

(なんか、照れすぎて仕事のメールみたいな返しになった……)


 言い終わってから自分の妙にかしこまった口調が恥ずかしくなったけれど、すかさず優が片手を上げた。


「あ、俺も俺も! 明日の夜、時間ありそうなので、牛丼かカレー食べに行こうと思ってます!」

「俺は映画見ようと思ってて、何見るか決まったら連絡します!てか春さんも一緒に見ますか?」


 凪まで続けて報告を始めたので、どこまで本気なのか分からず二人を見比べていると、麗央が呆れたように笑った。


「お前らは春さん困らせるな。何でも報告すればいいって話じゃないから」 


 優と凪が揃って笑い出す横で、玲もわずかに口元を緩めていた。私はその顔を見てまた返事に困り、ひとまずお茶を一口飲むことにした。


     ◇


 食事が進み寿司桶の中にも少しずつ隙間ができ始めた頃、私はテーブルの端に置かれていた店の袋へ目を向けた。

「そういえば、今日の領収書って佐伯さんに渡す形ですか? 私からまとめて出した方がよければ、あとで預かりますけど」


 そう尋ねると麗央が一度優と顔を見合わせてから、こちらへ向き直った。


「あ、これ、会社の経費じゃないです。俺ら五人で出してるので」

「……え?」

 意味を理解するまで、少し時間がかかった。


 会社のラウンジを使って、佐伯さんの許可ももらって開く歓迎会だ。当然、食事の代金も会社から出ているのだと思っていたけれど、麗央は私が驚いていることを予想していたように落ち着いた顔で話を続けた。


「給料からみんなで少しずつ出しました。五人で相談して決めたので大丈夫です」

「待ってください。それなら私の分は払います。皆さんのお給料で、こんな――」

「春さんが払ったら歓迎会にならないじゃないですか」


 玲に言われ、鞄へ伸ばしかけた手が止まった。

 この事務所ではメンバーのお給料は三ヶ月ごとにまとめて支払われる。デビューして、メンバーが給料をもらったのはまだ二回目のはずだ。きっとそれぞれ使いたいものがあったはずなのに、その一部を私のために使ってくれたということだった。


「最初は玲に奢ってもらおうと思ったけど、春さんの歓迎会なら俺らも出すでしょ。寿司の店も五人で決めたんですよ」

 優があっけらかんと言うと、凪が「俺、寿司ならここのがいいって言った」と少し得意そうに続けた。


 だから私が最初の一貫を食べたとき、あんなにこちらを見ていたのかもしれない。

 メニューを眺めて何を頼むか相談する五人や、私が好きかどうかを気にしながら注文している姿を想像した途端、うまく言葉が出てこなくなった。


「……そんなふうに気を遣ってもらわなくても、私は仕事で――」

「仕事なのは分かってます」

 麗央が静かに言ったので、私は途中で口を閉じた。


「動画が伸びたのも、テレビに出られたのも嬉しいんですけど、それだけじゃなくて。俺らが何をやりたいか、ちゃんと聞いてくれる人が来てくれたのが、五人とも嬉しかったんです」


 麗央は手にしていた箸を置き、言葉を選ぶように少し間を取ってから続けた。


「デビューしたときは自分たちが仕事のやり方にどこまで口を出していいのかもよく分かってなくて。周りは年上のスタッフさんばかりだったし、決まったことを頑張ってやるのが俺らの仕事だと思ってたんです。でも春さんはまだできるかも分からない話でも、一回持って帰って考えてくれるじゃないですか。俺らのことそんなに一生懸命考えてくれるんだなって思ったので、今日はちゃんとお礼を言いたかったんです」


 麗央の話を聞きながら、私は何度か頷いた。

 そのつもりだったのに、途中から目の前の顔がぼやけて、瞬きをすると頬へ温かいものが落ちた。


「……あれ」


 自分でも驚いて指を当てたけれど、一度出た涙は簡単には止まらなかった。


(どうしよう。みんなを困らせちゃう……)


 五人が私のいないところで何を話し、どんな気持ちでこの食事を用意してくれたのかを、私はどこまで想像できていただろう。自分が担当している人たちから、来てくれて嬉しいと、こんなふうに言ってもらえるとは思っていなかった。


 けれど、その言葉をそのまま受け取ろうとすると、別のことまで一緒に思い出してしまう。

 朝陽に会うために、仕事の確認を理由にしてわざわざメンバーとは別にテレビ局へ入ったこと。元彼が私との再会を気にしてくれていたと知っても、私の頭の中には、玲について何を聞けばいいかという考えがあったこと。


 定例会議を作ろうと思ったときにも、理由は五人のやりたいことを聞きたいからだけではなかった。

 二年後にコロナが来て今みたいに会える機会が減っても、動画の企画や相談という理由があれば五人と話す機会を残せる。玲の様子を知り、誰にも見えないところで何が起きているのか、少しでも気づけるようになるかもしれない。


(……私はこんなふうにお礼を言ってもらえるほど、立派な人間じゃないのに)

 

  五人のために作ったつもりの場所を、私は玲の死を防ぐための手段としても考えていた。朝陽に会いに行ったことだってマネージャーとして必要な仕事だけをしていたとは言い切れない。


  けれど、マネージャーとして嬉しかったことまで嘘だったわけではない。メンバーが何かをやりたいと言えば実現したくなったし、視聴者の反応がよければ自分のことのように喜んだ。テレビ収録の帰りに玲へ答えた、五人の活動を見届けられるのが嬉しいという言葉も、あのとき浮かんだ本当の気持ちだった。


 それでも、どうしてそこまで必死になっていたのかと聞かれたら、私は麗央と同じようにまっすぐな言葉では答えられない気がした。


 (ーー誰にも言っていない理由の真ん中にはいつも、二十七歳でいなくなってしまう玲がいたから)


「春さん、そんなに泣く?」

 優の声に顔を上げると、さっきまで笑っていた五人が、今度は揃って戸惑ったように私を見ていた。


「すみません。……ちょっと、嬉しくて」


 嬉しいのは本当だったので、そう答えることはできた。

 けれど、五人には見せられない気持ちがほかにもあるせいで、それ以上話そうとするとまた喉が詰まってしまう。


 隣からティッシュの箱が差し出され、顔を向けると玲が何も言わずにこちらへ寄せてくれていた。私は礼を言って一枚取り目元を押さえた。


 「こんなに喜んでもらえるなら、もっと早くやればよかったな。俺、もっと普通に食べて終わると思ってた」

 優が照れたように笑う。


 五人には、歓迎会が嬉しくて泣いているように見えているのだろう。そのことに救われる一方で、余計に申し訳なくもなって、私はしばらくうまく顔を上げられなかった。


「……皆さんみたいな五人の担当になれて、本当によかったです。ありがとうございます」

 ようやくそう答えると、麗央が少し安心したように笑った。


「こちらこそです。だから今日は、遠慮しないで食べてください。春さん、さっきから全然減ってないので」

 見ると、私の取り皿には途中で置いたままになっていた寿司が残っていた。凪が「こっちの穴子もおいしいですよ」と寿司桶を寄せてくれるので私は笑いながら頷き、もう一度箸を持った。


 まだ話していないことも、答えの出ないこともある。それでも五人が選んでくれた食事を前に、いつまでも自分の中だけで考え続けているのは違う気がした。


 優が次のダンスカバーについて話し始め、凪が自分も出たいと言い、瑛が「まず何を踊るか聞いてから言えば」と口を挟む。麗央が笑いながら話を戻し、玲も今度は自分が気になっている曲について話し始める。

 私はその声を聞きながら、小さく鼻をすすって、寿司を口へ運んだ。


 この歓迎会を懐かしいと、いつか思い出す日がくるなら。

 玲を救うために必要だった日としてではなく、目の前にいる五人が私のために準備してくれた日として覚えていたいと思った。

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