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推しが27歳で死んでしまうので、マネージャーになって未来を変えます  作者: Liino
第2章 これから起こる未来を知っている、アイドル運営

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28. あの日見ていた動画の現場にいること


 別に、その動画を一本見ただけで急に仕事ができるようになったわけではなかった。翌朝から会社へ行くのが楽しみになったわけでもなく、次の日になればまた先輩に案を直されて落ち込んだ。会議でうまく発言できなければ自分には向いていないのかもしれないと考えることだって、そのあと何度もあった。


 それでもあの日の私はもう少しだけ頑張ってみようと思えて、そのあと何となく桜島玲という名前を検索してLYRENというグループを知り、気づけば別の動画まで見ていて、その日を境に少しずつ彼らのことを追うようになっていった。


 いつから自分を「ファン」と呼ぶようになったのかまでは今となってはもう覚えていないけれど、ただ、その始まりだけはずっと覚えていた。


 仕事で自信をなくし、自分には何もできないような気がしていた二十二歳の夏に、たまたま開いた記事の中で踊っていた名前も知らなかった十九歳の男の子。


 そして、その男の子が何気なく口にした

『もっともっと上手くなりたいと思っています』

 という言葉。


     ◇


「――ありがとうございました!」

 スタッフの声が聞こえた瞬間、意識が一気に現在へ引き戻された。


「…………」

 一瞬、自分がどこにいるのか分からなかった。


 目の前にはイベントロゴの入ったパネルがあり、その前では撮影を終えた五人がスタッフへ頭を下げていて、少し離れたところでは次の出演者のためにカメラや照明を動かし始めている人たちがいる。


 ついさっきまでスーツのままベッドへ倒れ込んでニュースサイトを眺めていた二十二歳の自分を思い出していたせいで、八年前と今の境目がほんの一瞬だけ曖昧になったような、不思議な感覚が胸の奥に残っていた。


(……この動画が、ちゃんと世の中に出ることになって本当によかった)


 この動画を見て、あの頃の私と同じように少しだけ励まされる人がいるかもしれないと思うと改めて胸の奥がじわじわと熱くなっていく。


 未来の私はあの映像を何度見返しても、玲があの言葉を話した日にどんな一日を過ごしていたのかまでは何も知らなかった。

 朝早くから会場へ入り強い日差しの中でリハーサルをして、そのあとヘアメイクや本番の準備をしていたことも、本番を終えたあと一時的に体調を崩してコメント撮影に出られるかどうか分からない状態になっていたことも、それでも少し休んで体調を整え、こうして何事もなかったようにカメラの前へ立っていたことも。


 私が知っていたのは、カメラの前で質問をされ、少しだけ考えてから自分の言葉で淡々と答えていた十九歳の玲だけだった。

(……当たり前だけど、表に出てないことなんてたくさんあるよね)


 未来のインタビューやライブ映像をいくら見返しても知ることのできなかった十九歳の玲が、こうして近くにいると少しずつ私の中に増えていく。

 

 私は撮影を終えた玲のところまで歩み寄った。

「体調はもう大丈夫ですか?」

 そう声をかけると、玲は少し気まずそうに視線を逸らしながら頷いた。


「もう本当に大丈夫です。……すみません。迷惑かけたくないと思ってたのに、結局こんなに迷惑かけて」

 その言葉を聞いた瞬間、近くにいたメンバーたちの表情が少しだけ曇った。


 玲自身は反省しているだけなのだろうけれど、周りからすれば体調を崩したことそのものよりも、そんなふうに申し訳なさそうに謝られることの方がかえってどう反応していいのか分からないのかもしれない。

 そんな一瞬の沈黙が流れたあと、優が口を開いた。


「そうだな! じゃあ今度、寿司奢ってよ、玲。高いやつね」

「……え?」


 玲が呆れたように優を見る。


「俺らと春さんに! そういえば春さんの歓迎会って、ちゃんとやってないでしょ?」

「何で俺がお前にも奢るんだよ」

「迷惑かけたんでしょ?」

「……優にはかけた覚えはない」

「うん。俺以外もみんな、迷惑かけられたなんて思ってねーよ。でも玲がそれじゃ気が済まないっていうなら、寿司奢って!」


 さっきまで少し神妙だった空気が一気にいつものものへ戻っていく。

 麗央が横でふふっと笑い、凪も「俺は寿司なら行きたい」と当然のように話へ入ってきて、瑛まで少しだけ口元を緩めていた。


 その様子を見ながら私は何となく安心した。

 玲が体調を崩したことはもちろん心配だったけれど、こうしてメンバーたちが必要以上に深刻にせず、普段と変わらない距離感で接しているのを見ると、玲にとってもその方がいいのかもしれないと思えた。


     ◇


 それから数日後。


 先日のイベントで撮影されたWEB用の動画と記事が公開された。会社のパソコンで内容を確認していた私は、玲のコメントがきちんと掲載されているのを見て思わず少しだけ画面へ顔を近づけた。


『もっともっと上手くなりたいと思っています』

 文字になったその言葉を見ても、もう頭に浮かぶのは昔ニュースサイトで見た数分間の映像だけではなかった。


 朝から暑い会場でリハーサルをしていたことも、凪に冷却シートを渡していたことも、本番を最後まで踊り切ったあとで壁へ手をついていたことも、少し休んだあとにこうしてカメラの前へ立っていたことも、全部一緒に思い出される。


(……本当に、見え方変わったな)


 未来で何度も見た動画なのに、その裏側を知っただけでまるで別のものに見える。

 そんなことを考えながらページを下へスクロールしていると、少し離れた席にいた佐伯さんから声をかけられた。


「湯河さん、来週なんだけどLYRENにテレビ収録入ったから案件担当してもらえる? 深夜の音楽情報番組なんだけど……今回のイベント映像を見たスタッフさんが声をかけてくれたみたいで」


「分かりました。確認します」

 そう答えながら、すぐに共有されたスケジュールを開く。


 収録日、集合時間、番組名、局名。


 一つずつ目を通していき、そこに書かれていた放送局の名前を見た瞬間、指が止まった。


(……あ、この放送局って)

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