第4章1
第4章
私の名前は☓☓凛。 当然☓☓という名字ではない。 私は一人娘だ。名家ってやつで、どうやら裕福らしい。 父は跡継ぎにするため、子どもは男がよかったらしい。女として生まれた私は、その時点で期待から外れた。 別に、期待されたかったわけではない。父と話すこともここ数年ない。 そんな私が父と数年ぶりに会話を持った。私が父に何かを願ったわけじゃない。お互いの利害が一致しただけのことだ。さて私の自己紹介はもういいから話を進めよう。まずは、なぜ警察署長と副署長がうちに来ることになったのか。そして、なぜ私が捜査対象から外されたのかを話そう。
話の初めは十一月二十六日。鳴海が初めて私に接触してきた日だ。
鳴海からアリスの死を告げられたあと、ファミリーレストランに連れて行かれた。
私は一度席を外した。そのままファミレスのトイレの個室に入り、携帯電話を取り出した。録音機能を起動するためだ。その後、しばらく機能を確認し、席へ戻った。
鳴海が私に何を尋ね、私が何を答えたのか。あとになって話が食い違わないよう、またなにかに使える可能性があると思い録音を続けることにした。それが具体的に何に役立つかは分からなかったが、残して困るものでもない。
翌日、私はショッピングモールの大型家電量販店へ行った。そこでボイスレコーダーを2台買った。1台は予備だ。ボイスレコーダーは長時間録音ができ、2メートル程度の距離なら、十分にはっきりと録音できるものを選んだ。大容量のSDカードも忘れず複数枚購入した。どれだけ用意をしてもしすぎることはない。
それからは毎日放課後になると、校門を出る前にボイスレコーダーの録音機能をオンにした。それをブレザーのポケットに忍ばせた。鳴海が現れた日も、現れなかった日も同じようにした。何もなかった日には、風の音や、電車の音や、私が歩く音だけがSDカードに残った。
鳴海との会話は、最初から最後まですべて残っている。
私の家の近くで待っていたこと。任意の聴取であるにもかかわらず、何度も答えを求めたこと。私がアリスに薬を飲ませた可能性や、自殺を手助けした可能性を並べたこと。私が立ち去ろうとしたとき、右腕をつかんだこと。
その日のうちに、私は父へ話があると伝えた。
父も警察からの連絡にうんざりしていたのだろう。話はスムーズに済んだ。
父に、懇意にしている弁護士を紹介させ、携帯電話の会話のデータとボイスレコーダー、SDカードをすべて渡し、よきように計らってもらった。結果は知っているはずだ。鳴海は外され、私への干渉もなくなった。
しかし、鳴海が間違っていたわけではない。
「君は忘れているんじゃない。逆だ。全てを覚えている。そして覚えていることを、本当のことを話さないんだ」
鳴海の言葉はすべて正しい。
私は自分の見聞きしてきたことをすべて覚えているし、話す内容を選別している。
そして、私は嘘をつかない。
鳴海は私を追いかけ続け、「あなたは、白石さんがどうして亡くなったのかを知っている。知っているから話さないんです。違いますか」と問いかけた。
もしこの質問に「はい」と答えていたら私は負けていた。
私は鳴海を翻弄していたのではない。優勢に見せていただけだ。
あの人との戦いは、最後まで紙一重だった。
今まで話さなかった私自身のこと。
録音を利用し、警察から干渉されないようにしたこと。
私が見聞きしたことは、決して忘れないこと。
鳴海に、あと一歩まで迫られていたこと。
どれもずっと話したいことだったけど、一番伝えたい話をまだしていない。
そう、アリスのことだ。




