3-5
「アンリから改めて、ローランに説明しておくように」
主君に厳重に言い渡され、アンリは渋々、ローランが待つ別室に向かった。
(憂鬱……)
確かにアンリは今、誰かの手助けが必要な状況だ。
同時にそれは、借りを作る行為でもある。できる限り最小限に押さえたいところだ。
「待たせたな」
「……」
別室で待っていたローランは返事をせず、眉を上げた。
他の皆には、決して不満や不機嫌を見せないが、アンリに対しては辛辣な部分がある男だ。
ーーまあ、アンリの生家セネヴィル家はローランのシャルトル家とは犬猿の仲なので、当然と言えば当然の反応だが。
(返事もしないとか、腹立つな!)
しかしシリル王子に重々「喧嘩をしないように」と言い含められているので、ぐっと堪える。
「説明しておきたいことがあるから、俺の部屋に行こう」
王子からはまず、王城内の私室を案内しておくように言われていたので、アンリはローランと連れ立って自室へ向かった。
アンリは筆頭騎士として騎士の宿舎に一部屋、そして王城の第二王子の私室の近くにもう一部屋、自分の部屋を与えられている。それはローランも同様だ。
騎士宿舎の部屋は他の騎士の目がある。
アンリの部屋にローランが頻繁に立ち寄れば、変な噂が立ちかねない。
一方で王城内の二人の私室は、王子たちの私室もある最上階にあるので、みだりに人が寄りつくことのない区域だ。少なくとも騎士宿舎よりは安全である。
「どうぞ」
アンリはローランを自室に通し、中央のテーブルの椅子をすすめた。
シリル王子と話していた時は、随分と迷惑そうな顔をしていたが、今は落ち着いたのか諦めたのか、いつもどおりの冷静な顔つきだ。
彼は改めてアンリの全身を眺め、先ほどと同じ、見たままの感想を口にした。
「見た目は全然変わらないな」
「シリル王子が言ったとおり、幻影魔法をかけているからな」
未だに「信じられない」といった様子のローランに、
「えっとーーもう一回触って確かめてみる?」
と尋ねると、無言で思いっきり睨まれた。
(何でだよ! これが一番手っ取り早い方法だろ!?)
しかし、男が女に変貌するという謎の現象について多少の興味はあるらしいローランは、気を取り直すとすぐに、矢継ぎ早に質問してきた。
「君が女性になったのは……一週間前だよな?」
「うん」
「体調不良と聞いたが、体の変化で気分とかは悪くならなかったのか?」
「大丈夫。休んだのは、ずっと魔法の勉強をしてたからだ」
「君は、自分自身がどんなふうに見えているんだ?」
「女の実体の上に男の幻影の輪郭がぼんやりと浮かんで見える感じかな」
どうやら「面倒くさい」より興味の方が勝ったようで、次の質問を飛ばしてくる。
「どんな姿なんだ?」
協力関係にあるのなら、答えた方が良い質問に思えるが。
「見せない方がいいって王子に言われた」
「何故?」
ローランとしては、姿形が分かっていた方がやりやすいと考えていたのだろう。少し声が不満げだ。
「幻影魔法は、見る人間の思い込みを利用する部分があるらしい。俺のことが今までどおりの姿で見えるのは、お前が男の姿の俺を知っていて、かつ女の姿の俺を知らないからなんだ。女の姿を見たら、その幻影魔法は破られたも同然で、もう男の姿に見えなくなる。そうなるとローランもやりにくいだろうって」
幻影魔法は、その魔法をかけているところを人に見られては効果がない、とシリル王子に教わった。その旨を説明すると、ローランは大きな溜め息をついた。
「……男だろうが女だろうが、面倒なことには変わりないんだが」
顔に堂々と「面倒臭い」と書いてある。まあ、自分が彼の立場なら同じことを思うだろうから仕方ない。
「悪かったな、巻き込んで。……ただ、今は王子の言うとおり、俺一人じゃ対処できないこともあるかもしれないのは事実だ」
仲良くするよう、シリル王子に釘を刺されたのだ。不本意だが、ローランには頭を下げるしかなかった。
「なるべく早く、この状況に慣れて、一人でも大丈夫だって王子に理解していただくから、それまではごめんな。必ず、埋め合わせもするから」
「……期待しているよ」
ローランは溜め息混じりに、そう答えた。
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