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シリル王子は改めて、ローランの手元にある一覧表を指差した。
「貴方のところの一部の不良騎士に追い回されて、アンリは昔から大分、迷惑かけられているんだよねえ」
「……」
シリル王子が言っていることは事実である。騎士になってから、アンリはやたらと男に絡まれるようになった。シリル王子の言うとおり、そのほとんどは第一陣営の騎士である。
「こちらの陣営は、僕が睨みをきかせていればいいよ? でもさ、貴方たちの陣営には目が行き届かなくてね」
暗に、ローランの指導が行き届いていないという指摘に加えて、
「それにね、お兄様は僕のことを大事にしているんだ」
とローランの主を引き合いに出した。
現在、王位継承権第一位のカミーユ王子は長子であるが、第二夫人の子である。そして次男であるシリル王子は正妃の子だ。
カミーユ王子が王位の一位継承者になるまで、長子か正妃の子かで、随分と揉めた。何故なら第二夫人は美しいが身分が低く、また寵姫であることを利用して権力をほしいままにしようとする毒婦だったからだ。
カミーユ王子は親に似ず真面目な人物だが、彼を継承者にすれば母である毒婦がますます幅を効かせるのは間違いない。
しかし、そんな懸念も、あっさりと解決してしまった。第二夫人が急逝したからだ。
それを機に、シリル王子は、自分は王位継承権を放棄し兄を助けると宣言した。またカミーユ王子は正妃の養子となり、正式な「正妃の長子」となり王位継承権第一位の地位を確かなものにしたのである。
ーーつまり、第一王子は第二王子に多大な恩があり、尊重していた。しかも大層可愛がっており仲睦まじい。
「そしてお兄様は、僕とお兄様のように、貴方とアンリも仲良くしてほしいって言ってた。困難があれば、協力して乗り越えてほしいって」
僕もそう思うなあ、と続けたシリル王子に、
「私を脅すつもりですか?」
とローランが固い表情で応じる。そんなローランに、シリル王子は飄々とした様子で大きく手を開く。
「まさか。僕は貴方に少しだけ、協力してほしいだけだよ」
「……」
「アンリは僕の配下の中で最も強く、最も信頼できる人間だ。手放せないんだよ」
そう言ってシリル王子はアンリに視線を向けた。その眼差しは思いのほか温かく、アンリは主君が寄せてくれる自分への信頼を感じた。
その後、シリル王子は再びローランに向き直った。
「お兄様にとっての貴方もそうでしょう? 信頼できる部下なんて、本当に数少ないんだから」
「……」
「僕の大事な部下が、今までと変わらず僕の騎士として働けるように、ちょっと目配りして欲しいだけなんだよ」
芝居がかったシリル王子の台詞に、ローランは大きく息を吐いた。
「それで……私は具体的に何をすれば良いのですか」
どうやら降参したらしい。シリル王子がにこりと笑う。
「アンリの幻影魔法は完璧だけど、幻影魔法自体に欠点があるんだ。……貴方はもう、分かるよね?」
「……視覚だけしか騙せない、ということですか」
「うん。触ると女の子だって分かっちゃう。着込んだりして嵩を増すようにはするけど、触られないに越したことはないからね」
そしてシリル王子はアンリを振り返った。
「ということだよ、アンリ。ローランと協力して、僕の騎士を続けてね」
満足げなシリル王子とは対照的に、ローランは物凄く迷惑そうな目で自分を見ていた。
「あと、ローラン。しばらくアンリの訓練相手になってあげてね。見た目には分からないだろうけど、アンリの体は前より小柄だし、多分、筋力も落ちていると思う。それをうまく魔法で補いながら、今までと同じよう自然に戦えるように仕込んであげてね」
シリル王子から説明を受けたローランは、さらにうんざりした瞳でアンリを見たのだった。




