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死に戻ったら前世で私を殺した宿敵が溺愛してきます if  作者: しののめ


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九 厳しさと優しさ

 ローランは難しい顔をして騎士棟の廊下を歩いていた。考えていることは、先日の演習の後始末についてである。


 こちらの新人の不手際で、アンリに怪我を負わせたのだ。本来、口先だけの謝罪で済むものではない。アンリは「気にするなよ」と言うが、こちらの気持ちが収まらない。


(改めて詫びの品でも持って行くか)


 詫びの品は後日、厳選するとして。


(あの新人は、どうするべきだろうか)


 ローランはさらに深く考え込む。


(騎士に向いてないな)


 敵を前にして逃げ出す人間は、軍人に相応しくない。

 自分たちは守られる側ではなく守る側であり、絶対に敵(かな)わないと分かる相手であっても、死を覚悟して向かって行く胆力が求められる。


 しかも彼は線が細く中性的な容姿をしているため、素行不良の騎士に目を付けられ、意に染まない扱いを受けかねない。


 不測の事態が起こる前に、騎士の道を断念してほしいところである。


(俺から切り出すのは、最終手段にしたいな……)


 おどおどした自信のなさそうな瞳を思い出しながら歩いていると、声が聞こえた。


「あの、先日は……すみませんでした」


 それは先日の新人騎士の声だった。そして、その騎士が謝罪する対象は一人しかいない。


(アンリか……)


 曲がり角の向こう側で、二人の騎士が向かい合って立っている。ローランは咄嗟に柱の影に身を潜め、様子を窺うことにした。


「謝罪は受け入れる。でも俺から一つ、いいか?」


 そしてアンリは、何一つ忖度(そんたく)することなく、率直に告げた。


「お前は騎士に向いてないよ」

「……っ」


 新人が言葉に詰まる。しかしアンリは構わずに続けた。


「まず一つ。怖いからといって敵から逃げる人間に、騎士は務まらない」


 人差し指を一本立てる。次に中指を立てて二つ目を示す。


「次に、俺は第二陣営でお前は第一陣営だ。融和に努めているといったって、俺たちがライバルであることには変わりない」


 そう言ってアンリは腕を組んだ。ローランと接する際の豊かな表情は封印され、筆頭騎士としての姿を押し出していた。


「お前は俺を見つけたあの時、第二陣営の筆頭騎士に、第一陣営の勇敢な姿を見せつけてやろうって奮い立たなきゃいけなかったんだ」


 アンリの指摘はもっともである。自分なら、アンリに決して無様な姿を晒さない。逆もまた然(しか)りだろう。


「はい……」


 返す言葉もない新人騎士は、しゅんと肩を落とす。

 そんな新人を、アンリはこれ以上追い詰めることはしなかった。組んでいた腕を解き、表情を和らげる。


「なあ、世界って結構広いよな?」

「え?」


 唐突に話題が変わり戸惑う新人に、アンリは微笑みかけた。


「今は、騎士じゃないと出世できない時代じゃないってことだ。騎士になったからといって、絶対に任期を全うしないといけないわけでもないよ。実際、転職を支援する制度も充実してるだろ?」


 武勇を誇る騎士の国フィリウス王国は、もちろん騎士を経ることが出世の近道ではある。しかし、適材適所という合理性を重んじる国でもある。


「道は一つきりじゃない。自分のために、よく考えな」


 突きつける内容は厳しいが、声には温かみがある。


 もし、この新人が第一陣営の最高責任者であるローランに呼び出され、騎士不適の宣告を下されれば、即座に騎士を辞しなければならない。

 それはこの上なく不名誉なことであると同時に、転職支援を利用できなくなる。


 逆に、彼が自ら退職を申し出るならば、猶予期間が設けられ、転職機関を活用することができる。


 アンリは、ローランが彼に騎士不適の宣告を考えていることを見越して、彼に逃げ道を提示したのである。


(お節介だな……)


 自分ならば、彼に宣告をして、それで終わりだ。その後の彼の人生に思いを馳せることもないだろう。

 この新人が転職の機会を逃したとしても、それは引き際を誤った彼自身の責任である、と割り切れる。


 しかしアンリは、このひ弱な騎士の未来を慮ったのだ。


 学生の頃からローランは、そんなアンリの甘さを見るたびに、他の誰にも感じることのない苛立ちを感じてきた。


 ーーそれは心のどこかで、自分とは真逆のアンリのことを、少しだけ眩しく思えていたからかもしれなかった。

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