7-4
※名もなき青年騎士の視点です※
目を覚ますと、女神と見紛うばかりの美しい顔が覗き込んでいた。そのあまりに神々しい麗しさに、
(もしかして、ここは天界……?)
と一瞬思ったが、よくよく見ると知っている顔だった。
(アンリ様……)
第二陣営の筆頭騎士であり、第一陣営に属する自分にとっては、すれ違うことすらほとんどない、遠い存在でもある。
しかし見れば見るほど美しく、目も眩むほどだ。直視できなくて、視線を泳がせながら、尋ねた。
「あの、私は一体……」
するとアンリは心配そうな顔で、状況を説明してくれた。
「お前は溺れていたんだよ。それを俺たちが見つけて、引き上げたんだ」
ああ、そうだったと思い出す。
先ほどの泳法訓練で同僚のように上手く出来なかったことが悔しくて、こっそり自主練習をしていたところ、またもや溺れたのだった。
自分は、あの脳筋と呼ばれる教官を心から尊敬し「筋肉は裏切らない」という彼の言葉を拠り所に弛まず鍛錬してきたが、一つだけ弱点があることに気付いた。
鍛え抜かれた筋肉は、水に沈むのだ。
「苦手を克服しようというお前の意志は立派だけど、水の訓練は単独でやっては危険だ」
続くアンリの言葉は厳しいものだった。そこに、美しいだけではない、筆頭騎士としての厳しさと責任感を兼ね備えた人柄が現れている。
「俺とローランがたまたま残っていなかったら、死んでいたかもしれない」
そう言われてはじめて、第一陣営筆頭騎士のローランもこの場にいたことに気付く。
あくまで自分の陣営の筆頭騎士は彼なのに、アンリにばかり気を取られてローランの姿が全く見えていなかったことに、少し慌てた。
というか、アンリの側にローランがいること自体が驚きである。
(このお二人は犬猿の仲で、仕事以外では、ほとんど接点がないって言われているくらいなのに)
何にせよ、上司の不興を買ったのではないかと不安になる。
……心なしか、ローランの表情が堅い気がする。
まずいと思いながら、浮かれた気を引き締めるように姿勢を正し、
「はい。筆頭騎士のお二人にご迷惑とご心配をおかけしたこと、誠に申し訳なく存じます」
と神妙に答えたが、次にアンリから、
「本当に心配したんだよ。でも、無事で良かった」
と優しく言われて、再び全てが頭から吹き飛んだ。
本人には絶対に言えないが、騎士ーーいや王城いちの美人と囁かれるアンリの微笑みに、とくん……と胸が鳴った。しかも。
(なんか、唇に感触的が残ってる気がする……)
そしてーーはっと思い当たった。
溺れて意識がなかった自分に、もしかすると、アンリが人工呼吸をしてくれたのかもしれない。いや、絶対にそうだ。
ますます胸が高鳴った。
「もしかして、私の命を助けてくださったのでしょうか」
遠回しに人工呼吸をしてくれたのか聞いてみる。
アンリは何も答えてくれなかったが、にっこりと魅力的な顔に笑顔を浮かべ、唇に指を当てた。まるで二人だけの秘密だよ、とでもいうように。
ーーアンリはその男女の域を超えた蠱惑的な美しさから、騎士内でも、とても人気のある人だ。
彼から人工呼吸を受けたとなれば、熱狂的な彼の心奉者から、やっかみを受けかねない。きっと自分のことを心配し、真実を明らかにしないことにしたのだろう。
(なんてお優しい方なんだ!)
この方の望むとおり、絶対に誰にも言うまいと心に決めた。
(この温もりは、墓場まで持っていこう)
そう、これは二人だけの秘密なのだから。
「……」
そのアンリの後ろで、いつも冷静かつ穏やかな態度を崩さない第一陣営筆頭騎士が、今まで見たことがないほど機嫌が悪そうな顔をしている。
彼は何故か、腕で口元を荒っぽく拭うと、ぼそりと呟いた。
「アンリ、君は本当に最悪だな……」
と。
みなさま、お互いのことが苦手なはずなのに、なんだか気になって仕方がない系TS男女はお好きですか?
私はーーマイナスな印象から始まるラブコメも好きです!
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⭐︎明日26日は更新をお休みし、25日に次話を投稿します⭐︎




